第4話 苦渋の決断
助けに来てくれって事はその場に魔物がいる可能性がありますよね、もちろん。
「魔物が今まさにお客様を襲っている場合なんかは…」
「当然助ける。救助要請だぞ、その為に別途料金も払ってもらってる。」
「ちなみにお幾らですか?」
ライアンはここの料金表を見せてくれた。
………………………………………………………………………
料金表
ご入場 レベル01~10初級 お一人様大銅貨五枚(年齢に関わらず)
レベル11~30中級 お一人様小銀貨ニ枚
レベル31~ 上級 お一人様大銀貨一枚
救助要請用魔石 お一人様(年齢に関わらず)小銀貨一枚(※未使用の場合は半額返金)
パーティ(上限三名)でご入場の場合は全員分が必要です。
…………………………………………………………………………………
「安くないですか!?救助要請!!」
「オレもそう思う、だけどこれが決まりなんだよ。」
小銀貨って確か一万円位でしょ?こっちは行きたくもない所へ、自ら行きたいって奴が行ったそれを助けるのが一万円って!命かかってるのに!
ライアンも不満そうな顔をしているがマルコはニコニコしながらなだめて来る。
「まぁまぁ、救助要請に応じれば別に給料に上乗せがあるんだし。」
「上乗せって幾らですか?」
「大銅貨三枚じゃよ。」
「安い!せめて半額欲しいです。」
私はすかさず内訳を聞いた。
「救助要請用の魔石が大銅貨三枚で、施設利用料が大銅貨二枚、こちらの取り分が大銅貨二枚で実質君達の取り分が一番多いんだよ。」
「なんでカツカツの設定なんですか?もっと余裕のあるようにしておかなきゃ魔石の値段があがったらどうするんですか?」
実費経費があがることはよくあると思うんだけどここでは無いのかな?
「そうなんじゃよ、段々上がってきちゃって今こちらの取り分に食い込んでるんじゃ。まえは大銅貨一枚と、小銅貨三枚だったのに。」
めちゃくちゃ上がってるじゃない。どういう管理体制なんだよ。
「だったら料金上げましょう、それしかないですよ。」
私の言葉にマルコは首を横に振った。
「料金を上げたら救助要請を申し込まない客が出てくる。そうしたら亡くなってしまう人が増える。特に初級レベルに入る人はちょっと油断する人が多いから、子供が犠牲になる事も珍しく無いんじゃよ。」
「こっちがいくら説得しても要らないと言われれば無理強いは出来ないからな。」
ライアンは淡々と話してるけどよくある事なのかも。
「ちょっと待って下さい。その救助要請に私が行かなくちゃいけないんですか?女子なんですけど?」
「性別なんて関係ない。うちは男女平等だよ。」
ライアンがニヤリと笑う。こんな時に男女平等とか要らないし。
「私は魔物なんて倒せませんよ。」
「じゃが見事なパンチでゴブリンの頭を吹き飛ばしておったじゃろ?」
マルコはさっき私がどうせ死ぬなら一発だけでもと繰り出した一撃の事を言い出した。
「あんなのはマグレですよ、パンチなんて初めてしました。」
「マグレで吹き飛ばしたのか?」
ライアンが真面目な顔して聞いてくる。
「凄かったぞ、ワシちょっとチビッたもん。」
それは年のせいじゃない?
「とにかく救助要請に応じるなんて無理ですよ。」
「だがそれが出来ないなら雇う事も出来ない。使えない奴に給料払う余裕は無い。」
ここって国営っぽい感じなのに儲かってないの?
「騎士の昇段試験とか請け負ってるなら補助金とか無いんですか?っていうかここオーナーは誰ですか?」
「オーナーはワシ、と言いたいけどワシの妻のカトリーヌじゃ。」
「個人の物なんですか?」
結構な施設な感じなのに個人で建てるなんて凄い大金持ちなのかな?でも家は普通っぽかったけど。
「最初のオーナーから引き継いでカトリーヌが二代目なんじゃよ。初代オーナーが国中の知識と技術を集めて作り上げた最高傑作なんじゃよ…」
遠い目をして懐かしむように話されても。
「へぇ〜、凄い凄い。」
「感動が薄いのぉ。」
マルコが切なそうな顔をした。
だって最高傑作とか言われてもよく分からないし。上司の話はとりあえず凄いって言っておけば何とかなるって前の部署の先輩が言ってた。
「ゴブリンを吹き飛ばしたのか、お前もしかしてスキル持ちか?」
「スキルもち?」
それって美味しいの?
「とにかく少しの間だけでも働いてもらってワシが貸した金を返してもらわんとばあさんに叱られるんじゃ、面倒みてくれんかのぉ。」
「金貸したぁ?幾ら?」
ライアンが嫌そうな顔で私を見てる。
「今のところ大銅貨三枚だけど…」
「もしかして検問の料金か?って事は、」
「
そう言って目をそらすとライアンはいきなり私をヒョイと肩に担ぎ、さっき通ってきた廊下から外へ出ると肩からそっと降ろし静かにドアを閉めようとした。
「うわぁ〜待って!待って下さい、必ず働いて返します!」
慌ててドアに食らいつき素早く足をドアが閉まらないように入れると必死に締め出されるのを阻止した。
「足をどけろ。いきなり前借りする奴なんか雇えるか。」
「そこを何とかお願いします。」
「女なんだから体でも売って来い。そく金になる。」
「女だから体を売れなんて男女平等をうたう職場の人の意見とは思えませんが?」
「男だっているよ、そこの角から右にずっと行けば店がある。気が向いたら顔出してやるよ。安くしろよ、紹介してやったんだから。」
「絶対にイヤ!お願いしますお願いします、何でもしますから!」
「救助要請もやるか?」
くぅ〜、体売るか、命かけるか…
「…………やります。やりますからここに置いて下さい…」
ガックリと力無く答えると黒い笑顔のライアンがドアを開けて中へ入れてくれた。
「ようこそ、最終試験ダンジョンへ。」
再び雑然とした部屋に戻るとマルコが汚れた机の上の物を脇へ押しやりそこへ一枚の用紙を置くと私を前に座らせた。
「とりあえず十万ゴル貸すからこの借用書にサインと血判押して。」
「血判!?そんな事するんですか?」
私が驚くと二人はもっと驚いた。
「血判しなくてどうやってお前に借金返させるんだよ。逃げちまうだろ。」
「別に逃げませんよ。」
逃げようにもどこへ行けばいいのかわからない。
借用書に書かれてある文言は見たこともない文字だったがやはり全て読める。
「えぇっと、私ユキは最ダンで働きながら借りた十万ゴルを毎月給料から一万ゴル返済致します。滞った場合、もしくは返済困難となった場合はいかなる処分も受け入れますぅ?いかなる処分て何ですか?怖いんですけど。」
「そりゃぁ…好きにされるって事だな。」
ニヤリと笑うライアン。
ヒィ〜、好きにって、売られちゃうとか?ヤラレちゃうとか?ここじゃ内蔵売るとかは無さそうだけど。
「絶対に返します!ところでお給料っていくらですか?」
命に関わる仕事って聞けば高給な香りがするけど救助要請の件一つをとってもいい予感はしない。
「まだ仮採用の見習いだからな、三ヶ月は十万ゴルだな。」
「やっぱり安い!見習い期間が終わればいくらですか?」
「そこからはレベルにもよるから一概には言えんが最低十二、三万ってとこだな。」
「それでも安い!」
思った通りきびし目だな生活出来るのかな?
「そのレベルってなんですか?」
「ここのダンジョンクリアのレベルだよ。ここで証明書を発行して皆が活用してるのに当のこの職場で有効利用出来てないなんておかしいだろ。」
どうやらダンジョンクリアレベルが上がれば給料もあがるらしい。仕事がお休みの日に自腹で挑戦して給料アップを狙わなくては駄目なようだ。社割あるのかな?
「ライアンさんはレベル何ですか?参考の為に教えてもらっていいですか?給料お幾らですか?」
「サラッと人の情報仕入れようとするな。しかも給料の事まで、オレくらいになると情報は秘匿するもんなんだよ。」
ライアンはムッとして答えた。
オレくらいって事は結構強いって事なのかな?
とにかく選択肢は一つしか無いのでこのブラックな香りが充満する最ダンで働く事になった。借用書に血判を押すのを躊躇っているとライアンが嫌がる私の手を無造作に掴み容赦なく針を指し用紙にサインした名前の上にギュッと押し付けた。
「うん?お前、まだこの街に登録手続してないのか?ってそうか金がなかったんだったな。」
「登録手続って?」
わけが分からず尋ねるとライアンはマルコに私を早く役所に連れて行けと言った。
「いや着替えさせてからと思っての。」
その言葉に自分の姿を改めて確認した。
びしょ濡れだったワンピースは湿って生乾きな上、ゴブリンの血液の生臭さもある。パンプスも森を全力疾走したので傷だらけだ。川で洗っただけの髪もきっと酷いだろうし化粧なんて一ミリも残って無いだろう。
「確かに。さっきかなりキツかった。」
顔をしかめたライアンの肩には私を担いだ時のシミが出来ていた。
私のせいじゃないし。勝手に担ぐ方が悪いんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます