第8話 レッツストーキング②
「ようやく部活が終わったか……」
南志見の部活が終わったみたいだ。運動部だから、ガッツリ下校時間までやりやがった。ラブコメ主人公の部活はもっとゆるくあれよ。くそが。
ま、帰ってもやることないから別に良いんだけどね。
「そういえば、カスミは今日用事とかないのか?」
「もしかしてデートに誘ってる? ごめんなさい。レンレンきもいからきもいです」
「よし。ちゃんとツッコむぞ」
「は!? や、やめてよ! 私、初めてなんだから!」
「お前の脳内も、わりかし下ネタだな」
俺の言葉に「あ、や……」と息を漏らす。
「だ、だって! レンレンが挿入式とか貫通式とか言うからじゃん!」
「それに感化されて、眠っていたドエロの本性が現れたと」
「う、うっさい! 違うからっ!」
ドンっと鞄で攻撃してくる。痛くない。どこか気持ちいい。
「キモいこと言ってないで、南志見くんを追うよ!」
「今回はお前からだけどな」
※
「部活終わりにハンバーガー。まるでテンプレみたいなサッカー部員だな」
ウチの学校の前は活性化しており、チェーン店が並んでいる。学校の人たちはチェーンストリートなんて勝手に呼んでいる。ただの一車線の国道だけどね。
昔はたんぼだらけだったらしいが、いつの間にかチェーンストリートになったみたいだ。
ハンバーガーショップをはじめ、カフェやコンビニ、薬局なんかがある。
ウチの学校の前にあるので、ウチの制服を着た生徒が沢山いる。
そこのハンバーガーショップの端の席。そこで南志見の様子を伺う。
南志見を含め、四人のサッカー部員達は、わいわい雑談をしながらハンバーガーやらポテトを口にしていた。
「わあ! ポテトめっちゃおいしい!」
俺の隣に座るカスミがポテトを口にして言い放つ。
「まるで初めて食べる言い方だな」
「や。バカにしないでよ。流石に食べたことあるから。できたては初めてだけど」
「ぬ? 店で食べない派か?」
「まぁ……。それ派かな……」
ふむ。ここはカスミみたいな女子高生の溜まり場だと思うのだが……。そのギャップはアリだな。
「それより、なんで隣に座るんだよ。普通対面だろ。なに? 俺のこと好きなの?」
「いやいや。ないない」
「じゃあなんで隣? この座り方はバカップルにしか許されない領域だぞ」
「そ、そうなの? で、でもでも。こっちに座らないと南志見くん観察できないじゃん」
「それはある。──でも、今はそこまで注視しなくて良いんじゃない? 部活仲間で寄り道してるだけだし」
「わかんないよぉ? もしかしたら、このあと女の子が来るかもしれないよ? 合コンがはじまるかもしれないよ?」
「流石に、ここで合コンはないだろ」
「なにがあるかわからないからね。見ておかないと」
そうは言うもののカスミは「わぁ。ハンバーガーもおいしい」と食事に夢中だ。
だめだこいつ。役に立たない。
「ふむ。まぁ、今のところは女の気配はなさそうだな」
「なんでわかるの?」
「ふふん」
俺はドヤ顔で説明してやる。
「部活終わりから今までスマホを一度も見ていない。彼女持ちのやつは絶対にスマホを見るからな。だから、あの中だと眼鏡のクール系サッカー部員が彼女持ちとみた」
「た、たしかに……。言われてみれば、他の三人は見てるのに眼鏡かけてる人だけ、ちょくちょく見てるね」
「だろ? しかも、あの眼鏡部員は眼鏡かけてるのにイケメンだ。眼鏡かけてるのにイケメンだ」
「なんで二回言った?」
「眼鏡かけてるのにイケメンは相当イケメンだからだ。だからあいつもコロす」
「すぐコロそうとするのやめなよ。ほら、レンレンもハンバーガー食べて落ち着いて」
そう言って食べかけのハンバーガーを差し出してくる。
「おうおう。さすがはコミュ力お化け。間接キスなんてお手のものですか?」
「あ……」
「やはりビッチ。恋愛経験のないビッチ」
「は、はあ!? なんなの!? 善意であげようとしたのに! 私、間接キスなんてしたことないもん!」
「お、俺なんかが初めてで良いのかしら?」
「もうあげない」
ふんっとそっぽを向いてハンバーガーを食べる。
ああ……美少女との間接キスの機会を逃してしまった。
そんなことで落ち込んでいる場合ではない。
「カスミ。早よ食え。奴ら店を出るぞ」
「え!?」
彼らは席を立ち、店を出ようとしていた。
「あ、あ、どうしよ。どうしよ」
「食いながら行くぞ」
「だ、だめだよ。行儀わるい」
「清楚系ビッチかっ! そんなの気にする見た目じゃないだろ」
「あー! 人を見た目で判断した! いけないんだ!」
「おいい! 言うてる場合かっ! 行くぞっ!」
「あ! 待ってよー!」
※
チューチューと、先程のハンバーガーショップで買っていたジュースを飲みながら南志見達の後を追う。
「南志見だけ電車じゃないのか」
他のサッカー部員は駅の方に行ってしまい、南志見だけ徒歩で住宅街の方にやってくる。
家がここら辺なのだろう。
「うっ、うっ」
隣を歩くカスミが、ドンドンと自分の胸を叩いていた。
代わりに俺が胸を叩きたい。
「ほれ。ジュース」
さすがに、本気で苦しそうなのでカスミに持っていたジュースを渡してやる。
それを無言で受け取り、勢いよくジュースを飲んだ。
「ありがとう。レンレン」
「どういたしまして。でも、最近なかなかいないよ? 食べのもの喉に詰まらせる人って」
「だって、食べ歩きなんて初めてだもん」
「そういうギャップ狙ってます?」
「ち、違うから。そんなんじゃないから」
「だよなー。結局、間接キスしたもんな」
カスミは持っていたジュースを見つめる。正しくはストローだけど。
「あああ!!」
「どしたよ?」
「か、かかか」
カスミは顔を赤くする。
「だな。カラスが鳴いてるし、そろそろ引き上げるか」
それに、南志見のやつは家に到着したらしい。
一戸建てが並ぶ一つの家の玄関を開けているのが見えた。
つまり、この隣が小山内さんの家か。
テンプレ的な家で、テンプレ的なお隣同士の、テンプレ的な幼馴染だな。
「違うよっ! か、かん、間接キスしちゃったじゃない!」
「そんなに騒ぐものか?」
「騒ぐよ! は、初めてなのに!」
「おめでとう。これで見た目同様のビッチに近づいたね!」
「ああん! もう!」
カスミは俺にジュースを強引に返してくる。
「いまのなし! ノーカン! キスじゃないもん!」
「だな。キスじゃない。間接キスだ」
「んもー! ああ! なんで私の初めてがこんな人に……」
「他の初めてももらおうか?」
言うと思いっきり足を踏まれる。
「ぐおお!」
「ばか! あほ! レンレン!」
「ぐぬぬ……。俺のことを悪口みたいに言うのやめてよ……」
「うっさいばーかっ! 帰るっ!」
「気ぃつけてな」
ぷんぷんと怒って来た道を戻って行くカスミの後ろ姿に手を振っていると、すぐに回れ右して戻ってくる。
「道わかんない……」
「方向オンチなのね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます