第66話 西の隣国エストート5

 駆けつけたケイからハイポーションをもらうとすぐにレブにかけた。もう一本をケイがレブの口へと流し込む。

 

「レブ!しっかりして!」

 

 体を揺さぶり意識を取り戻させようとする。流石に死んでしまっていてはハイポーションでも無理だ。

 

「あぁ…ユキ様は…無事ですか?」

 

 死にかけて目を開けた第一声が私の心配かよ。

 

「もう、自分の心配してよ。」

 

 レブはムックリ起き上がると私の破れた服と腕から流れる血を見て嘆いた。

 

「あぁ、なんて格好ですか、ユキ様こそご自分の腕を先に治して頂かないと私はここで生き残ってもシルバラで死にます。」

「早くポーションをかけろ。ライアンがなんていうか。」

 

 レジナルドが自分のマントを私に着せながら慌てて駆けつけてきた部下からまたポーションをもらうと私の腕にかけてくる。

 

「なんでここでライアンが出てくるのよ。」

 

 腕を治してもらいながらも、なんだかムカついて口を尖らす。

 

「私は命じられておりますから。」

「オレは余計な火の粉をかぶりたくないだけだ。」

 

 残りを飲むよう口に押し当てられいやいやながら飲んだ。

 

 相変わらずマッズい。

 

「レジナルド!いるのかい!」

 

 部屋の中からカトリーヌが叫んでいる。

 

「今行く!」

 

 彼は素早く崩れた壁から部屋に飛び込むとすぐにジャービスの腕を掴みながら戻って来た。何をされたのかジャービスは震え上がり隠れるようにレジナルドの後ろへ回っている。

 

 続いてカトリーヌも来ると私達をチラッと見た。

 

「時間がかかりすぎだ、急ぎな。」

 

 そう言って立ち止まらずに歩き続ける。

 

「レジナルド、国王に言っときな。思ったよりも手間がかかった、追加の費用を請求するからミスリル鉱石で払えってね。密輸品の中にあるはずだ。」

「国王?エストート国王からの依頼だったんですか?」

 

 驚いてそう言った途端、クラリとした。

 

 忘れてた…ケルベロスの唾液には毒があるんだった…

 

 そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 戦っている最意中は気が高ぶっていて耐えれていたのだろうか?

 気がつくと口の中にポーションよりもひときわ不味い味が広がり目が覚めた。

 

「ユキ様が気が付かれました。」

 

 馬車に揺られどこかへ向かっているようだ。

 助けられながらゆっくりと起き上がると目の前にカトリーヌとレジナルド、ケイが座り。私はレブの膝に頭を乗せ横になっていたようだ。

 私が座るとケイが場所を移動しレブの隣に座った。レジナルドが私の様子を見ている。

 

「もう大丈夫か、ユキ?今、国境に向かってる。」

 

 多分、国と国を直接繋ぐ魔法陣は公式には存在しない事になっているのだろう。

 いつの間にか服も着替えさせられセンスの良いコートも与えられている。馬車も広くて高級感がある。きっと貴族仕様だな。

 

 彼は話を続ける。

 

「ゆっくりして行けと言いたいが非公式な訪問だし、これ以上遅くなるとプラチナ国からの問い合わせも入り面倒になるだろう。

 帰ったらオレは親切だったとライアンにちゃんと言っとけ。」

 

 馬車に揺られながら今回の依頼がエストート国からアレクサンダー王経由のものだったと聞いた。

 

「ジャービスは国内の有力者と繋がりがあったようでなかなか尻尾を出さないからカトリーヌに依頼が行ったようだ。蛇の道は蛇って…まぁ、そんなとこだろう。オレも聞かされてなかったがまさかケルベロスを手懐けていたとは驚きだよ。」

 

 レジナルドは自分が蚊帳の外だった事に不満があるようだった。

 

「勇者には王に次ぐ権力が与えられる。だが勇者に準ずる者はそこまでのものはない。こき使われるだけで知らされない事も多い。」

 

 勇者に準ずる者とは言わばレベル99の者のことを指すらしい。レベルは達しているだろうけれど魔王は倒していない。認定はあくまで勇者予備軍ってところらしい。

 

「エストートの王は若い。自分の在位中に国内に魔王出現を経験した事がないから勇者の存在もプラチナ国よりは軽んじられていからねぇ。まぁ、コイツの性格も軽いからそれも災いしてるんだろ。」

 

 カトリーヌは満足気な顔だ。どうやらエストートの王から追加の支払いが決定したようだ。ミスリル鉱石が手に入ったようだが確か昨日、東の隣国デヴィラドで勝手に採掘して来た物もミスリル鉱石だ。

 

「ミスリル鉱石ってどこでも取れる物なんですか?」

 

 私の問にカトリーヌが余計な事を言うなよって感じで睨んでくる。

 

 アレ?マズかったかな。

 

「ミスリル鉱石は主にデヴィラド王国で採掘されることが多い。あそこの国は山岳地帯が広いからな。まだまだ謎が多い鉱石でどこに存在するのか条件は不明だ。

 だが色々な鉱石が取れるデヴィラド国は偶然他の鉱石を採掘している最中に発見しているようだな。」

「それをジャービスが密輸していたと?」

「そういう事だな。カトリーヌがそれで支払いをって言った事は内密にな。エストートの王はミスリル鉱石をデヴィラドに返すつもりはないようだから。」

 

 なるほど、表に出せない密輸品を要求してお互いに黙ってようねってことか。国同士も色々あるようだな。

 

「かなりの量が持ち込まれているんだ。私が少し位もらってもエストート国の方が儲けたろ。」

 

 黒い笑顔のカトリーヌは結構ボッタクったに違いない。

 労力は弟子と奴隷が払った。つまり元手ゼロでミスリル鉱石、なんていい商売。

 

「師匠、特別手当ボーナスが欲しいです。私頑張りましたよ。」

 

 何せ借金返済中の身だ、しかも債権者はカトリーヌ。千五百万ゴルを何とか減らしたい。

 

「そうだね、ケルベロスをレブの助けがあったとはいえほぼ一人で倒した事は見事だった。レブは魔術が使えなかったしね。」

 

 カトリーヌの言葉にレジナルドがあんぐり口を開けて驚いた。

 

「ユキが一人で倒したのか!?お前何者だ?」

 

 テヘっと笑ってごまかそうとしたが無理だった。

 

「カトリーヌ、弟子だって言ったな?だが魔術師じゃない。何故こんな奴がいるんだ。」

「決まってるだろ、コレを野放しには出来ないから私の弟子にしたんだよ。」

「聞いてない!レベルいくつなんだ?」

 

 普通、腕の立つ者の存在はレベルが上がるごとに注目されるから他国でも注視されるようだ。徐々に名前が広まり、どこそこに腕の立つ者がいるからと自国にスカウトしようと動く事もあるらしい。

 ケルベロスをほぼ一人で倒せる私は突然現れた将来有望な存在らしい。

 

「まだわかりません。」

「わからない?最ダンで働いてるんだろ、いつでも入れるじゃないか。」

「だってまだひと月もいないし。」

 

 もう理解不能だとばかりに呆れられた。

 

「手を出すんじゃないよ、ユキの事はもう王もエクトルも知ってる。」

「チッ、そこまで固められたら無理だな。」

 

 なんだか残念そうなレジナルドは、私をエストートに引き込みたかったようだ。

 危なかった。これ以上訳わかんない事になりたくない。

 

「そんな事よりボーナス下さい!」

 

 話が流されそうになって引き戻した。機嫌の良い今のうちに頼むべきだろう。

 

「仕方ないね、確かに今回はユキにしては上出来だったかもねぇ。特別に百万ゴル与えてやろう。」

「ホントですか!やったー!」

 

 喜んだのもつかの間、カトリーヌは後を続けた。

 

「だが、レジナルドに捕まったことで半分に減額だ。だいたいエストートの騎士なんぞに捕まるなんてたるんでる。

 オマケに私に報告も遅れたからそこから三十万ゴル減、最後に私の上着を駄目にしたんだ、アレは特注で四十万ゴルしたんだ。だから今回のボーナスはマイナス二十万ゴル、ま、追加でエストートからミスリル鉱石が入ったんだからそこは特別になかった事にしておいてやるよ。」

「そんな、コートはジャービスにツケといてくださいって言ったじゃないですか。」

 

 一瞬でも喜んだ私が馬鹿だった。

 私以外の人達は予測済みの結果だったのか誰も何も言わず馬車は静かに国境へ着いた。

 

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