第21話 「かんなぎ」とは、「巫女」を意味する
「巫女殿」
グレン氏は言うのだが。
いや、神薙さんだから。
「かんなぎ」
栞さんが割って入る。
「そういえば、神薙さん、名前がすでに巫女さんですね!」
「さすが栞さんの教養!」
すかさずアゲるのは葦原で、それは既に習性なのでどうでもよいのだが、
「そういえば、そうだ」
俺だって古文の授業くらい聞いている。神に仕えるものが〈かんなぎ〉、特に女性で、神降ろしのために舞ったりするあれ。
「それ、よく言われるんだけど、」
神薙さんが当惑する。
「うち、全然神職の家じゃないのよね。どうしてこんな苗字になったのかしら」
「いや、」
そこでグレンの奴が食い下がったのは、正直なにかちょっとキモいと思った。
ていうか、神薙さん、グレンのこと知らねえだろ(というより俺もなんで急に呼び捨てだ)。
「巫女殿、こちらは拙者の仲間でござる。ご心配など」
「ごめんなさい。私、花屋の店長の神薙梨穂子です。神薙は苗字です」
「巫女殿ではないと!?」
「巫女ではありません」
そこでまた、数秒タメるのも、正直キモいかんじだった。
「巫女殿ではないとは、失敬いたした。
しかしながら、貴女は〈白の巫女〉殿に、生き写しでござるよ。
それに、」
視線は、彼女の人差し指に向けられる。
「その指輪は」
「あ、これなんだけど、」
そもそも神薙さんは、これを俺に見せに来たのだ。
〈白の地〉本日ニ度目のバタバタで、話が紛れてしまった。
「こないだ帰宅したら、私の部屋の机の上にこの箱があってね」
木箱を見せ、
「この中にあったのが、この指輪」
そうして一旦、指輪を箱に戻し、
「えっ」
さっき俺が見せられた光景が、またくりかえされた。
指輪は何度でも、神薙さんの指に向かっていく。
「私の人差し指にぴったりなのも不思議なの」
「……これを持つ方が、巫女殿でなければ、どうなるのか」
グレン氏が言うと、叔父は、
叔父は?
「どうして指輪が店長の家に?」
叔父もわからないらしい。
白いギター片手に持ったまま。
「この家だけじゃ、なくなっているのか? 〈白の地〉とつながる場所が」
そう考えると不安だな。鈴木邸みたいな場所が増えたらどう転んでも混乱が広がるのではないか。
「じゃあこれ、〈白の巫女〉の指輪で間違いない、ってことなのかしら」
「……いや、それよりどうして店長、〈白の巫女〉知っているのよ?」
執筆活動は、会社にも伏せていたようだったので、叔父としてはこんな反応になる。
「鈴木さんがいなくなってから、失踪の手がかりがないか、すみからすみまで調査が入ったのよ。このこと、覚えておいたほうがいいかも」
なんで叔父さん、恥ずかし乙女みたいに顔赤らめてるの。
そうだ、話もグダついてきたし、
「あの、ここ、狭いから……」
ピザの箱が転がったままで若干恥ずかしかった○び太部屋での立ち話から、そこよりは少しは広い居間に移った。とりあえず座ろうぜ。
「あ痛っ」
こんな時でも、神薙さんは神薙さんだった。
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