第26話 避けている理由
カスミとサッカー部の練習が終わるまでスマホアプリで遊んでいた。
ようやくとサッカー部の練習が終わりかけたのでカスミと別れて校門前で待つ。
待っていること数分。南志見の姿が見えてきたのだが、彼はサッカー部の仲間たち──南志見、島屋、佐藤、もう一人はわからん。モブくんとしておこう──と帰宅するみたいであった。
しまったな……。そりゃそうか。いつも一緒だし。仕方ない。今日の接触はなしにして出直そう。
スマホを取り出してカスミに文章を打つ。その間に南志見のグループが俺の前を通って行く。
「あ、高槻じゃん。またな」
「んお? 田中くん。またな」
「佐藤だよ!」
唯一、佐藤だけが手を挙げてくれたので俺も手を上げ返す。
サッカー部が去り『今日は間が悪いから、また今度接触するわ』という文章を作り、カスミへ送信しようとした時だ。
「高槻」
爽やかな声が聞こえてくる。
振り返ると、制汗剤のCMに出てきそうなイケメンが立っていた。イケメン過ぎて、シンプルに殴りたいと思った。
「南志見」
「ちょっと話し……できるか?」
予想外の展開だったので、ふざけるかどうか悩んだが、相手は真剣な顔をしていたので素直に「おお」と頷いてしまう。俺らしくない回答だった。
※
住宅街にある児童公園。児童公園と言っても、昨今は遊具が危険だとかなんとか言って撤去されまくっている。そのため、ほぼ広場と化した公園。そこのベンチに腰かける。
「なんでここ? 話しなら店とかでも良かったんじゃない? 都合よく学校前には店がたくさんあるんだし」
「すまない」
言いながら、いつのまに買ったのか、俺に缶コーヒーを渡してくる。
それを素直に受け取る。
「誰にも聞かれたくない話しだったから。学校近くは避けたかった」
「ふぅん」
俺は缶コーヒーのプルタブを開けて生返事をする。
秘事の話しで、学校の連中にも知られたくない話し。まぁ大方予想はできるが──。
「まずは──。今日はいきなりごめん!」
開幕早々、いきなり最敬礼で謝ってきやがった。
「つい、カッとなってしまったんだ。それは別に高槻や、高槻の彼女? のせいじゃない」
「いや、それを言うなら俺らが悪い。ふざけた手紙出して、呼び出しくらえば機嫌も悪くなる」
「違う。そうじゃない」
南志見は予想通りの答えを言ってくれた。
「その……噂のことで、カッとなって……」
やはり噂のことでイラついたか。予想はしていたが本人の口から聞けたのならそれが真実だ。
さて、次の真実を聞いてみるか。
「その噂のことで俺も話しがあったんだ。だから南志見を呼び出した」
「そう……だったか……。話しってのはなんだったんだ?」
そこで悩んだ。正直に小山内さんのことを聞くか、遠回しに島屋のことを言うか。
今日会った初対面の俺に『小山内さんのこと好きなの?』と恋愛の方へもっていくのはまだ彼との時間が足りなさすぎる。
それは初対面のバイト先の女の先輩に『彼女いてんの? せやんな、いてないわな。あ、勘違いせんといてな、まじで自分のこと狙ってないから。そりゃ自分みたいなんいてへんわね』って言われるくらいうざい。こんな奴がガチでいるからうざい。そういう奴に限ってブスやから。ほんま。綺麗な人って性格いいよね。ブスは捻くれすぎ。ねじれすぎだわ。マジで。
──つまり、初対面で恋愛話はNOだ。
ここは作戦通り、島屋のことを軽く言っておこう。
「噂のことだけど、それ広めたのサッカー部の奴らしんだよ。正直困ってる。俺は小山内さんとは付き合ってないから。そこでサッカー部の南志見に相談しようとしたんだよ」
俺の言葉には色々な矛盾がある。
なぜサッカー部の奴が噂を広めたのを知っているのか? 知っているのならなんで当人に言わないのか? 当人に言っても無駄だったのなら、なぜ南志見なのか? 佐藤と知り合いみたいだし佐藤でも良いのではないか?
粗探しをしようと思えばできる不完全な言葉。俺の頭の中では矛盾に対する的確な答えを探すのに必死だった。
「島屋か……」
「へぇ?」
意外にも矛盾への指摘はなく、南志見は困ったような声を出した。
「実は……話しってのはそのことでな」
南志見は苦笑いを浮かべる。
「初対面の高槻にこんなこと言うのもキモいって思うかもしれないけど、噂になっている高槻だから聞いて欲しい」
「うん」
頷くと、南志見が語り出す。
「実は、俺と小山内──円佳は幼馴染なんだ」
知ってる。もはや知っている情報。しかし、もし仮に俺が知らなかったとしたら、だからなんやねんな情報だな。
「その幼馴染を島屋が好きになった。サッカー部の仲の良い俺たちに相談してきたんだよ『小山内が好きだ』って」
「なるほど」
佐藤と初めて絡んだ時、俺と小山内さんのことを聞いてきた。その時『俺じゃない』と聞こえてきたから、てっきり南志見のことだと思っていたが、あれは島屋のことだったか。
「それからすぐくらいに島屋が『高槻って奴と小山内が付き合ってるらしい』って言ってきてな」
それを言うサイコパスの顔が容易に想像できる。
「島屋は続け様に『それでも、噂なんかで俺はめげない。俺は小山内が好きだから』って熱く言ってきてな……」
それをいやらしい顔をして言い放つサイコパスの顔が容易に想像できる。
「なんとなくわかるんだ。あ、こいつが噂広めたなって」
多分顔に出てたんだろうな。
「でも……そこまでしてでも円佳を好きなのかって考えた時、俺は? って疑問に思ってな。島屋は良い奴なんだ。サッカー部の仲間なんだ。幸せになって欲しいって思う。だから──」
「結局南志見はなにが言いたいんだ?」
俺は立ち上がり、缶コーヒーを一気に飲み干した。
南志見が小山内さんを避けている理由もわかったのではっきりと言ってやろう。
「簡単に言えば、友達が片思いの相手を好きになってどうしようってウジウジしてる男子ってだけだろ?」
聞くと「そ、それは……」と南志見が狼狽える。
「簡単なことだ。お前が小山内さんを好きなら告白する。なんとも思ってないならなにもしない。シンプルな二択だろ」
「お、俺は……! 俺は、島屋と円佳が付き合うのは見たくない。でも、島屋は仲間だし──」
「仲間だから、友達だから幸せになって欲しいって言うのは、お前はただ怖いだけだ」
「怖い?」
「友達を失ってしまう」
いや……。と俺は首を横に振る。
「居場所をなくすことによる恐怖だ」
「そ、そんなこと……」
「いや、ある。人間誰しも一人は嫌だ。だから友達を、仲間を作って群れる。友達や仲間を作るのは人によっては難しいかもな。でも、部活とかのコミュニティに入れば案外簡単にできる。簡単にできるけど、一度仲間外れにされてしまったら、もう一度群れるってのは難しい。お前はそれを知っている。もし恋人を作ってしまったら居場所がなくなってしまうかと恐れている」
だから、と缶コーヒーを投げてゴミ箱に入れた。
「お前は問題を勝手に複雑化して、悩んでいるふりをして時間の経過に頼っているだけだ。ただ『円佳が好き』って単純なことから逃げているだけだ」
「そんな簡単なことじゃ──」
「お前の深層心理はどうだか知らんが、第三者からすればそれだけの話しだ。片思いの男子の話しを聞かされているだけだ」
両片思いと皮肉を言いたいが、ここで言うのは違うだろう。
「もし、居場所をなくすかもで怖くて思いが伝えられないなら安心しろ」
俺は優しく南志見を見た。
「居場所がなくなったら俺のところへ来い。俺がお前に居場所を作ってやるから」
言い放って、俺は公園を後にした。
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