三話 戦闘開始

「うん、大きい」


 レーラーは凍結華鳥の青白い魔石を両手に取る。魔石の色は魔物によって変わったりする。

 そして、レーラーは手に取った魔石を数秒しっかりと見つめた後、虚空へと消した。〝魔石を仕舞う魔法マインラーガン〟で異空間に仕舞ったのだ。


 やっぱり、レーラーが使う魔法を見るとライゼの“空鞄”も大した祝福ギフトではないと感じてしまう。まぁ、祝福ギフトに優劣などはあまりないのだが。

 それでも、レーラーが千年以上も生きて、歩いて、集めてきた魔法はチートと呼ばれてもいい程の魔法が多い。それにレーラーしか知らない魔法も多いようだし。


 そしてライゼはその魔法の殆どを使えない。

 高等な魔法ほど、チートと思える魔法ほど魔力消費が激しく、最低でも上級魔法に匹敵するのだ。最低でもである。因みに〝魔石を仕舞う魔法マインラーガン〟も上級魔法ほどの魔力を消費する。


 それを事もなげに使うレーラーは凄い。

 魔力量が通常よりも凄い多い俺でもポンポンと使える魔法ではない。


「レーラー師匠。報告はどうするの?」


 魔石を虚空へ仕舞ったレーラーに、俺の背中に乗っていたライゼが訊ねる。

 短期間の移動の最中に俺の背中で疲れを確実にとったらしく、ライゼは涼しい顔で俺の背中から降りた。また、警戒のためか“森顎”と“森彩”をそれぞれ両手に持っている。


「使い魔を召喚して、手紙を持たせるよ」


 ライゼの問いに、レーラーはそう返して懐から細い糸で括られている細く丸められた手紙を取り出し、また、召喚系の魔法で鷲程度の大きさの鳥を呼び出した。

 そして、その鳥の足に手紙を括りつけると南の方へと放った。


 そして、レーラはその鳥が遠くへ消えたの見て。


「これで一時間後には村の方に情報がわた――」


 言葉を止めた。


「――レーラー師匠ッ!」


 ライゼが叫ぶよりも前に、俺達は“身体強化”をマックスにしてその場を、転ぶように跳び退いた。

 それと同時に、俺達がいた場所に氷の華が咲き誇る。満開だ。


「チッ、情報と違う」

「っていうか、何で魔物が隠蔽してるの!?」


 俺は“身大変化”で体を小さくし、着けていた旅の荷物を強力な防護結界を張って保護する。

 また、受け身をとり、氷の上で滑るライゼの懐へと跳び乗る。


 そんなライゼは珍しく驚いた声を上げる。

 というか、ライゼだけでなく、いつもは無表情なレーラーも分かりやすく目を見開き、また、俺も驚いている。


 俺達の上部には数百という氷を纏った鳥型の魔物がいた。体長数メートルある巨大な蒼白い鳥が数十に、それよりも一回り小さい青白い鳥が数百。


 凍結華鳥と氷結花鳥だ。凍結華鳥が大きい方である。

 しかし、そんな氷の群れの中に一匹だけ毛色の違う鳥がいた。


「ライゼ、昨日教えた無凍氷鳥だよ。〝氷の隠蔽を施す魔法アイタノン〟を使う聖位の」


 新雪にも近い色合いを纏い、氷雪を漂わせている鳥だ。

 〝氷の隠蔽を施す魔法アイタノン〟は、氷や雪を身につけた、もしくは纏った存在を隠蔽する魔法だ。つまり、無凍氷鳥は隠蔽を使う特殊な魔物なのだ。


「氷を纏ってたから、魔力反応に気が付かなかったて事?」

「うん」


 二人は油断なく空に浮かぶ大災害にも匹敵する魔物の群れを見ながら、言葉を交わす。また、手による合図で、正確な情報をやり取りする。

 〝思念を伝える魔法ナフクモニカクソン〟は使わない。上位の魔物になればなるほど魔力反応に敏感になる。しかも、〝思念を伝える魔法ナフクモニカクソン〟は魔力に思念を乗せる魔法だ。


 〝思念を伝える魔法ナフクモニカクソン〟で交わしている言葉が分からなくとも、思念が分かってしまえば情報が筒抜けである。上位以上の魔物は知恵も回る。悪魔の様に狡猾な知恵を持つ。

 だからこそ、口と手で情報交換をするのだ。


「……分かったよ」

「よろしく」


 ライゼは徐に深く深く腰を落とし、また、右足を少しだけ引いて半身をとる。

 それから、“森顎”を握る右手を腰らへんに、“森彩”を握る左手を顔の前に持ってきて、“身体強化”をしていく。


 対してレーラーは虚空から取り出した翡翠の水晶が浮いている木製の大杖を両手で構え、しかし、先程まで見開いていた翡翠の瞳は半眼へと戻っている。

 また、体内の魔力は練っているものの制限している放出魔力を解放していない。


 つまり、本気ではない。


 そして。


「ハッ!」


 ライゼは履いている靴に組み込まれた〝物体を射出する魔法オピエシュピッツォン〟を使って、凍結華鳥たちの群れに飛んで行った。

 飛びながら、柄を内側に折り曲げ、腰辺りに構えた“森顎”の銃口を無凍氷鳥に向ける。


 そして“森顎”の通常弾である“宝石銃弾”を砲撃した。

 銃などという機構を知らない無凍氷鳥は撃ち抜かれて死んだ。


 しかし、そんな奇襲が成功するのは一回きりだ。凍結華鳥が今まで見慣れていなかったライゼの武器を知り、一斉に嘶く。

 すれば、凍結華鳥も氷結花鳥も一斉に散開し、空中で無防備なライゼを囲み、体内の魔力を高め、放出魔力を上げていく。


 だが、ライゼはそれを見越して腰のあたりで“森顎”を放ったのだ。

 “森顎”を放ったことにより多少なりとも反動が生じて、ライゼは右回転する。右回転しながら、“森彩”の柄を内側に七十度折り曲げ、雷を纏った“宝石銃弾”を乱射する。


「シッ」


 雷がライゼの周囲一帯に落ちた。そう錯覚するほどの雷を纏った“宝石銃弾”をライゼが乱射したのだ。

 意図的に魔力を注ぎ込み、雷の魔法が込められた“宝石銃弾”を高速で装填し、高速で解放して、連射と見間違うほどの速度で撃ち出しまくる。


 そして、解放された雷の魔法は凍結華鳥と氷結花鳥が纏う氷を伝い、大きな紫電の世界を創り出す。

 更に更に、“森彩”から高速で数十もの銃弾を撃ち出した反動で加速的に回転したライゼは、“森彩”に付く回転式の“宝石倉”をギミックで回転させ、雷の“宝石銃弾”から、違う“宝石銃弾”へと切り替える。


――ケェーーッ!――


 しかし、魔力を高めて魔法耐性を上げ、雷の世界を耐えきった凍結華鳥と氷結花鳥は一斉に鳴き叫ぶと空中に氷の華を浮かせる。氷の花吹雪が雷の世界を覆いつくそうとする。

 雷の世界と氷の花吹雪の世界がぶつかり合った。

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