第6話 暗躍する影

 

「あ.......あれはっ!? もしや.......アルトリア伯爵!! みんなっ! アルトリア伯爵が援軍に来てくださったぞっ!! 」


 冒険者達が歓声を上げた、フローラの街の領主リストバーグ・アルトリア伯爵率いる屈強な【 アルトリア騎士団⠀】の精鋭部隊が、戦場へと到着した。

 中には涙を流す物も大勢居る。


 これにより戦況が徐々に変わって行った。


「諸君! 今まで良く持ちこたえてくれたねっ! だがしかし! 敵は健在! 戦いはまだまだこれからであるぞっ!我々と共に力を合わせて、立ち向かおうぞっ!」


「「「「「「「うぉおおおおおっ!!」」」」」」」


 冒険者達の士気が格段に上がった。騎士団の第一陣と第二陣は、回復ポーションを冒険者達へと渡し戦場を、駆け巡っていく。


「大丈夫ですかっ!? これを早く飲んで下さい!」

「ありがとうございますっ!」


 エリス達は、騎士団の人達からポーションを受け取ると一気に飲み干した。さっきまでの疲れや傷は、嘘みたいに消えていた。


 これって! ハイポーションじゃないっ!? また高価な物を.......伯爵様ありがとうございますっ!


 エリスとアルゴート達は前方を見つめた。


「姐さんっ! 狼共は、俺らに任せてくだせえっ! 悔しいですがあのデカブツは、俺らの手には負えません.......」

「ええ! 任せてちょうだい! アークギガンティスは私が斬る!」


 エリスは呼吸を整えて、前へ前へと突き進む。


「野郎どもぉっ! ここからが正念場だ!! 姐さんに狼共を1匹足りとも、近づけるんじゃねえぞっ!!道は俺らが切り拓くっ! 突撃だああああああああぁぁぁ!」


  「「「「「「「うぉおおおおっ!!!」」」」」」」


 アルゴート達の士気は、異様に高かった。





 ◆B級冒険者【漆黒の暗殺者】ステイン視点





「ダイアモンキーですか.......相手に取って不足無しですねぇっ!」


 【 漆黒の暗殺者 】ステインは、音を立てずに静かにダイアモンキー目掛けて、鎌を振り下ろした。


 その命.......貰った!! はああああぁぁぁっ!!


【 暗殺術  四式  闇夜の辻斬りダーク・スラッシュ⠀】


「ウキィィイイ!! ウキキっ!?」


 くっ!? なんて硬さだ.......


 流石.......危険指定ランクB級だ、一筋縄では行かなさそうですね。だが、私の大鎌.......【暗霊姫あんれいき】に狩れない物は無い!


 ステインは一旦後方へと引いて、体勢を整えた。再度ステインは秘技を放とうとしたその時


「やぁ~ステイン君、1人で美味しい所を持っていくなんてずるいじゃないかぁ~!」

「アランですか.......あれは私の獲物ですよ?」


【紅の薔薇】のアランが、ダイアモンキーの前に立ち塞がった。


「oh......そんな連れないことは言わずにさぁ~ここは共闘と洒落こもうじゃないかっ!」

「くっ.......良いでしょう、どちらがあの猿を先に仕留めれるか勝負をしましょう!」


 まさかアランと共闘する日が来るとは.......これはこれで面白いな。だが、ダイアモンキーを狩るのは私です!


 アランとステインは共に体勢を整えた。


「美しい薔薇には棘がある.......灰色の戦場に鮮やかな色を添えろ! 権能解放!【薔薇の世界ローズ・ワールド】!」


 私も負けてはいられないですね。行くとしましょう!


【暗殺術 八式 終焉しゅうえん小忌衣おみごろも


  ステイン&アラン VS ダイアモンキーとの戦いの火蓋が切られた。





 ◆B級冒険者 【闘牛】テオロス視点





「おいおいっ!? 何てタフな野郎なんだぁ! こいつぁよぉ!!」

「グオオオオオオっ!!」


 テオロスとダグラスベアーが、互いに拳と拳を交えていた。両者は互いに一歩も引かず、手に汗握るような死闘を繰り広げていた。


「これでも喰らいやがれっ!【 砕破の牙さいはのきば⠀】!!」


 テオロスの渾身の一撃が、ダグラスベアーの顔にめり込んだ。テオロスは己の拳に力を込める。


「グォオオオオオオっ!!」

「ぐはっっっ!?」


 ダグラスベアーも負けじとテオロスに、渾身の一撃を叩き込んだ。


 やっぱ、B級は歯応えがありやがるな。こんな熱い勝負は久しぶりだぜ! 殴れば殴る程俺の血が滾ってきやがる.......ふっ、だが最後に勝つのはこの俺だ!


「ダグラスベアー.......やってくれるじゃねーかっ! 根性勝負なら負けねぇぜっ! 俺はこの拳で、今まで数多くの強い魔物達を、屠って来たんだからなぁっ!」


 テオロスは、口から血を流し笑っていた。





 ◆エリス視点





(見えた! しかし.......これは、大きいわね)


 エリスはついに、アークギガンティスの前まで辿り着いた。体調は7メートルくらいの大きさで、全身緑色のゴーレムみたいな風貌で目は一つである。


 エリスは先制攻撃を仕掛ける。


【雪華流 陸ノ型 氷天斬撃ひょうてんざんげき


 冷気を纏う剣で天に向かって切上げる、目にも止まらぬ、素早い飛ぶ斬撃だ。


 くっ!? 何て硬さなのっ.......!!


 アークギガンティスの身体には、掠り傷がついただけであった。


 ならっ! 目の方はどうかしら!?


「狙いは一点!【雪華流 壱ノ型 氷霧こおりぎり】!」


 冷気を纏った鋭い刺突がアークギガンティスを襲う。

 だが、アークギガンティスは巨体でありながら素早く身体を捻らせて、エリスの身体を腕で叩き落とそうとする。


 なっ!? こいつ身体がでかい癖に、動きが素早い.......!! やばい、避けきれないっ.......!!


 アークギガンティスの腕が、エリスの身体に直撃する寸前.......横から聞き覚えのある声がした。


「アタシのぉっ! 大切なお友達にぃっ! 何してるんじゃこのボケェがぁぁあああ!!」


 エリーゼが渾身の一撃を叩き込む。


【乙女の恥じらい 爆進の衝突ボンバータックル


 アークギガンティスの巨体がよろめいた。


「シャロンっ!! 今よ!」

「はい! お嬢様!」

黄泉よみへの旅路 第3小節 呪縛葬送じゅばくそうそう】」


 シャロンが見えない糸でアークギガンティスの巨体の動きを止める。


「全てを焼き尽くせっ!【深淵の炎アビスフレイム】!」


 アークギガンティスの身体が黒き炎に包まれた。リリーゼの黒炎により敵は苦しそうに呻き声をあげる。


「エリーゼさんっ! それにシャロンさんやリリーゼさんまでっ!」


 このまま敵を押し切る! ここに居るのはフローラの精鋭達、でも安心するのはまだ早いかしら


「エリスちゃんっ! 大丈夫かしらぁ!?」

「べ、別にあなたのために助けた訳じゃないんだからねっ! 勘違いしないでよっ!」

「ふふっ、お嬢様は先程からエリス様の事を心配して、戦場でずっと探しておられたのに」

「.......…」


 リリーゼさんはそっぽを向きました。うふふっ.......この人は相変わらずツンツンして素直じゃないですね♪ 可愛い♪ 


「っ!? 話は後よぉんっ! あいつまだピンピンしてるわぁん!」


 アークギガンティスが再びこちらに向けて動き出した。


「キャンディちゃん達! 貴方達は他の冒険者の助っ人に行ってちょーだいっ!!」

  「「「「はいっ! お姉たまっ!」」」」


 かくして、【秘密の花園♪】のオネエ軍団は散開した。


「さぁ~て! 久しぶりにアタシの本気を見せちゃうんだからぁぁぁっ!!」


 エリーゼの身体から金色の闘気が漲る。


「行くわよぉん!!」

【乙女の恥じらい マジカル☆パンチ♡】


 色々と突っ込み所はありますが、ここはエリーゼさん信じて見守りましょう。


 エリーゼさんの攻撃により、アークギガンティスの巨体が吹っ飛んだ。恐ろしいパワーです.......まるで化け物.......ごほんっ。乙女に化け物と言うのは失礼でしたね。


「まだまだぁ!! 乙女に手を出したことぉ! 死んであの世で後悔してなさぁい!! おらぁおらぁおらあああああっ!!」


 この時、私達3人はこう思いました。


(((それは、最早パンチじゃなくてっ! 蹴りなのではっ!?)))


 アークギガンティスの巨体に少しずつヒビが入って行きました。恐るべしエリーゼさん.......


「硬いわねぇ!? でもぉ〜これならどおかしらぁん!?」


【乙女の恥じらい 天使の落下エンジェルホール


 エリーゼは空高く舞い上がり、アークギガンティスの真上から落下しながら己の肉体でボディプレスをかました。


 するとその時、アークギガンティスも負けじと腕を構えて、渾身の一撃をエリーゼにぶつけた。


「ああぁ~んっ♡!!」


 ガチムチ筋肉のニーソメイド服を来た変態は、遠くへ飛ばされて行ったのである。



  「「「..............…」」」



 エリス達は唖然としていた。



「って! エリスっ! 行きますわよっ!!」

「はっ.......はい! リリーゼさんっ!」


 突如リリーゼの周りから、炎が燃え上がった。その後リリーゼの魔力量が、膨大に膨れ上がる。


「これを使うことになるなんてね.......」


 リリーゼは妖艶な笑みを浮かべた。


「来たれ炎龍よっ! 我に力をっ!」

解除リベレイト 黒炎龍神奏レルマーニ!】


 リリーゼの周りに黒炎を纏った龍が、浮かび上がる。リリーゼの目は金色に光り、身体の至る場所が燃えていた。


 リリーゼは目にも止まらぬ速さで、アークギガンティスの巨体を魔剣で切り刻んでいく。


「ふぅ.......」


 エリスは目をつぶって腰を低くして、前を見定める。


【 雪華流 零ノ型 絶対零度アブソリュート地平線ホライゾン⠀】


 エリスは刹那の動きで、アークギガンティスの背後に立つ。その巨体は徐々に凍り付く。


 そして、連続で技を解き放つ。


【雪華流 伍ノ型 氷花一閃 ひょうかいっせん】!


 岩を斬り裂く程の精錬された鋭い斬撃である。


 アークギガンティスの動きが止まり、ボロボロと巨体が崩れてきている。巨体が凍った頃、丁度タイミング良く吹き飛ばされたばかりのエリーゼが戦場に戻って来た。


「さっきは良くもぉ!! 吹き飛ばしてくれたわねぇっ!! アタシ激おこよぉ〜んっ!!」

【乙女の恥じらい 天使の囁きエンジェルボイス


 最早ただの突撃である.......天使の囁きとは.......いったい.......


 しかしエリーゼの突撃により、アークギガンティスの身体が吹っ飛んで行きメキメキと崩壊して行く。


 そしてトドメの一撃をリリーゼが放つ。


「灰にしてさしあげますわぁ!!【獄炎ヘルフレア】!!」


 アークギガンティスの身体はついに、燃え尽きて跡形も無く消えたのであった。


 辺りを見渡すと、ホワイトウルフ、ダグラスベアー、ダイアモンキーの死骸が転がっているだけであった。


 戦場に静寂が訪れた.......


「私達.......ついにっ! ついにっ! 勝ったわよっ! ヒイロちゃんっ!」


 エリスの声が戦場に響き渡った瞬間、冒険者達と騎士団の歓声が上がった。


「「「「「「「うぉおおおおおっ!!!」」」」」」」


 こうしてフローラの冒険者達の戦いは、幕を閉じたのである。





 ◆ヒイロ視点





 僕はソワソワしていた…


 お姉さん.......大丈夫かなぁ?? やっぱり僕も行った方が良かったんじゃ.......いや、ダメだ足手まといになる。うぅ.......心配だ


 フローラ支部のギルド2階の部屋の奥で、僕は現在ギルドマスターさんと一緒に待っていた。


 僕に戦う力があればなぁ.......…何で僕はこうも無力なんだ


 僕は部屋の中を、落ち着き無く歩いて居た。


「ヒイロちゃん、エリス君ならきっと大丈夫だよ。」

「う.......うん」


「トントン・・・失礼しますっ!」


 丁度その時、部屋の扉が開いて受付嬢のレオーネさんが入ってきた。


「マスターっ!! 今冒険者達の方から、ご報告がありました! 戦いが終わりましたよ! 当面の危機は去りました! 冒険者達の勝利ですっ!!」

「本当かねっ!?」

「.......!?」


 ギルドマスターは、ホッと胸をなで下ろした。


 僕は居ても立ってもいられなくなり、部屋の外へ全速力で走った。


「ヒイロちゃん! あっこらっ! 待ちなさいっ!」


 ギルドマスターも慌てていた。




 ◆エリス視点




 久しぶりにこんなに動いたわね.......早くヒイロちゃん成分を補給しないと死んでしまうぅ.......


 私は今フローラの街の門を通過して、ギルドに向かう途中です。当面の危機は去ったので、ホッとしております。今日は流石に疲れましたね.......


 ん? あれは?


 遠くから小さい少女が、こちらに向かって走って来るのが見える。あっ.......転んだ。


 え!? ヒイロちゃんっ!?


 私も彼女だと認識した瞬間、満身創痍ではあったが全力で彼女の元へと走った。


「お.......お姉さんっ!!」

「ヒイロちゃんっ!!」


 2人は互いの存在を確かめるようにして、抱き合った。


「ぐすっ.......ふぅえええぇぇんっ! 怖かった!.......お姉さんが.......死んじゃうの.......ではないか.......って! 僕っ.......怖かったっ!」

「ヒイロちゃんごめんねっ! 心配かけて本当に、ごめんねっ!!」


 気づけば私も涙を流していました。私はそっとヒイロちゃんの頭を優しく撫で撫でしました。心配かけてごめんね.......


 この光景を見てた冒険者達や騎士団は、皆暖かい眼をしてこちらをそっと.......見守っていた。


 だがアルゴート達は.......


「ひっぐっ.......野郎どもぉっ! 俺らの頑張りは、決して無駄では無かったんだっ! こんなてぇてぇ光景を見れるとは.......何人たりとも、2人の邪魔はしちゃいけねぇぞっ! ゔゔぉぉおおおおんんんっ!!」


 アルゴート達も号泣していた。


 何の因果か分からないが、金髪エルフの少女とエリスは運命に導かれるように出会いを果たした。

 これから先この2人は、共に苦難を乗り越え、お互いの絆は深く結ばれ、本当の家族になることだろう.......2人の行く道に幸があらんことを





 ◆???視点





 ・・・マーレの森の最奥にて・・・



「まさか.......私の手駒が全滅するとは.......フローラの街の戦力を少々侮っていましたかね~ノウェム、水晶を起動させてマクイルに繋げなさい」


 ノウェムと呼ばれた少女は、魔道具の水晶に魔力を込めて起動させる。


「は〜い.......ほらっ.......よっと! お〜い、聞こえるかぁ? マクイル、聞こえるなら返事しろ〜」

「はぁっ! 聞こえております! ノウェム様!」

「マクイル、私達も撤収しますよ。長い間、潜伏ご苦労さまでした。」

「はっ! セプテム様! 了解しました。一つ面白いご報告が.......私が門番の仕事をしている時に.......」

「へぇ~セプテム、どうすんよ? アタイは少し興味があるねぇ~」


 黒装束のセプテムと呼ばれた男は、顎に手を当て少し思案してから言葉を発した。


「ふふっ.......今は辞めておきましょうか。無駄にリスクを負う必要はありません」


 次の瞬間黒装束の人影は、闇に紛れて消えていくのであった。


 またその日の晩に、フローラの街の門番マクイルも消息不明となる。

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