コミュ障エルフ ♀ 異世界でお姉さんに拾われる~

二宮まーや

第1話 プロローグ


 

 はぁ......終わった。何とか終電には間に合ったから良かったけど、こんな遅い時間まで上司に仕事押し付けられて残業は嫌になるな。上司も残るならまだ許せるけど定時には上がって行くし......





 ◆現在 2025年 7月15日 金曜日





 明日は待ちに待ったお休みだ! 仕事の事は一旦忘れて、今日はゲーム実況でも見ながら夜更かしするぞ!


「ふぅ......」


 明日は休み! そう思うと気持ちが少し楽になった。そして家に着いてただいまと言ってみるが、住んでるのは僕一人だけなので、当然返事等はある筈が無い。僕は寂しさを覚えながらもいつものようにスーツとシャツを脱いでハンガーに掛け、ネクタイを机の上に適当に放り投げた。


「さてと、面倒だからお風呂は明日の朝入るか~」


 僕はパソコンを開いてお気に入りのゲーム実況者の動画が更新されてるかどうかチェックをした。


「おお~! 更新されてるな、よし! おつまみとお酒の準備はバッチリだ」


 何故一人しか家に居ないのに喋っているのかって? それは喋らないと喉が弱ってしまうからです。僕は一人の時でも声を出すように極力家ではしています。物凄く虚しさはあるけど、僕にもいつかお嫁さんが出来たら......


「暗い事を考えるのはやめよう。さて、お楽しみタイムの始まりだ!」


 そして僕は動画の再生ボタンをクリックしたのだが、急に目の前が暗くなり意識が突然落ちたのでした。






―――――――――






「ん? これは......夢?」


 何処だ......ここは。あれ? 僕寝落ちした? んん? でも何だか心地よい風だな。本当に夢なのか? 


「痛てっ!」


 こ、これは......夢じゃなかった。あきらかに日本では無い場所だというのはひと目見ただけで分かる。


(それと今、女の子の声が聞こえた気が......誰だ?)


 僕は25歳独身、小島 千尋こじまちひろ 冴えない何処にでも居るようなしがない男だ。しかもコミュ障で童貞だ! ドヤっ(謎のドヤ顔)、更に彼女無し歴=年齢......うぅっ......泣きそう。


 何か自分で言うのも悲しいな。ごほんっ......状況を整理しようか。ある日いつもの様に仕事が終わってから、最寄りのコンビニでビールとさきいかを買い、帰宅して家でゲーム実況を見ながら呑もうとしていた筈だ。さて、これは一体どういう事だ?



「夢でも無いし......どうすれば良いのだろう?」



 見渡せば何処までも続く鬱蒼とした怪しげな森、自分の目線を下げて見ると薄汚れた布切れ1枚を纏い白くて綺麗な裸足が視界に映った。ぷるぷるともっちりした子供特有の肌、そして胸にある小さな膨らみ。


 ん? 膨らみ? 自分のあそこに違和感を感じて、思わず触れてみる


(無い......だと!?)


 何と僕の息子が不在だった。


 落ち着け、落ち着くんだ僕。 焦る心を落ち着かせて冷静になろう。少し離れた所に小さな泉があったので、僕は水面に映る自分の姿を確認しようと泉へと近づいた。


(なっ!? 嘘......これが僕なのか?)


 眩しいほどに艶のある肩より少し長い金髪、パッチリとした愛らしい大きな目、ぷりっとした柔らかそうな唇、そして何より耳が尖っている!? これはエルフという種族だろうか? 見た目は推定8歳〜10歳くらいな小柄な少女と言った容姿だ。


(めっちゃ美少女じゃん! いや美幼女と言うべきか?)


 これはTSというやつなのか? 昔呼んでた小説にそういう類のお話しを読んだことがあった。だけど、僕死んで無いよね? 次から次へと疑問が湧いてくる。未だにこの現状を受け入れる事が出来ない。



(しかし、何がきっかけでこうなったんだ?)



 あまりにも現実離れした光景に謎が深まる一方だが、悩んで居てもしょうがない。まずは食べる物を探して確保しつつ人間の居る街を探そう。



「うぎゃあああああ!! 無理です、ごめんなさい! 許して!」

「ギイイイイ!」


 何故僕がこんな状況になっているのか......




 ・・・時を遡ること 5分前・・・




「ぐすっ......…うぅ......」


 歩き始めてからどれくらいの時間が経ったのだろうか......…薄暗い不気味な森がずっと続いている。耳を澄ませば、狼?なのだろうか、狼の遠吠えが聞こえる。


 未だに街どころか、食料らしき木の実やキノコ類等も見つからない......…おわた。



(怖い......お腹空いたよぉ......温かいものが食べたい......)



 このままでは街に辿り着く前に餓死してしまうのでは......そんな不安が津波のように押し寄せてきた。僕の心はこの時点で既に折れかけていました。


「ぐすっ............んう?」


 茂みの方からガサガサ......ゴソゴソ――と何かが動く音が聞こえてきた。そして、その音の元凶が僕の前へと現れる。


 潰れたような顔に、平べったい鼻をつけたような少し裂けた口に、小さな牙が上向きに生えている。緑色の肌で身長は僕より少し下くらいの小鬼ゴブリンがそこに居たのである。僕の脳は一瞬思考停止したが、直ぐに現実へと戻った。



(昔ラノベで読んだまんまの風貌だ......)



って!? そんなことを考えてる場合じゃない?!


「............」

「............」


 お互い5秒くらい見つめた後......


「あ、あの......き、今日は......大変お、お日柄も良く」


 ここに来て僕の抱えている呪い......コミュ障が発動してしまった。てか、ゴブリン相手に僕は何してるんだ?


「グギャャャ!!」

「ですよねぇ......!?」





 ・・・そして今に至る・・・





「うぎゃあああああ!! 無理です! ごめんなさい! 許してっ!!」


 ゴブリンが錆びれた剣を、ぶん回しながら追いかけて来たのだ。僕は一心不乱に逃げました。こんなに走ったのは人生初なのではなかろうかと思うくらいに走った。


「来ないでぇ!!!!!」


 僕は逃げてる内に、いつの間にか泉がある場所まで戻って来てしまったのだ。もう駄目だ......ゴブリンから逃げ切れる自信が無い。


「ふぇええええんんっ!!!」


 25歳のコミュ障の大人が恥を捨てて泣き叫んでいるのは実に滑稽だろう。でも、今はまだ幼さなさ全開......と言うか幼い身体なのだ。精神年齢もこの身体にひっぱられているのか、さっきから情緒不安定である。内心ぐちゃぐちゃだ。


 そして逃げ続けて数分後......ゴブリンの声は次第に遠ざかって行ったのです。


「あれ?」


 後ろを振り返ると、ゴブリンは何処かへ行ってしまったのか居なくなっていたのだ。



(助かった......のかな)



 僕は地面へとペタリと座り込みました。沢山走ったので僕の身体は満身創痍です。しかも裸足で逃げたせいか 擦り傷があちこちに出来ていて痛い......泣きそう。


「はぁ......はぁ......とりあえず良かっ......」

「キシャアアアァアアアァ!」


 前を見れば、巨大なカマキリみたいな魔物が目の前で、僕目掛けてその数メートルはあるであろう鎌を、僕へと振りかざした。


(へっ? あ......詰んだ)


 僕は恐怖という感情に支配されていました。それに満身創痍の身体では、もう逃げる事も避ける事も不可能......あのゴブリンが逃げた理由はこいつだったのか。


「あは、あはは......」


 よくわからないまま異世界に来て、ロリエルフになってゴブリンに追われて、最後にカマキリもどきに殺されるとは......酷くないですか?


「僕の人生は、いったい......…」



 

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