第470話 時間泥棒を捕まえろ!

 珠美は、めぐみの爪先から頭のてっぺんまで、ジロジロと舐め回す様に見ると、ニチャ——ッと、笑った――


「なに笑ってんのよっ! 気持ち悪いわねぇ」


「クックック。結局、お前も和樹さんには相手にされねぇか? 男日照りは辛いよなぁ」


「馬鹿だなぁ。あんたみたいに、求めても求めても、振り向いて貰えない、モテない、お多福じゃ無いんですよぉ――だっ!」


「あんだとっ!」


「あのな。私は、基本的に『恋の女神』なの。自分の事は、後回しに決まっているのよん」


「ふんっ! 格好付けちゃって、感じ悪いなぁ、お前」


「はいはい。何とでも言いなさいよ。その上、私は『時の女神』に昇格する事が決定しているから」


「あぁ……それは凄いよ。マジで、凄いよ」


「もうさぁ。忙しくて、嫌になるの。分かる?」 


「良いじゃないの、大活躍で」


「良い分け無いよ。結局、縁を結んで行くと、切れる縁が出て来るし、絡んだ縁も出て来るの。その結果、過去と未来に行く破目になるのよ? もう、最悪なのよ」


「ちょっと、悔しいけど、やっぱ、お前って……凄い奴なんだなぁ……」


 珠美の眼差しは。尊敬に代わっていた――


「珠美。さっきの話に戻すけど、ヤバイ女って、どう云う事?」


「あぁ、だからさ、よくある話よ。男が出来て、逃げたのよ」


「それだけ


「まぁ、知りたいなら教えてやるけどよ……子供が出来て、出産したら育児放棄だろ? ここまでなら、単に悲惨な話なよな? ところがさぁ……」


「何よ?」


「何って、大ちゃんと結婚して、妊娠している時に、同時並行で付き合っていた男が居たって事なんだよ」


「あらら……」 


「つまり、托卵の可能性が、否定出来なくなっちゃうんだなぁ」


「おいおい、まさかだろ?」


「本当の父親が誰なのか分からないのよ。噂では、複数の男と関係が有ったと言う事だから、尚更、ややこしいんだよ」


「マジか? 複数って、最悪じゃね?」


「今も、居所は分からないし、自由奔放な女って言えば、聞こえは良いけどさぁ、周りの者は、堪ったモンじゃないよ」


「ミクちゃんの父親も不明、母親の居所も不明かぁ……」


「どえっ! お前、何で、ミクちゃんの名前を知ってんだよ?」


「何でって、私が、地上に降りるトリガーを引いたのが、ミクちゃんだったと云う事なのよ」



 めぐみは、「運命の日」の出来事を珠美に説明した――



「そう云う事かぁ……縁結びの力で引き寄せてしまった運命だなぁ……それで、どうするんだよ?」


「さぁね。母親を探し出して、父親を特定する意味が有るのかさえ、分からないし……」


「そりゃぁ、探してみなければ、何も分からないからねぇ……」


「だけど、探し出して、皆が、不幸になったら意味ないでしょう? 佐藤大輝が幸せなら、それで良いじゃない? 彼とミクちゃんの幸せを壊す権利なんて、人間にも……神様にだって、無いんだよ」


「そうだなぁ……お前、優しいんだなぁ……良い所あるじゃん」


「今頃かよっ!」


「だけど、世知辛い世の中だよなぁ……私もさぁ、田植えをして、腰を下ろして、稲を眺めていると……水面に青い空と、真っ白な雲が流れて行くのが映ってさぁ。本当に綺麗なんだよ。おにぎりを食べて、ポットのほうじ茶を飲むと、身体の芯からホッとする分けよ。人生って、これで良いんだって、これが生きるって事なんだって思えるの」


「何よ? 急に……」


「なぁ、めぐみ。農業は良いぞ? 本当の、人間の暮らしって、奴だからよ」


「農家の嫁にでもなれってか?」


「違ぇ―よっ! 日本人は、もう一度、原点に戻るべきだと思うんだよなぁ。私」


「おっと、ヤヴァい、ヤヴァい。私に戻させようとしてるでしょう?」


「いや、マジで、農業を捨てたら、人間は、お終いだぞ? だから……」


「良い話をしつつ、共感をさせて人を利用する魂胆だな。おうっ! こちとら、まるっと、お見通しでぇいっ!」


「ぐぬぅっ! バレたか」


「昔の日本に戻そうったって、私が大変なだけだからねっ! お断りだよっ!」


「だけど、日本の農家は大変なんだよ……」


「私に肩代わりしろってか? あのねぇ。大体、私は、ゲーミング・チェアに座って一日中ゲームをしたり、アニメを観たり。たまに稽古したりするのが良いの。基本的に、怠け者なのっ!」


 珠美は、肩を落として落胆したが、イベント会場に沢山のお客さんが来た事で、忙しさで気が紛れた。そして、めぐみも一生懸命、接客をして、大盛況の内にイベントは終了した――



「はぁ、終わった、終わった。忙しかったなぁ……有難うよ」


「あんたの活動は、人間の役に立っているからね。手伝い甲斐があるよ」


「なぁ、めぐみ。さっきの話、今直ぐじゃなくても良いからさぁ……考えておいてくれよ」


「まぁ、考えるだけならタダだからねぇ」


「サンキュ」


 珠美は、照れ臭そうに微笑んでいた。憎まれ口を聞いても、めぐみは、決して見捨てないと分かっていた。そして、後片付けをして、帰り支度を済ませた――


「めぐみ。最後に、言っておきたい事が有るんだけど」


「何よ?」


「いやぁ、ミクちゃんがさぁ。ちょっと、気になる事を言っていたんだけど……大ちゃんが、寝坊ばかりするって、困っていてさぁ……」


「え? あ――ぁ。それで、目覚まし時計を持たせたのね」


「それがさぁ、大ちゃんが、寝坊をするのは『時間泥棒に、時間を盗まれているからだよ』って、可愛い顔をして、言っていたんだよなぁ……」


「何だってっ!?」


「まぁ、気の所為だと思うけど、ちょっと気になったからさぁ。時間を操れるお前なら分かるかもしれないと思って……じゃあ、帰るわ。有難うな、またよろしく頼むよ、じゃあなっ!」



 めぐみは、只ぼんやりと、珠美を見送っていた――


「これは、臭うな……」



 〝 ピピッ、ピピッ、ピピッ! ピピッ、ピピッ、ピピッ! ピピッ、ピピッ、ピピッ! ピピッ、ピピッ、ピピッ! ”



「あぁっ! ショーティ。今の話し、聞いていたの?」


「めぐみちゃん、その時間泥棒のせいで、社会のリズムが狂っていたんだよっ! そいつを捕まえないとダメだよっ!」


「うーむ。ショーティの嗅覚は、正しかったと云う事か……」



 めぐみは、社会のリズムを狂わせている、時間泥棒とは、一体どんな奴だろうと、思いを巡らせていた。そして、その頃。レミもまた、リズムの狂いに頭を痛めていた――





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