十六話 レッスンワン

 入学試験が終わった次の日。ライゼは王立魔法学園に来ていた。


 入学手続きと、森人エルフの人と戦うためである。

 というのも、昨日は色々あって学園側に余裕がなかったため、また、殆どの人がそれを要求してこなかったため、学園側にその勝負を許可する時間がなかったのだ。

 

 そのため、明日なら大丈夫ということもあり、ライゼは入学手続きの書類提出や説明を聞いていたのだ。

 そうして午前中を過ごし、午後になった。

 ライゼは昨日と同じ闘技場にいた。


「待ってたよ」


 新緑のローブを羽織り、ポニーテルの煌く金髪を腰まで垂らした森人エルフがライゼに身体を向ける。

 翡翠の瞳はとても冷たく、表情筋が死んでいるのではないかと勘違いするほど、無表情な森人エルフである。


 そして、ライゼと同等かそれよりも少し背の低い彼女だが、その冷たい表情故か、とても大人びて見える。

 そうか、ライゼが幼く見えるのは雰囲気のせいなか。


「レーラン様、今日は僕の要望を聞き入れて下さりありがとうございます」

「なに、こっちは暇な身でね。それより、もっと軽い口調でいいよ、ライゼ。それと首元に隠れているトカゲも出てきなよ」


 レーランはチラリと俺の方を見る。

 あ、これは完全にばれてるな。


『ライゼ、バレてる。隠し通すのは無理だな』

『うん』


 なので、俺はライゼが纏っている深緑ローブの首元から這い出て、ライゼの肩に乗る。また、〝思念を伝える魔法ナフクモニカクソン〟をレーランへと繋げる。


『今日はライゼのお願いを聞いてくれてありがとな』

『……これは驚いた。君は幻獣なのか』


 全くもって表情が変わっていないレーランは驚いたと言った。嘘つけ。

 また、ライゼも〝思念を伝える魔法ナフクモニカクソン〟をレーランに繋げる。


『彼はヘルメス。僕の家族です。ところでレーラン様。幻獣とは何なのですか?』

『へぇ、名前まであるんだ。……で、幻獣だったね。幻獣は理知ありし獣の事だよ。人類の様に考え、また、膨大な魔力を持ち、魔法を使う存在さ』

『へー、初めて知った』


 というか、俺以外にも理性を持っていて、言葉が通じる奴がいるんだな。

 前世の記憶を持つとかそういうイレギュラーなしでも、そういう事が可能かどうかは気になるが。


「……まぁ、詳しい話は後にしようよ。どうせ君は特待生なんだ。なら、私が担当するだろうしな。だから、まずは最初の授業をしよう」

「……はい」


 まだ、授業の詳細な情報は知らないため、少しだけレーランが担当する授業が気になるが、それは直にわかる。

 なので、ライゼは疑問を後回しにしたのだろう。


「さて、試合の前に条件をハッキリさせておく。一つ目、この試合にどんな手も許可する。武器だろうが、毒だろうがなんだって使っていい。だから、その右腕に付けている魔道具を使っても構わない。むしろ、使ってきてほしい。二つ目、勝利条件についてだが、私は傷を少しでも負えば負け、君は……そうだな、三分間気絶したら負け。この二つでどうだい?」


 淡々と言う。

 よく噛まないでいえるな。


「……いいんですか、それで」

「もちろんだとも。あ、どんな傷を負っても私が回復させてあげるから遠慮はいらないよ。それとヘルメスも一緒に来てもいいよ」

『いや、それはやめとく。ライゼが楽しみにしているからな。水を差すのは悪い』

「そう、なら、始めようか」


 そして、俺はライゼの邪魔にならないように、ライゼの肩から飛び降りて、“身大変化”で身体をある程度大きくして、見晴らしのいい場所に移動する。

 魔力隠蔽しているとはいえ僅かばかり魔力を放出しているから、たぶん、俺が首元にいたら精密な魔力操作をミスる可能性がある。それは避けたい。


『ヘルメス、審判よろしく』

『わかった』


 大きくなった俺に対して何の反応も示さず、レーランは俺を見てそう言った。

 その無表情を動かそうと思ったが、無理だったらしい。


『両者、構え』


 なので、俺は言われた通り審判役をする。


 レーランは、どこからともなく取り出した翡翠の水晶が浮いている大きな木製の杖を両手で構える。

 また、昨日のような縛りをするつもりはないらしく、ライゼも右腕に付けていた“魔倉の腕輪”を外し、魔力を通す。

 すると、“魔倉の腕輪”はカシャンカシャンと音を立てながら変形していき、両端に短刀が付いた蜥蜴色の小さな棒になった。


 そして、それを捻ると中心で外れて、二本の短刀になる。

 “魔倉の腕輪”は“魔倉の短刀”に変化するのだ。今、俺ができる集大成の魔道具である。


「すごいね、その魔道具」

「はい。僕の自慢の家族が作ってくれました」

「そう」


 レーランは俺をチラリと見て、そして油断なくライゼを見定めた。


『始め!』


 そして、俺は両者の雰囲気が整った時を狙って、合図をする。


 瞬間、両者の周囲から無数の〝攻撃する魔法アングルドゥ〟の魔力弾が現れ、無軌道に相手を穿ちにいく。殺意の嵐だ。

 ……これ、ライゼは死なないか? 

 まぁ、万が一のために特別な魔道具も渡しているし大丈夫か。


 そしてそんな俺の心配をよそに、魔力弾全てが衝突して、闘技場全体が閃光に包まれた。俺の視界は真っ白の染め上げられた。


 だが、鍛えられた魔力感知がレーランの居場所を捉える。

 だけど、ライゼの居場所が分からない。いつもライゼの魔力を感じていたから、他の魔力よりも敏感に反応できるのだが。


 ああ、でも、ライゼは放出魔力を無にすることができるからな。

 ……あ、レーランの魔力も感じなくなった。


 真っ白な光に包まれて闘技場の状態は把握できなくなった。

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