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彼の遠慮を見てとったのか、瀧川は瞬時に退屈させられたような目になって、関係のない佐藤の顔をじっと見やった。
その佐藤は笑って、わざとらしく福士の手元を見た。結局のところ福士がひとつきり取り上げてから礼を言ったので、ちらりと何か考えついたふうに奥の「そら豆」を眺めていた瀧川は即座に視線を戻し、あえて少々考えたうえで『バニラ』味だけを選び取る嫌味についてひとしきり講釈を垂れたあと、もはや遠慮など微塵もしていない福士に向かって、駄目押しで『チョコレート』と『キャラメル』味との二個を差し出した。
「べつに『ストロベリー』嫌いとかいうわけじゃないっスよ」
彼女がごく数秒のうちに働かせた判断の機微に応ずるように福士が口にした、こんな如才ない台詞は、瀧川をしてその残りひと種類をまで彼に寄越させしめた。
仁木田が、そのときようやく起き出してきたらしい「そら豆」を呼びに立ち、この彼女ら擁するいたいけな最下級生にも先だって福士が頂戴した『儀礼』をひととおり通過させたあと、いやしくも平時の「書道部」構成員である顔ぶれが集った状態で、部長である瀧川がおもむろに活動開始前のミーティング開始を宣した。
「今日からしばらくは七時半までやって大丈夫なんで、やりたい人は残ってやっててもいいでーす。みんなでやる片付けはいつも通り、基本六時半から始めまーす。
そう、それからあと、大事な文化祭の話ね。……そら豆……じゃなかった、
「んーと特に異論なければいつも通りでいくんで、じゃあ……福士くんは去年のアレをまたお願いします。でも、まあ――前みたく、あんなに張り切って描いてくれなくても大丈夫だから。ともかく個人製作に支障出ない範囲でやってくれれば」
「じゃ、各自個人製作、文化祭は思ってるほどそんなに先でもないので、当日納得のいくもの仕上げられるように時間大事にね。頑張っていきましょう。ンじゃあ、今日の目標はぁ――
散開し、ちょうど普通教室における教卓にあたる、前方黒板の真正面に据えられた大机からおのおのが任意の枚数分だけ古新聞を持ち出してはその定位置に落ち着きはじめると、放課後の美術室は不意に何とも
皆が、あちらこちらで木製タイル貼りの寒々とした床にその手を突き膝を突き、都合四つん這いになるような格好のまま、……さんざ使い込まれた挙げ句その表面のあばた面のようになった
福士円久は壁際を選び、日ごろ彼が暗にその「定位置」の目印としている、床部にほど近い高さに据え付けられたコンセントプラグが間近に見える一区画に寄った。
竜田は来ない。さきほど福士が、威嚇する
だが、このかたわの自由は決して無頼を許さぬ。
例えば、あるとき人が、その内部に長きにわたって小銭を山と貯め込んできた陶製の貯金箱をひと思いに破壊する決心を抱いたとしよう。彼がその時機を捉え、この生まれ落ちた時分より
薄曇りの窓硝子からは佳朋も登下校時よく利用するコンビニエンスストアのサイン看板が遠くに認められた。佳朋はその距離というひとつの可能性の表現が彼女に逆らいがたく想起させる、ある猟奇的な美文の気配に
はてさて何たる口車に乗せられてのことであったか、彼女自身にも今となっては皆目見当もつかない事態であったが、それにしても佳朋は今、そのぐるりからのほとんど単に品定め以上の意味合いを持つとさえ言える、いわば佳朋というひとつの佇まいの中からある
ものの数分前――階段の踊り場で出会い、そのどこかしらに見覚えのあるはずのわざとらしいほどに扁平な顔の、なぜか物欲しそうにも見えるどんぐり目を物言わずに見つめ返したのがいけなかった。あるいはそもそものはじめから、この日未希子との
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