傀儡魔術
翌朝、ヴィクストレームとローゼンベルガーは目覚めた。
気温はまだまだ低く、吐く息は白く濁る。
魔術で点けた焚火が、一晩中ついていたので、かろうじて寒さを凌ぐことができている。
二人は起き上がると早速、怪物の追跡を開始する。
足元の悪い山道を数時間歩くと、正面に切り立った崖が見えてきた。その崖に近づくにつれ、見慣れない建造物のような物があることに気が付いた。
それは上手く崖の一部を利用して、石で組み上げられているようだった。
「あれはなんだ?」
ローゼンベルガーはその建造物を指さした。
ヴィクストレームにもそれが何かはわからない。しかし、建造物の上部には窓のような物が幾つか並んでいた。
「住居かもしれません」
「だれか居るってことか」
「もう、無人かもしれませんね」
建造物の麓には、入り口のような木の扉がある。
とりあえず、二人はそこを目指しすことにした。
扉まで到着すると、ヴィクストレームは扉の取っ手を引く。鍵がかかっていのか、扉を開けることは出来なかった。
「ぶち壊すか?」
ローゼンベルガーは剣を抜いた。
「鍵がかかっているということは、誰かいるかもしれない。用心して」
ヴィクストレームが言うと、ローゼンベルガーは剣を振り下ろし、取っ手のあたりを何度もたたきつけた。
五、六度、剣を叩き付けると扉はゆっくりと開いた。
ローゼンベルガーは用心深く中に入る。
中は、壁に松明が灯してあったので比較的明るく、すぐ正面に上に続く石造りの階段があるのが見えた。
二人は注意深く、階段を登っていく。
途中、二階で人の気配がした。ローゼンベルガーが耳を澄ませると数人の足音がした。
二人が階段を登りきると、みすぼらしいかっこうをした若い男が二人、木箱や大きな麻袋のような物を移動させたりしていた。
「よう」
ローゼンベルガーは声を掛けた。
男二人は振り返る。彼らは突然の訪問者に驚く様子もなく、無言のままだ。
顔を見ると、同じ顔をしている。双子なのだろうか。
「あんたら、ここの住人かい?」
ローゼンベルガーはさらに声を掛けるが、男たちは無言のまま、置いてあった手斧を取り上げてゆっくりと迫って来た。
「おいおい、待てよ」
ローゼンベルガーは言うも、男の一人がさらに近づいて手斧を振り上げた。
「仕方ない」
ローゼンベルガーは、小さく言うと、加速魔術を使い一瞬で二人を切り倒した。
男二人は、あっけなく床に倒れ込んだ。
後ろから続くヴィクストレームは、一部始終を見てあきれる様に言う。
「なにも殺すことはないでしょう」
「仕方ないだろ、先に襲ってきたのは、こいつらだ」
二人は床で横たわる男二人を見下ろした。
すると、男たちの遺体は崩れるように土の塊になった。
「なんだ、これは?!」
ローゼンベルガーは驚いて声を上げた。
一方、ヴィクストレームは落ち着いた様子で静かに言う。
「これは傀儡魔術によって作られた偽の人間です」
「傀儡魔術?」
「そうです、土などに魔術を掛けて、人間やそのほかの動物を作り出すことができます。これは、今では、ヴィット王国の魔術師ぐらいしか使っていません」
ヴィクストレームはさっきまで男だった土の塊をまさぐり、その中から魔石を見つけ出した。
「この魔石に魔術を掛けて、この傀儡を動かすのです」
「なるほどね」
「ここに、私が探している魔術師が、きっと居るのでしょう」
ヴィクストレームとローゼンベルガーは部屋の中を見回す。
男たちが整理していた大きな木箱が多数、床に置いてある。中身は何なのであろうか。
その他に反対側の壁にさらに上に続く階段があった。
「その魔術師が上に居るのかもな」
ローゼンベルガーがそう言う。
「登ってみましょう」
と、ヴィクストレームが答えた。ローゼンベルガーは先に階段を上っていた。
三階に昇ると、二階と同じように大きな木箱が並んでいる。そこには誰もいなかった。
さらに、上に続く階段がある。
二人は階段を注意深く登って行く。
四階の階段を登り切ったところに扉がある。中から人の気配がする。
ローゼンベルガーは、ヴィクストレームと目配せした後、勢いよく扉を蹴り中になだれ込んだ。
中には、椅子に座って食事をしている様子の初老の男性と、傍らに立つ若い女性が居るのが二人の目に入った。
男性は少し驚いた様子で、ふたりを見つめると尋ねた。
「ヴィット王国の者か?」
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