19.園遊会

 皇妃様主催の園遊会は帝宮の温室庭園で開かれるとの事だった。まぁ、冬だしね。帝宮の温室はかなり広いらしく、多くの貴族夫人、貴族令嬢が集まるらしい。私はエルグリアを随伴して参加する事になるとの事だ。一人で参加で無くて良かった。


「お嬢様が旦那様と婚約されて最初に参加なさる社交だから」


 とエルグリアは気合を入れて準備に取り掛かっていた。何日も前から肌の手入れと髪の手入れを入念に行い、ドレスと宝飾品を入念に検討し、当日はまたお風呂から始まった。昼の社交なのでかなり早朝からの準備開始だ。


「エルグリアの準備は良いのですか?」


「私の事などどうでも良いのですよ」


 良くは無いだろう。しかし、エルグリアの迫力に黙るしかない。結局、私がドレスを着てお化粧をして完璧に仕上がったのを確認するのを見て満足してから、慌てて自分の準備をしたようだった。


 今日の私のドレスは濃い臙脂色のドレスに金色の刺繍がびっしり施されたド派手なドレスだった。私はちょっと派手過ぎると思ったのだが侍女たち曰く「お嬢様は髪の色が明るくて刺激的なので、ドレスも少し派手な方が映える」との事だった。これでも抑えたのだそうだ。


 宝飾品は前の夜会に着けたものより数段落ちる品だった。何でも前の夜会に着けた物は皇族に代々伝わるレベルのいわば家宝だったらしい。やっぱりか。タダモノでは無いとは思ったけど。今日付けて行くと皇妃様に喧嘩を売っていると思われてもおかしくないので、ごく普通の宝飾品を着ける事になった。それでも十分に高価な品だが。


 エルグリアは紺色の地味なドレスで宝飾品もほとんど無し。明らかに私を引き立てるコーディネートだった。美人なのに勿体無い。しかし気合は十分で、公爵家の巨大な馬車に乗り込んでからも私の服をああでもないこうでもないと直していた。


「お嬢様のお美しさなら何の問題もありませんよ」


 エルグリアは言ってくれるが、問題はそこではない。皇妃様主催なら当然上位貴族が大集合だろうし、一体何を言われる事やら。何か月も臥せっていた不自然さを突いて来る者もいるかも知れない。何より皇妃様が私と公爵様の婚約についてどう思ってらっしゃるのか・・・。


 帝宮は帝都5つの丘の中で最大の丘にあり、公爵邸と同じく3重の城壁で守られている。本館の様式も基本的には似ている。ただ、帝宮は壁が薄い黄色で屋根は赤だ。豪壮華麗なのは公爵邸と同じだ。


 もっとも、今日は帝宮本館には入らない。車寄せで馬車を降りたら毛皮のコートを羽織り花の無い庭園を歩く。しばらく歩くと大きなガラスのドームが見えてきた。あれが温室だろう。公爵邸のものより遥かに大きい。


 エルグリアが入り口を守る騎士に到着を告げ、招待状の確認をしてもらい、中に入る。途端に暖かくなり私達は慌ててコートを脱いで中にいた侍女に渡した。


 既にかなりの数の貴族女性が温室の中にはいた。咲き乱れる花々の中を笑いさざめきながら泳ぐように歩いている。数カ所にテーブルがあり、軽食と飲み物が用意されていた。疲れた時に座る用の椅子やソファーもある。


 私達が入ると一斉に視線が集まってきた。ざわめきが起きる。ヒソヒソと何か話している者もいる。あまり良い雰囲気ではない。当たり前か。私は一切気にしてませんよ、という微笑を貼り付けて進んだ。誰も近付いて来ない。


「誰も公爵閣下の婚約者に挨拶しに来ないなんて!」


 とエルグリアは憤慨しているが、挨拶しに来ない事でそれを認め無いという意志を表しているのだろう。想像していた通り厳しそうね。


 やがて全員が入場し、ややあって皇妃様がご入場なされたようだ。ざわめきが大きくなる。何人もの女性に囲まれて、一際華やかな女性が歩いて来る。あれが皇妃様か。


 白に近い銀髪を複雑に結って上げて見事な髪飾りで留めている。まずはそれが目に付いた。背はそれ程高く無く、体型も私程ではないが痩せ型。ムチムチした体型が多い貴族女性にしてはちょっと珍しい。白を基調に青を差し色に使ったドレスを身に纏っている。顔立ちは整っているが派手では無く、意外に表情は豊かで青い瞳がクルクルと色合いを変える。


 彼女はチラッと面白そうに私を見たが近付いては来なかった。エルグリアが私を促す。


「さぁ、ご挨拶に参りましょう」


 そうね。と私達が進み始めると、皇妃様の前で二人の女性が道を塞ぐように進み出てきた。?私達が左右に避けようとするとその方向に彼女らも動く。あ、これ気のせいじゃ無く道を塞がれてるわ。


 道を塞いでいるのはアングレーム伯爵令嬢とフリセリア侯爵令嬢。気の強そうな顔で私を嘲るように睨んでいる。私よりずっと背が低いので見上げる格好でだが。


「無礼な。道を開けなさい!」


 エルグリアが進み出るが二人は無視する。このまま皇妃様への挨拶を妨害し続けるつもりだろう。やれやれ。私はどうしようかと思いながら皇妃様を見た。彼女はチラチラと楽しそうな顔をしながらこちらを見ていた。あー。試されてるな。私は悟った。


「エルグリア」


 私はエルグリアを促して踵を返した。


「お嬢様。あの様な無礼を許してはなりません」


 しかしあの場で「私は公爵様の婚約者ですよ!道を開けなさい!」と叫ぶのは悪手だろう。如何にも公爵様の威を借りる小娘になってしまい、私の小物感が増してしまう。どうも皇妃様はそういう対応したら私を認めてくれない気がする。


 私はしずしずと庭園を横切り、隅の方に置いてある休憩用のソファーに向かった。まだ始まったばかりだから誰もいないそこへ崩れ落ちるように倒れ込む。


「お嬢様!?」


 エルグリアが慌てて駆け寄り私を助け起こす。私はその一瞬、エルグリアの耳元に「病弱設定で」と呟く。エルグリアは驚いたようだったが話を合わせてくれた。


「ああ、何て事でしょう。何ヶ月も臥せっておられたのに無理をなさるからですわ。このご様子では無理ですわね。帰りましょう。お嬢様」


「大丈夫よエルグリア。少し休めば良くなります」


 棒読みの三文芝居なのは勘弁して欲しい。私達がそんな茶番を繰り広げていると、涼やかな声が掛かった。


「そちらは大丈夫ですの?カルステン伯爵夫人?」


 カルステン伯爵夫人はエルグリアの事だ。見ると皇妃様がすぐ側に来ていた。周りの取り巻きの夫人は止めようにも止められないというような顔をしている。


 皇妃様はこの園遊会のホストである。彼女には来客全員に対して安全と快適を保証する責任があるのだ。来客が病に倒れたなどというのは彼女の責任問題になる。それを放置などすれば皇妃様、ひいては夫の皇帝陛下の名誉に傷が入る事態になりかねない。故に皇妃様は私を放置出来ないし、周囲も皇妃様を止められない。


 私の読み通りだ。読み通りにならなきゃそれを良いことに帰っちゃおうと思ったのは内緒だ。私はサッと立ち上がり、素早く皇妃様に淑女の礼を送った。


「初めまして。ご挨拶をさせて頂けますでしょうか?」


 皇妃様が目を丸くし、周囲のご婦人方が驚愕する。


「・・・許します」


「ありがとうございます。わたくしはシュトラウス男爵令嬢、イルミーレ・ナスターシャと申します。以後お見知りおきを」


 深く頭を下げて胸に手を当てる。


「私はヘラフリーヌです」


「皇妃様のご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じます。遠くフレブラント王国よりアルステイン・サザーム・イシリオ様との縁を得てこの地に参りました。皇妃のような尊き方とご面識を授かりますは身に余る光栄でございます。これぞ大女神様のお導きでございましょう。女神ジュバールに感謝と皇妃様のご繁栄をここに祈らせて頂きます。神に祈りを」


 ふう。トチらずに言えたぜ。用意していた挨拶を言い切ってホッとした私に対して、皇妃様は驚いたようだった。


「感謝を。・・・良くそんなにスルスルと古式の挨拶が出てきましたね?」


「練習いたしましたから」


 私はすまして笑う。実際に挨拶を考えたのはエルグリアで私は覚えただけだ。


「それで、具合は大丈夫なんですの?」


「なんの事でございましょうか?」


 私が何食わぬ顔でホホホと笑うと皇妃様は面白そうに笑い、取り巻きのご婦人方が目をつり上げた。


「皇妃様を騙すなどと!」


 私はしれっとした顔で無視した。私が騙しましたと認めるのも皇妃様が騙されたと認めるのもマズいのだ。皇妃様はそれが分かっているので楽しそうに笑うだけで何も言わない。


「皇妃様にご心配頂けて恐悦至極に存じますわ」


「ふふふ、面白い人ね。今日は楽しんでいってね。ご機嫌よう」


 と言い残して皇妃様は離れていった。周りのご婦人方は物凄い顔で睨んでいたが、別に痛くもかゆくもない。皇妃様への挨拶という重大ミッションが終えられた私の勝ちだ。エルグリアはガックリと疲れたようだけど。


「皇妃様がお怒りにならなくてようごさいました・・・」


 多分そんな器の小さな人じゃないわよね。あの方は。そして、挨拶が済んだくらいで認めて貰えたと思うのは早計だろう。何しろ皇妃様は一回も私の名前を呼んでくれて無い。


 まぁ、とりあえず本日最大のイベントは終了したという事で、後は適当にこなせば良いだろう。


 ただ、この後もエルグリア以外の誰とも話さず終えるのは避けたいのよね。私が孤立しているのを印象付けてしまうし、それを理由に公爵様との結婚に難色を示す貴族が出るかも知れない。


 私はエルグリアを連れて会場を歩き、一人の令嬢に目を留めた。


「ごきげんよう、レルージュ子爵令嬢」


 私に声を掛けられ驚愕したのはレルージュ子爵令嬢だった。私が帝国に来て最初に会話したご令嬢で、最初に真珠を買ってくれたお客様だ。彼女は慌てて淑女の礼を取る。


「ごきげんよう。えぇと、男爵令嬢」


「ふふ、お久しぶりですねハリウス様。お元気でしたか?」


「私を覚えていらっしゃったのですか?」


「もちろんです。真珠をお買い上げ頂きました。私この度、縁あって帝国に移り住む事になりましたの。仲良くして下さいませね?」


 左手の薬指のエメラルドを見せつけるように上げる。ハリウス様が息を呑んだのが分かった。


 ハリウス様はこの会場にいるご婦人方の中では身分が低い子爵令嬢だ。見ていたが、会話の相手もおらず手持ち無沙汰にしていた。私に声を掛けられて嬉しい気持ちと、会場中からハブられている私に関わると面倒だという気持ちと、公爵様の婚約者に声を掛けられたら無視は出来ないという気持ちがせめぎ合っているのが分かる。


 私はふっと手を伸ばし彼女の髪飾りに触れる。


「これはあの時の真珠でございましょう?使って頂けてありがとうございます。あら?その横の水晶も珍しいものでございますね?」


「お、お分かりになるのですか?これは桃色水晶です」


「このように淡い色で透明度が高い桃色水晶は珍しいものでございますよね?」


「そうなのです!」


 ハリウス様は勢い良くこれを手に入れた時の経緯と、桃色水晶と真珠を使った髪飾りを頼む時の苦労や、合わせたドレスをデザインした話を語ってくれた。宝石好きのお嬢様は自分の気に入った宝石について語りたいものなのだ。


 私達は宝石について楽しく話を始められた。すると、何人かのご令嬢がもの言いたげにこちらを見ているのに気が付いた。


「あら?ルーマリア伯爵令嬢とカキリヤン伯爵令嬢。それとファーメラ伯爵令嬢ではありませんか。ごきげんよう。お久しぶりですね?」


 彼女達はギョッとなったが、逃げはしなかった。


「私達を覚えて頂けていたのですか?」


「もちろんですとも。ルーマリア伯爵令嬢は金の留めピンを。カキリヤン伯爵令嬢はサファイアを。ファーメラ伯爵令嬢はガラス細工をお買い上げ頂きましたね」


 私が言うと令嬢達は感激の面持ちになり、いそいそと寄って来た。彼女達は伯爵の中でも低いランクの家の令嬢達で、下位貴族の夜会で良く会い、話をした人達だ。


「またお会い出来るとは思いませんでしたわ、男爵令嬢」


「ええ、私もですわ。この度、公爵様と縁を得て帝国に移り住みましたの。また仲良くして下さいませね?」


 私が指輪を見せると令嬢方が黄色い悲鳴を上げる。


「素敵ですわ!やっぱりアルステイン様は男爵令嬢、いえ、イルミーレ様に求婚なさったのですね!」


「ダンスの時などとってもお似合いでしたもの!素晴らしいわ!」


「どのようにプロポーズされたのですか?いえ、その前にどの様に愛を育まれたのかじっくり伺わなくては!」


 令嬢達は大興奮だ。彼女達は公爵様に憧れてはいたが、自分達では公爵様の嫁になれないと分かり切っているからか偶像のように崇拝していた筈だ。私なんかが公爵様の嫁になる事に文句は無いのだろうか?


 公爵様との馴れ初め?身分詐称してスパイとして出会ったら本気になってしまい、公開プロポーズ受けたのに逃げたら、国を滅ぼされて捕まった。なんて言えないわよね。


 その辺を上手くぼかしながらエルグリア共々公爵様を賛美しながらラブロマンスを語って令嬢方とキャイキャイやっていたら、面識のある令嬢達がコッソリ近付いてきた。彼女達は公爵様に対してやや本気の令嬢で、私が公爵様と仲良くなり始めたら嫉妬しつつ情報を得ようとしていた方々だ。公爵様の話が聞きたいのだろう。


 そういう方々を巻き込んで公爵様話で盛り上がっていると、徐々に夫人方が私に挨拶をしに来た。貴族社会の総意として私を認め無いのならともかく、皇妃様と普通に挨拶して多数の令嬢と仲良くやっているなら、公爵様の婚約者を無視して公爵様に睨まれるのは得策では無いとの判断だろう。


 やれやれ、どうにか社交も上手くいったかな?私が内心安心していると、突然、私の前にいた令嬢の顔が引きつった。


「お話が弾んでいるようですね」


 おおう、この声は皇妃様。私はなるべく優雅にゆっくりと振り返り軽く頭を下げた。数人の取り巻きに囲まれた皇妃様は微笑してそれを受ける。


「これは皇妃様」


「何のお話をしていたのですか?」


 私は顔を上げて微笑んだ。


「宝石の話などしておりました」


 皇妃様の義理の弟たる公爵様をつまみに話が盛り上がっていたとは言い難い。宝石の話も最初の方でしていたから嘘ではない。


「宝石?あなたは宝石に詳しいのですか?」


「貴族商人でしたから、扱った事のある宝石を知っているだけですわ」


 それと王都で2つ目に働いた商会が宝石も扱っていたのもある。


 王妃様は宝石がお好きなのかしら。宝石好きのご婦人方は必ず自慢の一品を所有しているものだ。それをここぞというときに身に付けるのである。私は皇妃様の今日の装いを観察する。


 目立っているのはプラチナにダイヤモンドとルビーを飾ったあの髪飾りだけど、公爵様からお借りした品よりは落ちるわね。プラチナのチェーンとエメラルドの首飾りも同じ。指輪も違う。あ、結婚指輪はほとんど私のものと同じね。皇帝陛下の瞳も緑なんだわ。


 ふと、それが目に留まり、私は目を近付けた。一見、地味な黒い丸い宝石だ。それがイヤリングにされて皇妃様の耳にぶら下がっている。しかし、これは・・・。


「何を!」


 皇妃様の取り巻きが騒いでいる。あ、失敗失敗。私は思わず顔を皇妃様の間近に寄せてしまった事に気が付いた。だって良く見たかったんだもの。皇妃様もびっくりした顔をしている。すみません皇妃様。他意はありません。


「一体何を・・・」


「皇妃様、こちらのイヤリングは黒真珠ではありませんか?」


「!」


 皇妃様が目を丸くする。令嬢の一人が興味を抑えられない、という感じで私に尋ねてきた。


「イルミーレ様、黒真珠とはなんですの?」


「真珠は南の海で貝の中から採れる不思議な宝石なのですが、普通は白いのです」


 白い真珠自体、何千もの貝の中からひとつしか見つからないと聞いている。


 しかしその中に、希に黒い真珠があるらしいのだ。それこそ、何千個の真珠の中に一つあるか無いかという代物だ。


 私も当たり前だが見たことは無い。だが、噂で話しているのを聞いた事があるのだ。その特徴は・・・。


「黒い宝石はいくつか種類がありますが、黒真珠は柔らかな輝きと虹の様な光沢を持つと聞いています。皇妃様のイヤリングは正に柔らかな虹色に輝いています」


 周囲のご婦人たちが沈黙し、皇妃様に注目する。皇妃様は驚きの表情をしていたが、やがてクスクスと、遂には声を出して笑い始めた。


「驚いたわ」


 皇妃様は笑いながら言う。


「まさかあなたが気が付くとは思いませんでした」


 ほ、良かった間違い無かったみたい。皇妃様はイヤリングに手を触れ、いたずらっぽく笑う。


「このイヤリングを持ってきた宝石商の触れ込みでは確かにあなたの言った通りの幻の宝石という事でした。私はこの虹色の輝きに魅せられて購入したのですけど・・・」


 皇妃様は残念そうな顔をした。


「勇んで着けて社交に出ても誰も気が付いてくれないのです。私、これをもう二年も毎回着けて社交に出ているのにですよ?」


 皇妃様の取り巻きたちの顔が引きつった。侯爵夫人、伯爵夫人ともなれば宝石の目利きが出来て当たり前だ。その彼女たちが二年もの間、皇妃様自慢の逸品に一回も気が付かなかったというのは大失態なのだ。


「黒い宝石はオニキスや黒曜石など色々ありますもの」


 私が一応フォローするが、皇妃様は首を振った。


「あなたは気が付いたではありませんか。良く見れば輝きが全然違いますのに」


 うん。確かに良く見れば分かるけどね。多分、黒なんて地味だし形も丸いだけだから良く見なかったんだよ。あんまりご婦人方の傷をえぐらないであげて。


「黒真珠は本当に希少ですもの。そのイヤリングは、その輝き、大きさからして、後世にまで伝わる品になる事でしょう。帝室の伝来の秘宝に付け加えられるべき逸品だと思いますわ」


「そう言ってくれると嬉しいわ」


 皇妃様はご機嫌だ。そして私の手をヒョイと取った。


「こ、皇妃様?」


「流石に私の義弟の婚約者の事だけはあるわね、イルミーレ」


 どよっと、周囲のご婦人方がどよめいた。私もびっくりだ。この瞬間、私と公爵様の婚約は皇妃様公認になったわけだ。しかも私を名前で呼んだ。貴族社会に衝撃走るという奴である。皇妃様はニコニコと笑いながら私の手を離さない。


「気に入ったわ。仲良くしましょうね?イルミーレ」


「光栄でございます。皇妃様」


 私はどひゃ~と思いながらも表面上は優雅に笑う。皇妃様は笑いながらも、目をいたずらっぽく細めた。う、何か企んでるっぽいよこの人。たかが宝石を褒められただけで私を認めるなんて話が旨過ぎるもの。・・・皇妃様、実はちょっと一筋縄ではいかない曲者かも。


 皇妃様の思惑は兎も角、とりあえず私は、義理の姉予定の皇妃様に気に入られるというこの園遊会における最重要課題をクリアしたのであった。


 

 


 

 


 

 

 


 


 

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