第472話 青い彗星だってさ。

 レミは、鬱憤を吐き出し切って、怒りのピークを越えた。そして、次のターンは、めぐみだった――


「本当に、次から次へと……レミさんが、地上に降りて来たのも、元はと言えば、私の縁結び。行動すればするほど『目に見えない縁の糸』が絡むのよねぇ……」


「分かるわぁ」


「大体、恋の女神なんて、聞こえは良いけど、文子さんみたいなものよ」


「文子さんて、誰?」


「神社に寄進してくれる人なんだけどさぁ……お見合い活動している分け。それだって、結婚して子供だって居るの。私なんて、自分の時間を奪われて、恋愛なんて考える事さえ出来ないよ……」


「めぐみお姉ちゃん、まだ若いんだからさぁ。幾らでもチャンスは有るお……」


「チャンスねぇ……キュンキュンするような恋愛に立ち会うのは気分も良いけど、クセの強い恋愛ばかりだもん……ところで、話は変わるけど、私が地上に来る事になった、原因なんだけどさぁ……」


「何それ? それって、重要じゃない?」


「うん。何故か、救世主が地上に現れて、それで、起こるべき事故が、回避されたって事なんだけど……」


「救世主?! どうして、そんな事が、分かったの?」


「え? 今さっき、会って来たから」


「それって……マッチョなタイプ?」


「違う違う。ミクちゃんって云う、小さな女の子なの。しかも、父子家庭なの」


「まぁ……」


「んで、逃げた女房が曲者で、ヤヴァイ女らしいのよねぇ……」


「それで?」


「いやぁ、そのヤヴァイ女を探しに行こうって話になって、鬱なのよ」


「そうなのね……でも、その救世主と母親には、ちょっと興味あるわ」


「レミさんまで、そんな事、言うんだからなぁ。アマテラスは消息不明、伊邪那美様は御懐妊でしょう。次から次へと変な事ばかり起こるのよねぇ。それも、全部、私のせいで。もうさぁ、嫌になっちゃうよっ!」


 大人しく話しを聞いていた七海が、テーブルを叩いた――



 ‶ ダァア―――――――ンッ! ″



「黙って聞いてりゃ、大の大人が、グズグズ、グチグチ、文句垂れやがってっ! 甘ったれてんじゃぁねぇやい――――っ!」


 店内の空気は水を打ったように静かになった―—


「ったく、神様がそんなんで、人間が救えるか? おぁ? 笑わせんじゃねぇやいっ! 辛くたって苦しくたって、人間は、皆、一生懸命、生きてんだおっ!」


「すみません……」


「サーセン……」


「何? サーセン? 謝る時は、ちゃんと謝れっ! ビシッとしろやっ!」


「すみませんでした」


「まぁ、わかりゃ良いけど」


 七海は、素面だったので、聞き流す事が出来なかった。心はまだ子供の純粋さを持っていたので、心が傷付き、怒りが爆発した――


「おい、そこのオッサンっ! 何で、会社で部下に舐められるのか分かってんのか?」


「七海ちゃん、他のお客さんに絡んじゃ駄目よぉ……お騒がせして、すみません」


 めぐみが、場を取り繕うと、尚更、頭に来た――


「お前が、舐められんのはなぁ、女房に舐められてっからだおっ!」


「ひぃっ、あぅ……」


「家に帰って、女房の顔色なんか伺ってっから、それが、表情や態度に出るんだおっ!」


「はい……しかし、お嬢さん、それは……」


「言い分けなんか、聞きたくないおっ!」


「でも、どうしろと……?」


「聞き分けの無い女房の頬を、ひとつふたつ張り倒して、背中を向て煙草を吸えば、それで何も言う事は無いんだおっ!」


 店内のオッサンは、大合唱になった――



 ‶ そんな、格好良い事、出来るかぁ―――――――――――いっ!! ″



「あんだと? 揃いも揃って、ヘタレがっ! 根性無いんか? それで良いんか……」


「七海ちゃん。あのね、酒飲みって言うのはぁ、皆、心を病んでいるのよ」


「だって、愚図ったって、しゃーないじゃん。若者はなぁっ! こんな世知辛い世の中で、小さな夢の欠片を拾って、希望に変えて生きているんだおっ! 傷を舐め合ってっから、舐められるんよっ!」


「七海ちゃんっ! 正論を言うのは、御法度なのっ!」


「そう。それを言っちゃぁ、お終いよぉ。苦しみ、悲しみを、酒で流して、明日から、頑張ろうって事なのよ」


「納得いかねぇ――――なっ!」


「七海ちゃんは、元ヤンだからなぁ。あんたは、気合が入って居るかもしれないけど、結局、苦しみからは逃げられないのよ。だから、愚痴のひとつも言いたくなるの。分かった?」


「はぁ……大人になりたくねぇ――わっ!」


「あっ! そうだ、元ヤンと云う事は……」


「あぁ? 何よ?」


「あんた、走り屋に友達って居る? いや、居るよね?」


「居なくは無いけど、系統が違うんよねぇ。で?」


「さっき言った、救世主のパパが、元走り屋なのよ」


「ほぇ? マジで? 何処よ?」


「八王子」


「つ―事は、大垂水、甲武トンネル、奥多摩だな。ヤビツ、正丸辺りも範疇かも」


「あぁ。やっぱ、詳しいねぇ」


「まぁな。蛇の道はスネークだから。あっシらは、族だから目立って煩いんよ。奴らは、人目を避けつつ峠でスパークな。共通項は、どちらも違法行為って事」


「ロクでもねぇなっ!」


「まぁな。若気の至りだから。で? 素性が知りたいん??」


「うん。何か、情報があれば」


「マシンは?」


「えっと、確かFDって言ってた」


「ヒュー。ヤバいなぁ。ギンギンのバリバリだお? 名前は何つ―の?」


「佐藤大樹」


「佐藤大樹? イニシャルはDだなぁ……まぁ、ちょっと聞いてみるお」


 七海は、ケータイを取り出すと、昔の仲間に連絡した――


「あ、もしもし、あっシだお。久ぶり。夜遅くにゴメンね。うん、元気。えっ? あー、うん、そうなん? 良かったじゃんよ。アハハハ、ところで、聞きたい事が有るんだけど? 走り屋の佐藤大樹って知ってる? え? 八王子。うん、うん、FDよ。え? あーそうなんだ……はい、はい、分かった、サンキュ。え? そうよなぁ、また今度、遊ぼうぜ。じゃあねっ!」


「七海ちゃん、人脈、持ってるんだねぇ」


「まぁな。この位の事で、総長の力は借りないんよねぇ」


「んで?」


「佐藤大樹、イノセント・ブルーマイカの雨さんチューン。峠の走り屋連中からは『青い彗星』と呼ばれていたらしいお?」


「へぇ。それって、凄いんだ?」


「そりゃぁ、ポートやってるだろうから、ハンパ無い速さだと思うよ。峠を走らせたら、敵無しだったってよ」


 めぐみは、クダラナイ情報を仕入れてしまったと後悔しつつも、佐藤大樹とミクちゃんの事が、気になっていた――







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