第37話 二人のリコールとは?~差し出す手紙と差し出される手紙~

「だから落ち着けよ! 【アンダリエルさんに託す二人のノルマ】が達成できたら挽回ばんかいってことで良いって言ってるだろ!」


「【ヴァンデリアへの謝罪】と【カムエンペの長のゆるし】がもらえたら本当に戻れるんですよね!? 嘘じゃないですよね!?」

「具体的に何日ですか!? まさか【ディネルース様やエイル様、さらには長も引き連れて、我々だけ置き去り】なんてこと、無いですよね!?」


 エセ双子は必死になっていた。

 とうとう里への返却を宣言されてしまった二人。

 今や──というよりはリコール関連に関しては常に冗談で済まない。


 しかし、冗談で済まないのは今回の件も同様どうよう

 なにせ、下手をするとマーメイド絶滅まで宣言されたのだ。


 彼的には、里で少し頭をやしてもらおうと思った。

 当初はお仕置きもねての予定だった……のだが。

 黙って返却だけすると──それはそれで精神をみそうな雰囲気。

 仕方なく、セージは早々そうそう種明たねあかしをすることにしたのだった。


 最低限の措置そちだとはいえ、甘い話である。


「いやさすがに具体的な日数の明言めいげんは無理だろ! ──ヴァンデリアのほうは向こうにも責任があるし、すじだけ通してきてくれたらいいから。それより、とにもかくにもエルフの種族間問題しゅぞくかんもんだい。俺には今回の事態がエルフ的にどれだけ重大じゅうだいか分からないから、フォレストエルフのおさであるアンダリエルさんの指示をあおいぐこと。いつもくらいならともかく、今回は下手へたするとヴァンデリア滅亡どころかエアルウィンさんが自害──いや、マーメイドが絶滅の一大事いちだいじだからな?」


「はぃ。そこは重々じゅうじゅう、反省しております……確かに、逆の立場でしたらフォレストエルフが絶滅してたかもしれません……普段、我々も何かと【自決】のことは申し上げているというのに……」

「ヴァンデリア滅亡はともかく、【ポロトコタム】へは近くまで来て合図あいずを送れば問題ないとたかくくっておりました……申し訳ございません……」


「あとさっきも言っただろ? 各種族のハイエルフから招待を受けた代わりに俺の村を案内はするけど、フォレストエルフと違って他の種族は長がいないんだから。引き継ぎも無しに長期間も滞在たいざいはできないって」


「それはそうなんですけどぉ……」

「そのまま捨てられないか心配で……」


「ああもうわかったよ! ほら! 本当はエアルウィンさんにお願いするつもりだった、【カムエンペ】への手紙! コレもう二人に預けとくから! これに【二人が挽回ばんかいするための内容と、それが終わったら戻っていい】って意味合いの文を書いてるから、心配すんなって!」


 ずっと泣きそうな顔だったエルフ二人。

 だがそれを聞き、いくらか真実味しんじつみを実感できたらしい。

 すぐにキラキラした瞳へと変わる。


「な、なんと! 王から直々じきじきの書状を!!」

「我々も中身を拝見してもいいのですか!?」


「なんで二人が中身を見るつもりなんだよ!? お前らてなわけねぇだろ!! アンダリエルさんにっつってんだろ!! ──よし、エアルウィンさんにお願いしてマーメイドの封蝋ふうろうをしてもらうか。それ、信用問題ってことだから。届ける前に開いてたら……二人とも挽回どころか絶縁ぜつえんな?」


 封蝋。

 語るまでもないが、手紙に対する封の証。

 要は、届ける前に開かれてないかの証拠である。

 それと、出す側の立場によっては家紋をしたりの身元証明にも使われる。


「!? 絶っっっ対に見ませんので!!」

「ぜぜぜ絶縁!? 恐ろしいことをおっしゃらないでください!!」


 そして【絶縁】という新たな単語。

 二人はその言葉のひびきに新たな恐怖を感じた。

 普通は──もはや、普通など意味のない言葉なのかもしれない。

 世間において、男を振り回すのは美少女側なケースが多いハズである。

 いわゆる美少女特権、とでも言ってしまえば身も蓋もないが。


「しかし──【二人以外のハイエルフを連れて帰宅】か。ふむ……」


「セージ様ッ!? お待ちを!!」

「そんな魅力的な提案みたいに検討なさらないでください!!」


「いや、ちょっと考えただけだって。さっきも事情は言ったけど、本当にそんなつもりはないよ。ただ何というか……個性こそあれど、外見が美人なのはハイエルフ全員おなじじゃん? 現状、その上で二人ほど残念な人って他にいたかなって……」


「残念!? いま残念っておっしゃいました!? 我々、仮にも王族ですよ!? これでも高貴な立場なんです!!」

「こう見えて! カムエンペに戻れば『姫様姫様』ってチヤホヤしてくれるんですよ!?」


「それはあくまで立場上だろ。だから、外見や肩書かたがきじゃなくて中身の話だよ。君らも俺を『王様王様』っていうなら、もっと平和的にチヤホヤしろよ。なんで毎度まいど──こんな火事場かじばみたいな所ばっかに行くハメになってるんだよ!!」


 セージの言うことは至極しごく、もっともだった。

 王の立場で火中かちゅうに飛び込んで行くのは──

 侵略国しんりゃくこくくらいだろう。

 いや、侵略国ですら王が先陣を切るケースは少ないのかもしれない。


「外見や肩書きでなく中身……っ!? これは──エルフィ!!」

「ええ!! いま、気づきました! もしや、私たち──【普通に美人っぽくえば、魅力的みりょくてきな女性として受け入れられる】のでは!!」


「ああ、改めて二人がアホだと認識したわ。それ、今さら言う? おかしい……他の人の証言だと、『かしこ気高けだか姫君ひめぎみ』みたいな評価なのに……なんで俺だけには罰ゲームみたいな感じなんだろう。というか、そんな自明じめいをドヤ顔で語られると、さらに残念さが増すんだけど。『太陽が東からのぼる』って話くらい当然の話じゃん。あ、そういえば、ご先祖様の世界でも太陽は東から昇ってたらしいよ。案外、世界って共通してんのな?」


「王よ! いまは太陽の話などしておりません! そんな事はどうでもよいのです!!」

「我々が子どもを無事に産めるかどうかの瀬戸際せとぎわに追い詰められてるんですよ!?」


「子ども!? ちょっと待てよ! まだ始まってすらないのに、そんなこと言われても! 仮に順調だとしても、君ら何段階くらいすっ飛ばしてんの!?」


「すっ飛ばすと申しますか──」

「王の承諾しょうだくさえ得られれば今すぐにでも入籍からOKなのですが」


「まだりてないみたいだな。アンダリエルさんに頼むハードル、上げてもらおう」


「あぁあっ!? エルフィ! なんてことを!」

「アイナこそ! 発言の順番が違ったら同じことを申し上げてたでしょう!?」


 とうとう発言の順番という配役にすら言及げんきゅうし始める二人。

 とはいえ、すでにセージも【エセ双子】という扱いをしている。

 今さらどころか、とっくに双子的なメッキはがれていた。


「あ、あの~……」


 そして今回、当事者であるハズのエアルウィン。

 なのだが、エセ双子の勢いに押され、存在感が薄れてる。


「あっ、エアルウィンさんスイマセン。決して、ないがしろにするつもりでは」


「あ、いえ~。そういうことではなくてですね~、陛下にコレをお渡ししようと~」


 彼女は三人で騒いでいたことを気にしていたわけではないらしい。

 ひかえめに声を発しつつ、ひざまずく。

 そして、そのふところから一つの小箱を取り出した。


 その様子を見たセージは──

『はっ!? この人も【胸の谷間】から取り出さなかった!? アンダリエルさんといい──そういう決まりでもあんの!? そろそろ箱の大きさについてツッコみを──いや待て! スルー……スルーだ俺!!』

 アンダリエルの時と同じである。

 セージは頭をぎりそうになった雑念を、強制的に追い払う。


「これ、アレですよね。フォレストエルフの時と同じやつ。ただ……単に色が青いだけで、デザインが一緒というか」


 内心など一切さとらせず、ごく自然な口調で彼は言った。

 戦闘力ではないナニカが確実に上昇している。


「はい~、アンダリエル殿のものと同じ~──セイヤ様のお仲間である、チフユ様からのものですね~」


 こうして──エセ双子へフォレストエルフての手紙を預ける前に、セージ自身がセイヤの仲間である先人の手紙を受け取るのだった。

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