第4話
「あっ・・・鈴木くん」
塩入さんは軽傷だったけれど、念のため精密検査を受けており、僕はそれを待っていた。
「大丈夫・・・じゃないかもしれないけれど、身体は大丈夫だった?」
こんな時どういう聞き方がいいのかわからない。
何せ、クラスメイト、それも一緒に遊んでいた人が亡くなったのだ。
「一応、私にはおかしなところは無かったみたい。橘さんや・・・・・・山田くんは?」
彼女の顔を見ていると痛々しくて見ていられなかった。
「橘さんは重傷だけど、命には別状がないみたい。だから、数か月入院するみたい・・・」
「山田くんは・・・?」
塩入さんも結果が悲しいことであることはわかっている顔で聞いてきた。
「亡くなったよ・・・っ」
「ううううううぅっ」
その場で泣き崩れる塩入さん。
塩入さんはいろんな想いが溢れているようだった。
仲良くしていた山田くんの死。
それもあるけれど、もしかしたら自分が死んでいたかもしれないと言う恐怖、そして安堵している自分、それを戒める自分。顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いていた。身体は確かに軽傷だったかもしれない塩入さん。でも、心の傷はとても大きく残っていた。そしてそれは僕も―――
ゴールデンウィークが明けて、僕と塩入さんは事故の前のように大学へ通学し、授業に出た。
僕は相変わらず、空気みたいな存在だったけれど、塩入さんはいろんな人に話を聞かれた。そして、慰めたり励ましたりしている人たちがいたけれど、中には「塩入さんじゃなくてあいつでよかった」なんて言っている男子までいた。励ましたい気持ちは尊いと思う。けれど、その言葉はダメだ。
その言葉は、抱えなくてもいい自責の念を持っている塩入さんの心を苦しめていた。
塩入さんは精神科へ通院を始めた。
僕は病院には行かなかったけれど、夜に時々うなされたし、人が僕を責めているんじゃないかと視線が怖くなってもいた。
いよいよ僕も大学に行きたくなくなってきて、精神科に通おうとしたら、塩入さんと出くわした。
僕らは公園へと場所を変えた。
「私・・・生きていることにすごい感謝しているの・・・」
「うん」
話をしていると、塩入さんが本音を漏らしてくれた。
「私ってひどいよね・・・」
「そんなっ、塩入さんが悪いわけないじゃないか。ニュースだって設備不良だって言ってたじゃないか」
山田くんのお父さんが遊園地を相手に損害賠償を請求して裁判を起こしている。僕はその法廷を見学に行ったりしていた。遊園地側は日常整備適切であり、部品が不調だったと主張している。ちなみにその部品は山田くんのお父さんの経営している企業の子会社だ。
しかし山田くんのお父さんの雇った敏腕弁護士は数多くの証拠で反論している。ただ、法廷での話と新聞などで書かれている内容が食い違い、新聞などでは遊園地の落ち度の部分しか書かれていない。それも、山田くんのお父さんの会社がスポンサーとして広告を載せていることも大きいに違いない。
僕は大人社会の闇の深さを知った。
でも、それを塩入さんに言うことは差し控えた。
「でも・・・私・・・」
塩入さんはそれでも泣いてしまう。理性が自分の心を宥めようとしても、それでも自分を追い込んでしまうのだろう。その気持ちは・・・
「僕の話を聞いてもらってもいい?」
僕は勇気を出して自分の中に巣食う謎の黒い女のことを話すことを決心した。
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