第6話
教授を訪ねてから数日後、橘さんの意識が戻ったという知らせを聞いて、僕らは病室を訪ねた。
コンコンッ
「はーい・・・」
塩入さんがノックをすると、橘さんの機嫌の悪そうな声が聞こえた。塩入さんが目で僕に「行くよ」と合図してくれたので、頷く。
「失礼します」
塩入さんが断りを入れて扉をスライドさせる。
すると、包帯だらけで痛々しい橘さんがいた。
「・・・失礼します」
僕も花束を持ちながら、一礼して病室に入るけれど、橘さんは僕と目を合わせてくれなかった。
「意識が戻って・・・良かった・・・」
塩入さんが涙ぐみながら、橘さんの隣に座る。
けれど、橘さんは不機嫌な顔をしている。
「大変だったと思いますけれど、本当に・・・」
「別にあんたの言葉とか聞きたくないから」
僕が喋った言葉を遮り、橘さんが言い切ると空気が凍る。
僕はこういった不幸があったときになんて言うのが適切かなんてわからなかったけれど、一番いいと思った言い方を封じられて固まってしまい、何も言葉が出てこない。仮に出たとしても、考えて来た言葉には遠く及ばない。
「・・・・・・のに」
橘さんがそんな僕の振る舞いもいらいらするようで、何かを呟いている。
「えっ?」
僕は聞き取れなかったので、尋ねる。
「あんたが、乗っていれば、山田くんだってっ!、私だってこんな目に合わなかったのにっ!!!」
「橘さん・・・それは・・・っ」
塩入さんが宥めようとする。
「あんたが死ねばよかったよっ!!!!」
パチンッ
僕は傷つく暇もの無く驚いた。
塩入さんが橘さんに平手打ちしたのだ。
「・・・たぁ、何をするのよっ!!ケガ人よ!!?」
頬を抑えて痛がる橘さん。
「ごめんなさい。でも、簡単に死ねばよかったなんて言っちゃダメ・・・」
「・・・んによっ、あんたが軽傷でなんで私はこんなに大けがなのよ!!」
「でも、生きている。私は橘さんが生きていて本当に良かったと思っているもの」
その言葉に橘さんは虚を突かれた顔をしていた。
「・・・出て行って」
橘さんは気持ちを抑えながら声を絞り出した。
これ以上の長居は無用と思って僕らは花束だけおいて、部屋を出ていった。
「また来るね・・・橘さん」
「・・・」
「あっ、最後に一つだけ。あなたは黒いローブの女の子を見た?」
びくっと橘さんが震えた。
「見たのね・・・何か言ってた?」
「『あなたはどうようかしら?』」
塩入さんを見て、呟く橘さん。
「ありがとう」
塩入さんはそう言って、扉をゆっくりと閉めた。
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