第16話 告白は大事な儀式

「昼間のレンレンふざけすぎじゃなかった?」


 放課後の文芸部室。うん。もはや、俺らの部屋みたいになっている部屋でカスミが少し怒った口調で言い放つ。


 少し、考え事をしていたから「ふぇ?」なんて間抜けな声が出てしまう。


「や……。その……。べ、別に、私みたいな美少女が好きとか……あんなふざけた感じで言われても嬉しくないし……」

「ふぅん……」

「いやいやいや! い、今のは『ツンデレあざっす』ってところじゃない!?」

「ツンデレあざっす」

「覇気がなーい! 覇気ちょうだい!」

「かめはめ○」

「それ違う漫画ー! 同じ少年誌だけど違う漫画ー!」


 カスミが壮大にため息を吐くとジト目で言ってくる。


「佐藤くんも初対面でいきなりあんな感じなら絶対ドン引きだよね」

「いや、あれはあえてだよ」

「あえて?」

「ああ。運動部の男子は大体あんな感じさ。中身がほとんどない会話を投げた方が喋りやすい。特に野球部とサッカー部にはあんなノリで大丈夫だ。問題ない」

「おお。さ、流石元野球部」


 カスミの感心した声に「ん?」と疑問が出る。


「俺、カスミに野球部だったって言ったけ?」

「え!? あー」


 カスミはどこか、あたふたとして「は、はあ!?」と半キレで言ってくる。


「言ったし! だから知ってるんだし!」

「そっか……。したのか……」

「レンレン記憶力リスだね!」

「リスがどんぐりをどこに埋めたか忘れるおかげで年間、何本もの木が成るんだぜ?」

「へえ。そうなんだ。無駄なウンチクは持ってるんだね」


 俺は苦笑いを浮かべて、先程から考えていた話題に変える。


「なあ? 俺と小山内さんって付き合ってるって結構な噂になってるのかな?」

「あー……。そういえば佐藤くんに聞かれてたよね」

「うん。堤もそんな感じなことよく聞かれるって言ってたんだよな」

「堤?」

「佐藤の隣にいたトイレだよ」

「いや、その比喩表現はどうかと……」


 苦笑いをしたあとカスミが「でも」と話す。


「レンレンと小山内さんって、見てても仲良いんだなぁ。って感じだからね。私も聞いたでしょ?」

「そうだな。周りから見れば勘違いされるのか……」

「それがどうかした?」

「可能性としてさ、俺と小山内さんが付き合ってるって噂がサッカー部内で広がってるとしてさ」

「あ。それはありそうだね。佐藤くんが聞いてくるってことは、そういう噂が流れてるかもだもんね」

「それを南志見が鵜呑みにして、萎えた──って考えられない?」

「えー。それで? そんなことで萎えるの?」

「それか、俺に気を使ってるとか?」

「あー。まぁ幼馴染って言っても、結局幼馴染だもんね。そんな幼馴染に彼氏の噂があるなら、家に来るのやめた方が……って気を使うかも」

「だろ?」


 カスミはなにかを考えて間をおくと、口を開いた。


「──あのさレンレン。もう直接南志見くんに聞くのが一番なんじゃない? 避けてる理由とか、彼女いるのかとか。遠回りするより近道だよ」


 それを言われて俺は頷きかけたが、先生の言葉を思い出してすぐに首を横に振った。


「カスミの言う通り、直接『おいラブコメ野郎。お前彼女おんのか? おお? なんで幼馴染避けてんねん? お前、どない神経しとんね? あんな幼馴染避けるとかいてこますぞ? ああ? どやねん? ボケカス』って聞いた方が早いわな」

「その聞き方は私情が挟まってるからダメだよ」


 カスミがもっともなセリフで返してくる。


「でもさ……俺らが代わりに告白するわけじゃない。小山内さんの告白を手伝う依頼だ」

「いきなりのマジトーン。──うん。だね」

「直接聞きに言って『なんでそんなこと聞くんだ?』って聞かれた時、どう答えていいかわからん」

「さっきの佐藤くんとのノリみたいに『じちわぁ。ぽくぅ。南志見きゅんがしゅきぃ』みたいにおふざけで誤魔化すとか?」

「かちゅみぃ。おれはぁ。まちゅめにはなちてる」

「あ、ごめん。やめて。見ててキモい」


 コホンと咳払いをして話を戻す。


「まぁあれだ。南志見もサッカー部だし、多少のふざけた感じは通用するかもな。でも、追及されたらふざけは通用しないと思う。それで『実は小山内さんが──』とか言ってしまったら、いざ告白って時、なんか告白が軽くなっちまわないか?」

「あー。なんかあいつが言ってたなぁって多少は思うかも」

「あくまで、告白するのは小山内さんだ。俺らが南志見を知ってるって言うのは避けておいた方が良いだろ? これは依頼であって俺らの問題じゃないし」

「あー。だからさっき佐藤くんに聞きたいこと聞かずに、喋りたかっただけって言ったんだね。私たちが南志見くんを知ってるって思われないために」


 コクリと頷いて俺は椅子に深く座る。


「告白って大事だからさ。手伝うのは俺はアリだと思う。でも、告白を軽くしてしまう手伝いはだめだ。告白は重くないとだめなんだよ。恋人になった時、喧嘩しちゃった日とかにそれを思い出して仲直りの題材になるかも知れない。将来、歳をとった時、縁側で過去を振り返った時にふと思い出すかもしれない。どんな場面でも、告白を思い返した時、それは最高な方が良いだろ? 告白ってのは二人の最高の思い出でないといけないんだ。だから重く、最高の告白じゃないと……な……」

「レンレンって恋愛経験ないって言ってたよね?」

「ふっ……」


 俺は前髪をかき分けて言ってやる。


「ラノベの名シーンを丸パクりだぜ」

「台無し!」

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