第23話 エルフカーニバルその1 ずっとセージのターン・ダークエルフ(ディネルース)の場合
「じゃ、ディネルースさん行きましょうか?」
「わわわ、ワタクシ
「もちろんディネルースさんが良ければですけど……あ、お嫌でしたら無理には──」
「ありがたき幸せ!」
『あ、謙虚っぽいけど、こういうところはエセ双子と同じ反応なんだ』
エルフ共通ともいえる、お決まりの反応。
セージはエルフ全体を
祭りは合計で三日間。
親睦会という名目もある。
だがフォレストエルフに関しては普段から一緒にいる。
ということで、セージは三日間をキレイに三分割。
一日につき、一種族を割り当て行動を共にする。
そうして、各種族と交流を深めることにしたのだった。
ちなみにエセ双子といえば。
◇
『私たちも! 王とともに祭りに参るんです!』
『全日程お留守番なんて! そんな殺生な話がございますか!?』
もちろん駄々をこねていた。
正直、めっちゃお祭りデートがしたい二人。
もはや当然の流れだった。
逆にスンナリ納得する方が驚きだ。
誰しもが偽物だと疑うレベルですらある。
エセ双子の、さらにニセモノ。
字面だけでも、ややこしい。
それに対してのセージの言葉。
『別にいいよ? なんならカーニバル全日程の三日──フルで二人に付き合ってもいいよ』
『ほ、本当でございますか!?』
『我が王、万歳!!』
飛び上がって喜ぶ二人。
弾けんばかりの輝く笑顔。
『その代わり──その後、二人は里へと強制リコール。いやー残念だわー。リコールというよりはカムエンペにそのまま残留ってだけかな。その後は希望制になっちゃうけど……他種族の【ハイエルフ】で家に来たい人っているのかな? もしいるならその人を連れて帰るから、そのつもりで。ほんと残念な結果になったわー。あぁ、そうだ。今なら超特別扱いの証として──どっちを選ぶかの選択権、君らにあげようか』
『わぁい……嬉しいな……お留守番……大好きです……』
『我が王……万歳……』
うなだれる二人。
今にも泣きそうな悲壮な顔。
大体ではあるが、そもそもの話。
家に連れて帰るということ自体が当然ではない。
しかし彼は、今のところそれを許容している。
妥当どころか一番に
その様子を見ていると、ついつい可哀そうになるセージ。
すでに二人に対し、だいぶ
『はぁ、わかったよ。なんかお土産、持ってくるし。後で良いなら構ってあげるから』
『『!!』』
表情豊かといえば聞こえがいいが。
エルフ心と秋の空。
なんだかんだで二人はチョロかった。
ついでにセージも甘かった。
◇
「へぇ、ダークエルフの街ってオアシスにあるんですね」
「【デザートエルフ】と申すくらいですもの。まぁその名称も、セイヤ様に
「え……? 種族名がですか?」
「ええ。各種族の名付け親は勇者であるセイヤ様でございますよ」
「ご先祖様が……相変わらずナゾすぎる……」
「デザートエルフの首都・【オンネイト】は過ごしやすい街ですので、王も是非一度、いらしてくださいな!」
「はは、機会があれば遊びに行きますよ。しかし、こうしてお話してると、ディネルースさんがフォレストエルフ並みに好戦的だなんて嘘みたいだ……」
「いえー……お恥ずかしながら、いざ戦場になれば似たり寄ったりなのです。我々はフォレストエルフほど直接戦闘に優れておりませんでしたので、セイヤ様が異世界人仲間である軍師のお方を
『あぁ、あんだけ平素からケンカを売りまくってるのはフォレストエルフだけか』
と、一瞬だけ安堵しかけたが……アンダリエルの会議の時の言葉。それに何より、王が絡めば話は別という言葉を聞き、セージは諦めた。
それよりも。
「ん? ご先祖様の仲間の軍師……?」
初めて聞く情報だった。
だが、エセ双子とは違うので、そこまで情報の小出し感はない。
「はい。【アキラ】さんっておっしゃいまして。ご存じなかったですか? なんでも【軍師的チート】の持ち主だとか。他の種族もセイヤ様を筆頭に、異世界の方にはお世話になっておりますわ」
「キサラギさんのご先祖様ふくめ、何人くらい一緒に召喚されてんだよ、ご先祖様……。しかも他も【チート】持ちかよ……。え、今のところ俺のご先祖様の【生活魔法】が一番パッとしない名前じゃない?」
「ととと、とんでもないことでございます!! セイヤ様こそが絶対にリーダーだと、異世界のお仲間もお認めになっていたらしいですし! ダントツで一番お強いのも勇者様であり覇王でもあるセイヤ様ですし……!」
「ぇー……。この際、強さ
「手紙に、祭り上げ……。──!? まさか【古文書】の封印をお解きに!? カムエンペの方の古文書には、そのような内容が……。その経緯はお書きになっておりました?」
『他にも古文書がある』
そのようにも取れる内容だったが……。
セージは、あえてそこに触れなかった。
「いえ、そこは割愛するとかでして。特には」
「我らが王、セージ様。恐らくは貴方様もそうなのだと思います。剣などで渡り合う戦闘能力に優れているのと一番強いというのは、また違うかと。お心当たり、ございませんか? ──あっ! ワタクシったら、自ら従うべき王に異論を挟むだなんて! どど、どうお詫びをすれば!?」
「いや、会議の時にも言いましたけど、そんな大げさな話じゃないですから、落ち着いて。まぁそれでも、エセ双子よりは全然マシかな」
「エセ双子……? もしや、フォレストハイエルフのアイナリンド様にエルフィロス様ですか? 会議室で目撃した光景が未だに信じられないのですけど……。普段はあんなに気高いお二人が、あのような童女のような姿を……」
どうやらアンダリエルの言う通り、セージが絡まなければエルフコンビは王族らしい王族のようだ。
それだけに残念さが増しているとも言えるが。
「童女か~……。はぁ」
あらぬ方向を向き、溜め息をつくセージ。
「セージ様、どうなさいました……?」
溜め息の理由が分からず、戸惑うディネルース。
「アイナリンド。エルフィロス」
真顔でエルフコンビの名前を言うセージ。
彼が、おもむろに呼びかけた方角。
その物陰には──エセ双子が隠れていた。
……セージが二人の事をフルネームで呼ぶ。
実は、コレが初めてかもしれない。
「はははは、はぅ!」
「ちちちち、ちな、ちなうんです!」
ガクガクと返事をするアイナ。
恐らく『はい』と言いたいのだろう。
まるで幼児退行を起こしているようだ。
「最後、通告だ。次、見つけたら──【ポンポンペイン】。容赦も、慈悲も、一切、無い。次は、泣いても、絶対、許さん。そろそろ、嫌うかも、しれん」
一区切り、一区切り。
まるで刻んでゆくように、セージは語り掛ける。
「そ、そそっ、そそ、」
「あっ、ああぁあ!? あぁあああ!?」
絶望の表情を浮かべる二人。
そして
エセ双子は腰を抜かしてへたり込んだ。
発する言語も意味不明になっている。
さすがに……言い訳の余地がない。
それは世界広しと言えど、彼くらいだろう。
「ポポポ、【ポンポンペイン】……!? あ、あわ、あわわわわ!!」
ついでにディネルースにも余波が及んでいた。
その響きの恐怖は全エルフに対し共通のもの。
エルフである限り、例外はない。
バッチリと遺伝子に刻まれてる。
とんだとばっちりである。
結果、エルフコンビは大人しく帰っていった。
その時の様子は──お察しの通りである。
「あのう、よろしかったんですの……?」
「後で構う約束してますし、その時に何かしますよ。どうぞお気になさらず。それより、ちょっとお疲れのご様子ですか?」
「疲れと申しますより、目の前の展開に頭が追い付かないに近いでしょうか……」
「ちょっとベンチで休憩しましょうか。えーっと、何かなかったかな……イチゴ味の飴ちゃん(自家製)しか持ってないか。まぁ気持ちも落ち着くかもしれませんし、お一ついかがです?」
「あら、よろしいんですの? では王からのお慈悲、ありがたく頂戴いたしますね。…………なにこれ
セージ謹製のイチゴ味キャンディを口に含んだディネルース。
美味しさのあまり、口調が崩れていた。
「えっ、そんな驚くほどですか?」
「何ですのコレ!? お口の中が、未だかつてないほど幸せなのですけど! これが……王の
「いや下賜品て。飴ちゃんあげただけじゃないですか。ささやか過ぎてかえって申し訳ないくらいですし。もっと、ちゃんとしたの差し上げますよ。とはいえ、今の手持ち……お掃除棒しか持ってないや。せめて別の何かを持ち歩いておけばよかったか。これは、しまったな」
セージはお掃除棒(初代)を取り出しつつボヤく。
一応はご先祖様が遺したもの。
口で言うわりに、粗末には扱ってないのだった。
まあ、作ろうと思えば自分で作れるものである。
ゆえに、後生大事というほどでもないのだが。
「え…………? それは、まさか。カムエンペに封印されていた聖剣!?」
先ほどの飴とも比べ物にならない反応。
ディネルースは驚きのあまり、息を呑んでいた。
「確かにエルフの里に刺さってはいましたけど。えっ? まさかこれ、要ります?」
「ひゅっ!?」
王からのあまりにも気軽な──唐突な提案。
まるで『驚きのあまり心臓が止まる』と言わんばかりの表情だった。
「やっぱ、アレですよね。こんなの貰ってもしょうがないですよね?」
「いいいいいい、いただけるんですの!? 本当でございますか!?」
ディネルースは尋常でない食いつきを見せる。
「え、そりゃあ……こんなもので良ければ。あったらあったで、掃除も
「我が王、セージ陛下。このディネルース、改めて絶対の忠誠を誓うと同時に──その申し出、
この人、ちくいち大げさだなーという感想とともに、セージは聖剣・【初代お掃除棒】をディネルースに渡す。
その時、セージは違和感を抱いた。
本当にささやかな違和感だ。
ディネルースのセリフ的におかしいところはないハズ。
むろん、彼女は出会った当初より大げさではある。
だが、何となく……先ほどの発言から、どうしても違和感が
「はは、正式にだなんて、そんな」
「いえ、我が王からの【プロポーズ】ですもの。ここは最上の経緯を払いませんと」
「はっ…………?」
そこで、セージの思考はフリーズした。
「まさか、初参加の会合でプロポーズまでしていただけるなんて……ああっ夢のようですわぁ……!」
「プロ、ポーズ──!?」
「はい。戦闘を重視する【デザートハイエルフ】へプロポーズを行う際は、貴重な武器のプレゼントを行う──【コレであなたの身が守られますように】という意味です。まさか……聖剣ほどの品を
感極まり、涙を見せるディネルース。
もう今さら、セージは言えなかった。
『ハハッ! 別にお掃除棒だし、適当な気持ちであげたんですよね』
などとは。
仮にこれがエセ双子であれば。
有無を言わさず取り上げていたかもしれない。
しかし──この感激の涙を悲しみの涙に変えるのは、あまりにも
とりあえずアンダリエルさんに相談しよう。
そして、問題解決を
セージはそう決意する。
つい最近、エルフコンビに関してではあるが『自害がどうの』という話題が出たばかりである。
これにショックを受け、自傷行為に走られたらたまらない。
セージの持つエルフハーレム(笑)
こうして、エセ双子に加え──思わぬ所から伏兵が現れたのだった。
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