第79話 行方不明5
ルフは地面をえぐったすり鉢状の所に巣を構えていた。
眠っている周りには動物の骨と思われる残骸が散らばっておりとっても気持ちが悪い。まさかあの中に人骨もあるのだろうか。
グッスリ眠るルフには悪いが私達の命がかかっているし、きっとコイツは討伐対象だろう。放って置いてもそのうちカトリーヌに依頼が来るかもしれない。
ライアンが頷いて私に合図した。
私は大岩を頭上でくるっと回すと長方形のそれを横向きに持ち直し槍投げのように構えた。左手を添えながらも足元を確かめ踏ん張ると尖った方を下に向け、寝息を立てるルフへ思いっきり投げつけた。
「ヨシ!良くやった。後は任せて下がってろ。」
見事に岩がルフに命中した事を確認しライアンが立ち上がる。
するともの凄い咆哮を上げながらルフが羽をバタつかせた。
だがその大きな右翼はボッキリと折れ曲がりとても飛べそうにない。
敵の襲来に気づいたルフは飛べないまでも立ち上がり巣から出ようともがいている。片翼ながらもバタつかせた羽によって強い風が巻き起こった。
自分が投げた岩の行方を見ようとのぞき込んでいた私は逃げ遅れ、その風にもまれると巣の中へ転がった。
ルフの動きに気を取られていたライアンが気付いたときには既に手の届かない所にいて、私も何とか下まで落ちるのを止めようともがいたが結局暴れるルフの足元まで転がり落ちた。
ルフが感情のない目で私を見た。
慌てて立ち上がりベルトに差したままだったメイスを探るが見当たらない。落ちる途中でベルトからハズレて少し先にコロコロと転がっていた。
「危ない!」
ライアンの声に顔をあげるとルフがその嘴を私に向けて勢いよく振り下ろして来た。ギリギリで飛び退いたがメイスからは遠ざかった。奴は地面に嘴を突き刺し逃げた私を横目でギロリと見た。
「早く上がって来い!お前がそこにいちゃ攻撃出来ない!」
ライアンの本気の攻撃は強すぎてこのままじゃ巻き込まれる可能性がある。
とにかく上に逃れようと坂をよじ登り始めたが、ルフがまた羽をバタつかせ土煙が立ちのぼり目を開けてられない。風圧で再び巣の底へ引き戻され大きな鉤爪のついた足にぶつかるとすぐに蹴り上げられ飛ばされた。
「ユキ!どこだ!!」
上からは見えないらしくライアンが呼んでいるが、巻き上げられた土埃を吸い込み咳き込んで声が出ない。
周りがよく見えず地面を探ると手に棒状の物が当たった。
メイスだ!
咄嗟に掴み取り顔を上げると間近に嘴が迫って来ていた。ギリギリで避けたが足を引っ掛けた。
「
かなり痛かったが傷口を見る余裕は無い。足を引きずり這うように逃げながら再び見上げるとまさにルフが私を捉え再度嘴を振り下ろしてきた所だった。
駄目だ!避けきれない!!
私は無我夢中でメイスを握り突き上げた。
ルフは今度こそ私を仕留めようと意気込んでいたのか、それともメイスが見えなかったのか、勢いを殺さず私に振り下ろして来た嘴の横スレスレをメイスが通りその目を突き刺した。
それでも勢いは止まらず嘴は私に迫るとメイスを握っていた腕を切り裂き肩をえぐって地面に突き刺さった。
「ユキ!!」
やっと私を見つけたらしいライアンが叫ぶように名を呼んだ。
彼はルフの首を軽く切り落とし私に駆け寄った。
顔も体も自分の血にまみれて倒れている私を見ると彼は驚き、メイスが突き刺さったままのルフの首を投げ飛ばすと側に来た。
「ユキ、大丈夫か?」
私は喉がやられ声は出なかったが重症なのは腕と足だけだ。これならすぐにポーションで治る。
「グッ、ゴホゴホ。」
ライアンに大丈夫そうだと知らせようとして咳き込み口元に手を当てたがそれは血まみれだった。
「血が…どこをやられた!?」
彼は私が血を吐いたと思い慌ててブラウスを引き裂いた。ブラウスの中の体には肩をえぐられていた大量の血が流れていた。
「クソッ、どこだ!」
ライアンがビスチェに手をかけた。
待って待って!違うそこじゃない!
「ち、ちが、ゴホゴホ。」
私は慌てて無事な方の手で彼の手を握って首を振る。
「馬鹿!恥ずかしがってる場合か!」
それでもライアンは止まらずビスチェをグイッと下げた。
「ゔぅー!!」
私は彼を平手で殴った。
彼は一瞬何が起こったのかわからないって顔でやっと止まった。私はすぐにビスチェを引き上げた。
ちょっと見られた気がする…
「肩…の…」
何とかそれだけ絞り出し涙目で訴えた。
ライアンは私の顔と肩を交互に見るとどっと座り込んだ。
「血を吐いたんじゃないのかよ…」
すぐにポーションを取り出し肩と腕にかけてくれ、もう一本を渡してくれた。それを飲んでやっと話せる様になるとホッとした。
「違うって言ってたのに、酷い!」
「何言ってるかわからなかったんだから仕方ないだろ…すまん。」
視線をそらして謝ったけど絶対に見た!
恥ずかしくて死にそう…
気まずくて離れようとして足を怪我してる事を思い出した。
「足もか、それでなかなか逃げられなかったんだな。」
ライアンは私の胸を見た事なんて何でもない感じで再びポーションを取り出し傷を治してくれた。
意識してるのは私だけだ。もういいや…気にするのは止めだ。
なんだか血を流した足より腕より肩より、胸が痛い気がした。
気のせいだ…きっと。
「結局ユキがひとりで倒しちまったな。」
ライアンは手持ち無沙汰な感じでルフの首無し死体を眺めながらこぼした。最初は私はルフを飛ばないようにするだけのハズだったのに。
「そう言われればそうね。」
「とてもレベル10とは思えんな。」
ライアンが笑いながら言う。きっとルフなら討伐対象だろ。
「ルフだとレベルいくつになるの?」
「そうだな、レベル60ってとこか。」
おぉ、私って凄くない?…でも寒い!
さっきライアンにブラウスは破られちゃったし、そもそも血まみれの
「どこかで体洗えないかな。」
ライアンはマントを着るように言ってくれてるけど唯一の防寒着を血で汚したくない。
「面倒くさい奴だな。」
ライアンが死んだルフからメイスを引き抜いてくれ、二人してルフの巣から出るとここから近い川の方へ向かって歩き出した。巣に沿ってぐるっと曲がると目の前にどうにも不自然にドアがついた洞窟の入り口があった。
「嘘でしょ、こんなに違和感いっぱいでいいの?すぐ見つかるじゃない。」
「ルフの巣の側なんて誰も近寄らんと思っていたんだろう。」
それは明らかに怪しく、きっと間違いなく正体不明の奴等のお宝発見だろ。
ライアンは乱暴にドアを蹴破ると中に入って行った。私もそれに続き洞窟の中に入って驚いた。
「あぁ…やだやだ。怖すぎ。」
明かりの魔石で照らされたこんな光景を見て手ぶらで帰ったりしたらきっと酷く叱られる。
「厄介な奴等だ。こんな事にオレを巻き込むとは。」
そこには簡単に言えば『金銀財宝』がギュッと押し込まれていた。入り口はさほど大きくないが中は奥深くへ保管場所が広がり目が痛くなるほど眩しい。これだけあると返って嘘っぽくて冷静になってしまう。
「なにか着れる物ない?」
いま必要なのは財宝では無く服だ。ついでに防寒具もあればなお良い。だか願いも虚しく服はない。いつだって欲しい物はなかなか手に入らないのが人生だ。
「これは水を汲み上げるのに丁度良さそうだ。」
ライアンはそう言うと見事な装飾の花瓶のような物を持ち上げた。ゴテゴテと宝石がついていたそれに、その辺にある荷物を結んである紐を切るとくくりつけた。
私は体を拭くものがないかと探し何かが入って入る布袋を見つけ、中身をそこらの箱にザラっと出した。キラキラした何かだったが今の興味はこれで体が洗えるかって事だ。
おおよそ体を洗う物とは思えないベルベットのような手触りのそれを手に再び川を目指した。
相変わらずの激流だがライアンはそっときらびやかな
「ほら、口に含むなよ。」
「わかってるわよ。」
濁ってはいるが無いより全然マシな水にさっき手に入れた布を入れ絞ると顔を拭いた。顔についた土のザリザリとした感触が気持ちが悪い。何度かくり返し顔はマシになった。
「もう一回お願い。」
再びライアンに水を汲んでもらい今度は体を拭こうとしてふと顔を上げた。
ジッとこっちを見てる。
「あっち向いてくれない?」
いくらあなたが私の裸に興味が無くたって恥ずかしさは消えない。
嫌な顔をしながらライアンは私に背を向けた。
丁度いいからビスチェを脱いで体を拭き、バケツに脱いだビスチェをつけるとバシャバシャ洗った。血まみれで気持ち悪かったのが多少キレイになった。
良し、と納得するとライアンからマントを奪いそれを着ると中からギュッと握って前を閉じた。
前ボタンがないからこうしないと見えちゃうよ。
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