第18話 不吉を呼ぶ洋菓子


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~石田サイド~


「ご馳走様でした」


石田家は家族四人での食卓。

いち早く食べ終わった石田一樹は手を合わせた後、自分の食器の片付けを行った。

品行方正……坂本家とは次元が違う。



「はい、お粗末さまです。勉強は程々にね?」


「一樹、頑張り過ぎるなよ?」


「うん、分かったよ」


ごめん、お父さん、お母さん……妹に恥じない兄でいる為にも頑張らなきゃダメだからね。

それに勉強は嫌いじゃないよ?知識を蓄えるのは良いことだ。将来にもきっと役に立つ。



「二葉は?」


「ん?なぁにお兄ちゃん?」


「もう直ぐ実力テストがあるだろう?勉強しなくて良いのかい?」


「ちゃんとやるよ。お笑い番組を観た後に漫画読んでからちゃんとする……5分くらい。毎回それで100点だしね」


「………あ、ずるい」


神様は不平等だな。こんなに可愛らしい妹なのに、天賦の才まで与えるなんて……弱点なんて有るようにはとても見えない。感服するよほんと。


でも嫉妬心はない……まさしく何処に出しても恥ずかしくない自慢の妹だ。



──────────



勉強机の上で教科書を開く。

そしていざ勉強に取り掛かろうかと気合いを入れたタイミングで誰かが部屋の扉をノックした。


──コンコンッ



「ん?入って良いよ」


「お邪魔しまーす」


「……二葉か。お笑い番組は良いのか?」


「うん。野球で潰れちゃった……」


「いつの時代の話だよ」


明らかな嘘を吐かれてしまった。

妹は大のお笑い好きで、ネタ番組を毎週楽しみに見ている。今日はその番組が放送される日なのだが……それよりも大事な用が俺に対して有るらしい。


……なんだろう?見当もつかないや。



「……はいっ!」


「……ん?」


二葉は右手を差し出し、手のひらを広げた。


何かの催促……?

それとも漫画でも借りに来たのかな?──でも俺の部屋の漫画なんて二葉はとっくに読み尽くしてる筈だし……何が欲しいんだろう?



「お小遣い?」


「ううん。スマホ貸して」


「ん?急にどうしてだい?」


「また坂本さんにメール送るから──」


「やめろおぉぉぉッッ!!!」


「ええぇ!?どうしたの!?大きい声なんか出したりして??」


「……はぁはぁ」


今の叫びに魂を注ぎ込んだ一樹は、肩から息をするほど体力を削られる。でもそれくらい嫌だったのだ。


あのトチ狂ったメールの内容には送った後で気が付き、一樹はそれはもう大慌てだった。次の日学校で必死に弁明したが、雄治から向けられた正気を疑う様なあの眼差しを一樹は今でも忘れられない。



(──数日かけてようやく誤解を解いたのに、ここで再びあんなメールを送っては元の木阿弥だ。二葉はメールだと阿呆になる。完璧だと思ってた妹に、まさかこんな弱点が有ったとは……いまだ信じられない)



「お兄ちゃん……ダメ?」


可愛くおねだりしたってダメだ。


「ああ、ちょっとな……いろいろあってダメなんだよ」


「いろいろって?」


「まぁその………あっ!そうだっ!冷蔵庫にプリンがあるんだっ!後で食べようと思って買ったけど、食べるかい?」


「ええ!良いの!?食べる食べるっ!」


「そうかっ!じゃあ取って来るから待ってて!」


「うんっ!ありがとうお兄ちゃんっ!」


一樹は部屋を飛び出してリビングへと向かった。目的のブツは冷蔵庫に保管してある、夕方買ったばかりのゴージャスな490円プリンだ。

これだけ高額なプリンを差し出すんだ……きっと良い事が有るに違いない……と、石田はそう信じていた。



「……お兄ちゃん優しい──ん?スマホ置きっぱなしだ……待ってる間に送っとこうっ!お兄ちゃん無用心だからロックも掛けてないんだもんねっ!」


そして二葉は兄のスマホに手を伸ばした。

もちろん悪気など一切ない……だって石田一樹は気を遣って言ってないからだ──


──あの文章が頭おかしいという事実を。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~雄治視点~


雄治はスマホ画面と格闘していた。石田一樹から送られて来たメールを開くのを非常に怖がっている。



「見るのが怖いんだよな……」


あの謎メールが頭に残ってる。

石田は間違えたと言ってたんだが……どう間違えんだよいったい……



「でもアレだけ必死だったし……今回は流石に大丈夫だろうな……?」


もしこれでヤバいメールだったら人間性を疑うわ。


けど待てよ……?

あのメール以外におかしな点は無かったよな……?

てことは本当にアレは間違いだったのかも……あの時は信じられなかったけど、その後の石田はまともで良い奴だったし。


「……開いてみるか」


雄治は恐る恐るメールを確認した。





『やっぴー!よっしー!おっぱっぴー!今日は、な、なんとっ!プレミアムフライデーッ!!明日からお休みぃっ!!でも坂本くんと会えないのが寂しいよぉ~とほほほほぉ~……僕はついてゆけるだろうか……君のいない世界のスピードに──でも大丈夫!ちっちゃい事は気にするなっ!それワカチコワカチコ~!どう?俺ってユーモアに溢れてるだろ?キョーレツ〜!友達になっといて損はないぞ?……つーかさー、最近マジでヤバくね?何がヤバいかって?アレだよアレ!ほらアレアレッ!今から言う口座に一千万振り込んでくれない?って、オレオレ詐欺やないか~いっ!ルネサァ~ンスっ!ハハハッ!詐欺って良いのは詐欺られる覚悟のある奴だけだっ!これからも仲良くしてねっ!俺って基本こんな感じだからさっ!アデユォス!(←カッコつけてみましたっ!)親友ゲットだぜ!独りぼっちにサヨナラバイバイ!俺は雄治と旅に出る──着いて来れるか?シュタタタッ(華麗に走り去る音)』



「………………………………ふっ」








──石田やべぇな。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る