南都編 その9 チンピラ(上位種)
何にしても現地を見てみないと何も始まらないという事で、昼頃に暇を見つけて訪れた王都のスラムであるのだが
「かなり臭いがきついな・・・」
「アンモニア臭と体臭と何かの腐敗臭を足して割らなかったみたいな臭いですね・・・」
その入り口に立っただけでげんなりしている俺とヤマナシ姉である。
うん?弟の方?あいつは年末からずっとダーク姉妹の店で従業員としてこき使われている。今のとこコレといった用はないからいいんだけどさ。
閉店後は店に泊めてもらえるなんてこともなく普通に追い出されてるみたいだ。
姉にも邪険にされてる割にめげないマゾヒスト疑惑のあるじゃがいもは放っておいて今はスラム街だな。
ここで暮らしてる人間は『ダリア地区』とか呼んでるみたいだけどさ。
まず入り口となる場所が三ヶ所。
貴族地区みたいに外壁があるとかじゃなく、もともと家と家の間が狭いのにくわえて小道が全部ふさがってるので知らない人間が中に入ろうと思えばその三ヶ所しか通れない。
地区内の人間?家とか店の入口とか裏口も使えるからそれほど不便はしてないみたいだ。
そしてその三つの入口も南側にある一つは花街の入り口なのでわりと小綺麗なんだけど残りの二つは圧倒的貧民街になってるんだよなぁ・・・。
ちなみに俺たちが立ってるのは東側の入口なんだけど馬車を降りた途端に臭い。超臭い。あと隠れてるつもりなんだろうけどむっちゃ視線を感じる。
まぁドレスメイド姿の二人と小綺麗な格好の子供が二人でこんなところに来たらそんな反応になるのも当然か。
メイド服姿の二人とはもちろんメルティスとサーラ、魔金製の糸を縫い込んだメイド服は強化のエンチャントが施してあるのでちょっとした全身鎧並の防御力があるし、ドレスで隠れている部分は薄い聖銀製のプレートで補強してあるし、ホワイトブリムには狙撃対策として防壁の魔道具も仕込んである。
てかメイドさんだけど剣は腰に差してる違和感といったらもう・・・太腿にはもちろんシュシュみたいなやつ(ガーターリング)でゴツいナイフを仕込・・・もうと思ったんだけど「閣下、動きにくくて邪魔になります!」って言われたのでシュシュみたいなやつだけにした。
つまりただエッチな見た目になるだけの一品なのである。スカートをめくらないと見えないんだけどね?
そんな女の子を三人引き連れたお金持ちファッションの四人組、王国の善良な一市民である俺が街を歩くのに誰に遠慮をする必要もないのでスラム街の中をそのままズカズカと進んでいく。
思ったよりも広い本通り(?)の両端には間違いなく関わり合いになりたくないタイプの目つきをしたおっさん、おっさん、おじい、おっさん、たまにおばさんが地面にゴザのような物を敷いて、またはそのまま地面にモノを並べて露店の様相。
「・・・ふむ、片方だけのサンダルとか誰が買うんだろう?あとあそこの葉っぱとか葉っぱとか葉っぱを刻んだやつとかただの煙草だと思う?そして姉、歩き辛いから離れろ」
「絶対に無理です!」
ぷるぷるしながらへばりつくな、お前は怯える小型犬か。または回復してくれるスライム。
もちろん購入するものなんて何にも無いけど物珍しくはあるので並べられている品物、八割方ゴミにしかみえないそれらを眺めながら通りをどんどん奥に進んでゆく。
ただ歩いているだけに何か意味があるのか?もちろん
「よお、綺麗なベベ着た坊っちゃんと嬢ちゃん、ここはあんたらみたいな人間が来るところじゃねぇぜ?怪我したくないならそこのべっぴんさん二人ここに置いて帰んな」
「そうだな、汚いボロ着た人相の悪い兄ちゃん、あんたの言う通り確かに俺には似合わない場所だな。そして怪我したくないなら俺の質問に素直に答えてもらえるかな?」
「お、おう?なんだコイツ?この状況で堂々としすぎじゃね?大物なのか、それとも大馬鹿なのか」
こういう連中が絡んでくるのを待っていたのである。
あれだな、チンピラからチンピラを渡り歩いてこのスラムの顔役に辿りつければいいな?って言う『人間版わらしべ長者作戦』なのだ!
そしてちょっと位の高そうなチンピラが『この状況』とか言ってるけどどんな状況なのかと言えば、前に十人、後ろに二十人、左右の建物にもそれなりの人数がいつでも飛び出せるように控えている。
「おお、逃さないように後ろに人数を多く配置してくるとは、思ったよりも賢いのか人相の悪い兄ちゃん」
「売り払う前にぶん殴るぞお前!?」
こちらからは特に何もしてないのに失言をかましてくる兄ちゃん。
さすがに(建前上は)奴隷の禁止されてる王国内で、それも貴族の前で『売り払う』発言はまず過ぎるからね?
「サーラ、あの男に人身売買の嫌疑がある。背後関係の確認をしなくてはならないから殺さないように捕えろ。メルティス、回りを囲む人間の無力化を」
「はっ!」
「了解した!」
いきなり変わった俺達の雰囲気に「なっ!?」と言ったまま動くことも出来ず取り押さえられ、丸焼きにされる前の子豚のような格好で手足を縛られる他の男より少しだけ位の高そうなチンピラの兄ちゃんと多少は反応出来たものの特に反撃も抵抗も出来ずメルティスに転がされてゆく周りを囲んでいた男たち。
転がったまま身動き一つしてないけど気にしてはいけない。剣を抜いてないから血は流れてないしな!
「さて、これよりお前が許される返答は『畏まりました』オンリーだ。もしもそれ以外の答えが出てきた場合は手足が一本ずつ減っていく。ああ、手足が無くなった五回目に間違えたら首が落ちるから十分注意するようにな?」
「お、お前、俺にこんなことをぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
さっそく口答えに入ろうとしたのでサーラが右の太腿から足を斬り落とす。
いや、斬るとは言ったけどあくまでも脅しだからね?わらしべ長者作戦だからね?
表情を変えずにノータイムで足を斬り落とすとかうちの嫁じゃなかったらドン引きである。
いきなりのことで流石に可哀相だから痛みで転がりまわる男の足をつなげてやる。
「少しは状況を考えろよ?いいか?もう一度だけ言うぞ?許される答えは『畏まりました』だけだ、理解できるな?」
「ふ、ふざけんなよこのクソぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
せっかく繋げた足を再度斬り落とすサーラ。
どうしてこういう輩は人の言うことを真面目に聞かないのだろうか・・・。
一度経験してれば二度目も同じ目にあうのはわかりそうなものなのに。
ほら、この子(サーラ)の顔をよく見るんだ、戦場で居る時と同じ顔をしてるだろう?
そしてこれ、何も知らない人間がはたから見たら嗜虐趣味(サディスト)のキ○ガイ貴族が貧民をいたぶりに来たようにしか見えないのではないだろうか?
ちょっとどころではなく世間体が悪すぎるな。
「いいか?俺は神様のように慈悲深い人間だからな?お前の失敗を二度までは許してやる」
あれだぞ?同盟軍の魔術師ですら足を撃たれて死んでるんだからな?
あまつさえ怪我するどころか斬り落とされたら大出血するんだからな?
斬り落としてる方が言うことじゃない?せやな。
青白い顔になってる男の足を再度つなげる。
「・・・」
「・・・」
次は間違えるなとアイコンタクトを送っておく。
「今度はちゃんと理解できたな?とりあえず一度『畏まりました』と」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
「サーラ、フライングだから、まだ何も言ってないから」
「でもその男の唇の形が違いましたので!」
いや、読唇術のスキルとか持ってなかったよね?
―・―・―・―・―
「『わらしべ長者作戦』と言うより『美人○珠つなぎ作戦』じゃね?」と思ったあなた、大正解です(笑)
そしてサーラ嬢、心理的な描写が無いのでいきなり斬りかかるただのサイコパスに見えるかもしれませんがハリスに対する暴言とメルちゃんに対する暴言(おいていけ)で静かにキレてるからなのです・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます