第21話 まさかのエセ双子不在アフター・種族代表会議にて

「覇王! セージ陛下! 御出座ごしゅつざ~!!」


 会議室を守護している衛兵が、響き渡らせるようにげる。

 辺りに漂うのはおごそかかつ大仰な空気。

 だが、それこそ──ここでの彼の立場を示すものだった。


 室内に据えられた席は円卓になっている。

 グルリと一周できるテーブル。

 基本的には序列のない形の造り。

 席の数は、都合七つ。

 セージとエセ双子の分を合わせても、その内の四つは空席となっている。


 現状、席は半分も埋まっていない。

 そして唯一、上の格付け……序列から外された席があった。

 説明するまでもなく、王専用の玉座である。

 一番奥にある席がそれに該当し、一段高い造りになっている。


 その奥の壁には、初代勇者である【聖也の肖像】がかかっていた。

 その外見は子孫であるセージと瓜二つだった。


 すでに集まり、着席していた各部族代表。

 それが、セージの入室とともに一斉に起立する。


「──これほどまでの王気!? こちらが、ワタクシ達の王!!」

「ななな!? セイヤ様と瓜二つであります!!」

「セージ陛下~!!」



 それぞれごとに、大げさなリアクションを見せる女性たち。


 セージはフォレストエルフ代表(代理)の、アンダリエルに案内される形で上座かみざへと至る。


「あのー……アンダリエルさん。本来は俺の方から開始なんかの挨拶するのが筋なのかもしれませんけど、まず聞きたいことが」


 アンダリエルは秘書のようにセージのそばひかえていた。

 自身は着座するつもりが無いようだ。


「王が気をつかわれる必要などございませんので、なんなりと。皆さん、ご覧の通り、今代の王であられるセージ様です」


「いやいや、そういうワケには。えっと……ご紹介に預かりましたセージです。以前は冒険家、今はおもに農作業をやってます。ジョブは【主夫】で、好きな犬種は【デスフェンリル】。日課にしているのは我が家にある神棚への祈り。勇者でも覇王でもないですが、よろしくお願いします。で、さっそくで失礼なんですけど──俺から見て左手前のかた……」


 突然指名され、驚く代表の一人。


「──! ハッ!! 王から先に紹介させるなど! ワタクシは何という無作法ぶさほうを!!」


「いや無作法とかそんな大げさな話じゃないですから。俺、【なんちゃって勇者】なんで。そんなかしこまらなくても。それより聞きたいんですけど、よろしいですか?」


「【ディネルース】と申します!! 王よ、なんなりと!!」


「ディネルースさん。えっと……なんと言えばいいか。もしやですけど、俗に【ダークエルフ】って呼ばれてる種族では?」


「エルフ五種族が一、【デザートエルフ】でございます。人間族からは、そのように呼ばれているようですわね。【種族属性】が【土】なのと、肌の色あたりが原因かと存じます」


 ディネルースと名乗った彼女。

 顔の造形はエルフと同じだが、体型はどちらかとシュッとしている。

 有りていに言えば、細見で肌が浅黒い。


「マジかー……まさか、【デザートエルフ】イコール【ダークエルフ】ときたか……。といいますか、【種族属性】?」


 初耳の単語にセージは首をかしげる。

 エルフというものに関わって以来ずっとであるが。

 情報を小出しにされっ放しの彼だった。


「エルフは種族ごとに、得意分野と属性が違いまして。お聞きになっておりませんか? 例えば【フォレストエルフ】なら【風】。いま、得意分野の方ははぶかせていただきますが……【デザートエルフ】ならば【土】でございます」


「どれもこれも初耳すぎる!! 事前に言っとけよ!! アイナにエルフィィイイ……!!」


 エルフコンビのウッカリ具合にいきどおるセージ。

 合流したとて、彼女らの先行さきゆきは薄暗かった。


「ひ、ヒイィイ!!」

「な、なんという──先ほどとはけた違いの、恐るべき覇気であります!?」

「どど、どうかお静まりを~!!」


 その憤りにより取り乱す会議室の面々。

 エセ双子のせいで、場は混乱をきわめるのであった。


 なお、横に控えているアンダリエルのみ頬に手を当て『あらあら、あの二人ったら──後でお仕置き追加ね』と呟き、ニコニコしている。表情こそ穏やかだが、その額には青筋が浮かんでいた。どうやら相当ご立腹のようだ。


 もはや【聖剣お掃除棒下賜かし】などという甘いシチュエーションは、遠い過去の話となっていた。


「──失礼、別に怒ってはおりませんので。それで、【ディネルース】さんの正面にいらっしゃる女性なんですけど……【ドワーフ】では??」


「【マウンテンエルフ】の【エイル】であります!! 人間の皆さんからは【ドワーフ】とも呼ばれているであります! 先日は聖剣の打ち直しを担当させていただきました!! 【種族特性】は【火】であります!!」


 敬礼しながら溌剌はつらつと声を発する女性。

 世間では【ドワーフ】と言われている彼女。

 特徴は人間に伝わるものと全く一緒である。

 女性は小柄な体型で、男性は筋骨隆々。

 主に、鍛冶や治金などが得意とされている種族。


「なるほど、【マウンテンエルフ】。……コレ、【亜人】って呼ばれてる人のほとんどはエルフなんじゃねえの? あ、エイルさんもご丁寧にどうも」


「恐縮であります!!」


「敬礼はもういいですから。でも、そうか。マサユキは貴女に打ち直されたのか。……うん、それなら──良かったのかもしれないな」


 しみじみと漏らすセージ。

 聖剣マサユキについては、彼なりに思うところがあるようだ。


「マウンテンエルフは火を扱うことが得意でありますので、また何かございましたらご用命を!!」


「その時はありがたく。……それで失礼なんですけど、左手奥にいらっしゃる方。申し訳ない、二人と違って心当たりがまるでない」


「いえ~、どうぞお気になさらず。私、【シーエルフ】という種族で、名を【エアルウィン】と申します~。種族特性は申し上げるまでもなく【水】でして~、人間さんといいますか……主に船乗りさんからですけど、【マーメイド】と呼ばれてますね~」


 おっとりとした様子で答える女性。

 語尾のことごとくが間延まのびしている。


 特徴的には【フォレストエルフ】よりも、むしろ人間に近い。

 肌の色も白い上に、下半身が魚というワケでもない。

 ただ、格好は水着のように露出が多い。

 そしてスタイルにおいては、全種族の中でトップクラスだった。


「【マーメイド】……? というと【人魚族】!? えっ、普通に陸地にいていいんですか?」


「下半身でしたら任意に変えられますので問題ございませんよ~。なんなら今、ご覧にいれましょうか~?」


「いえ……純粋な知的好奇心はありますけど、今お願いしちゃうと変態認定をくらっちゃいそうなので、また今度で。あれ? 伝承だと魔法使いから人間とまじわる代わりに声を奪われたとか、恋に破れた結果、あぶくになって海に還ったとか……」


「えーっと~……それは吟遊詩人さんがお創りになった創作ですね~。なんでも、『そっちの方がドラマチックで語りがいがある』のだとか~。いちいち泡になってたら我々、とっくに絶滅してますよ~?」


「そ、そうですか? そう言われると身も蓋もない話ですが……。しかしなるほど、創作か……」


「あ、語られている内容でも、一ヵ所だけ合っている部分もあるんですよ~?」


「合っている部分? 泡になるわけでもなければ、声が出ないわけでもない。陸地に上がるのにリスクもなさそうですけど……」


「はい~、『情熱的な恋をする種族』という部分です~。エルフの中でも比較的、社交性がございまして~、本当にまれではありますけど、中には船乗りさんと一緒になる子なんかも~」


「社交性……。そうだ! 【マーメイド】──じゃなかった、【シーエルフ】に限らず、各種族の皆さんに『これだけはまず聞いておきたい』ってことがあるんですけど!!」


「最初に申し上げたように、セージ様は王でいらっしゃるのですから。はばかられる質問なんて一切ございませんよ? 各エルフの一族の名称も、お好きにお呼びください。呼びやすければ、他の人間の方々と同じ呼称でも全く構いません。どうぞ、お聞きになりたいことがございましたら、ご随意ずいいに」


 気をかせ、セージの質問をうながしてくれるのはフォレストエルフ代表(代理)のアンダリエル。


 この場にいないエセ双子の立場があやうくなるような有能さだったが、彼女は里の長老という役割がある。


 残念ながら、トレード不可物件だった。


「では遠慮なく。呼び方は他の人間と同じにさせていただくということで。それで、肝心の質問の方なんですけど……。あのっ!! この中で──『我こそはフォレストエルフよりも控え目である!』という自信のある方は、どうか挙手を!!」


 静まり返る会議室。

 ここに、覇王・セージの野望はついえたのだった。

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