お雛様
あかりをつけましょ ぼんぼりに
お花をあげましょ 桃の花
五人ばやしの 笛太鼓
今日はたのしい ひな祭り
お内裏様と おひな様
二人ならんで すまし顔
お嫁にいらした 姉様に
よく似た官女の 白い顔・・・・
今日は結婚式だ。
「おひな様。」
私を呼び出した花嫁に声をかける。
「あ、お姉ちゃん!」
「…おひな様、私の事をそのように呼んではならないと、奥様がいつも言っておられますでしょう。また奥様に怒られてしまいますよ?」
花嫁は少し頬をふくらませて、いじけたように私を見る。
「大丈夫よぅ。今、私とお姉ちゃんしかここにいないもの。」
「それでも気を付けて下さい。相手方に聞かれていては大変です。知られてしまっては、私の意味がありません。」
すると花嫁は急にしょんぼりとして、小さくごめんなさいと言った。
そしてすぐに笑顔を輝かせた。彼女のいい所だ。
「まり、あのね、お色直しの後の髪飾りを選んでほしいの!」
「でも、もうお決めになったのではなかったのですか?」
「あら、今日はあなたの結婚式でもあるのよ?一緒に彼の家に行くのだしね!それに、まりのセンスは抜群だわ!だから選んでちょうだい?」
「ひな…」
にこにこと微笑む花嫁を見つめ、眩しく感じた。
結局、黄色の大きな髪飾りを選んだ。
きっと、淡い黄色のドレスにその髪飾りと花嫁の笑顔が映えるだろう。
「…では、私はこれで失礼します。」
「うん!ありがとう、まり!」
花嫁は嬉しそうに微笑んで私を見送った。
ドアをぱたりと閉じ、客が待つ大広間へと向かう。
ゆっくりと深呼吸をして、大広間へ入った。
できるだけ平然と大広間を横切った。
こそこそと声が聞こえる。
「…ほんと、そっくりよねぇ。」
「あのみすぼらしいかっこでやっと区別がつくわ。」
「あまり言うと、あれでも一応あちらの家の召使いなんだから失礼よ。」
くすくすと笑う声。
…似てるのは当然。だって元々、私とひなは双子なんですもの。
『双子が生まれた時は、より健康な方が影武者になる。』
私の方が健康だったってだけならいい。
…ひなが本当は治療法もないような病だなんて家族以外は誰も知らない。
花婿がこのことに気付いていて、私の事を気に入っているのも知っている。
ひなを私の代わりにしようと知ってるのも気づいてる。
ひなが花婿をずっと想っていたことも知っている。
だから、私はひなの幸せを願う。
花婿の思いも、家族も思いも知らない。
ひなが幸せであるように。それだけ。
さあ、結婚式が始まる。
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