十話 第一試合
そして精神的な療養と称し、昼休憩が長く取られた。
ライゼは試験官の人たちに呼び出されて軽く注意された。
また、〝
老人と
変人と常識人で分かれたというイメージである。
因みに、俺は感性がトカゲ寄りになってしまったため、あの黒のあん畜生が美味しそうに見えてしまった。しょうがない。理性と前世の記憶を持っていても、今の俺はトカゲなのである。
ああ、それと普通は各グループから一位、二位の二人がトーナメント戦へと勝ちあがる事ができるのだが、ライゼのグループの暫定二位の子が出たくないと、というか精神的に不安定な事もあって棄権したのである。
そして、暫定三位だった子も嫌がったので、また、その他の子も嫌がったので、決勝トーナメントに進んだのは合計九人となった。
そんな本来ではありえない事態を引き起こしたライゼは、指定されていた食堂で美味しそうにハクールという果物を食べていた。
ハクールとは、見た目は小さいリンゴみたいなのだが、リンゴ以上にとても甘い果物である。また水分をとても多く含んでいて、栄養価も高く、滋養強壮効果もあるのだ。冒険者が保存食などとして好き好んで食べる果物である。
他の食べ物は食べない。食べると動いたときに邪魔になるからだ。
なので、ライゼは“空鞄”から取り出したハクールを一つだけ大事に食べていたのだ。
また、俺はライゼが用意してくれた燻製肉の切れ端を食べている。俺は
燻製によって閉じ込められた旨味とほんの少しの雑味がとても美味しいのだ。
そうやって少しだけ長く取られた昼休憩が終わり、俺達は再び闘技場に集まっていた。
ここまでで九十人近くが敗退し、観戦客の方で見守っているのだが、見た感じ観戦客の大多数は受験者ではなく、在校生の子たちだった。しかも、午前中にはいなかった子たちが多数である。
殆んどの人が、蠢く虫の大群に心をやられたのだろう。可哀想に。
そして試験官の三人と進行役の人が入ってきてライゼたち九人が決勝トーナメントの詳細と確認事項を伝えられた。
また、残っていた貴族の子たちがライゼをもの凄い目で見ていた。敵愾心を露わにしたり、興味深そうにみていたらり、警戒していたりと様々である。
ライゼはそれらを全て読み取りながら頭の中で作戦を立てているが、気づかれないようにポワポワと笑っていた。童顔と低い身長も相まって、子供っぽくて無邪気な感じである。
場違いだ。
「では、第一試合を始めます。アウルラ・アイファング様、ハミン・フィヨルド様。どうぞ前へ」
進行役の人が言うと、銀髪柴目の冷徹な美少女と黒のとんがり帽子を被ったメガネっ娘が出てきた。
というか、銀髪の子のこの国の王族じゃねぇか。だって、この国と同じ苗字を名乗れるのって王族だけだし。へぇー、マジか。
あ、そう言えば、昨日はライゼの後にいたな。
昨日のライゼがあまりにもカッコよくてあの後の子の名前とか聞いてなかったんだよな。ただ、ライゼの表情を見る限りだと、ライゼは知っていたらしい。
そして、アウルラとハミンは闘技場の中心に立つ。
「両者、礼」
進行役の人が鋭い声でそういうと、共に礼をする。そして五歩下がる。
「では、これより第一試合を開始する。“護身の腕輪”が壊れるか、もしくは場外に出た場合、試合を終了させる。……両者、構え!」
二人は構える。共に魔法専門なのか、アウルラは魔力がとても籠った小さな杖を、ハミンは同じく魔力の籠った大きな杖を構える。
「始め!」
進行役の人の言葉と共に両者が互いの杖を相手に向ける。
瞬間。
「〝
「〝
数十発もの魔力弾が現れ、閃光を描いてぶつかり合う。ただ、両者はそれに頓着することなく、リングの周りをゆっくりと回りながら、ジリジリと中央から離れる。
そして、我慢比べで最初に動いたのはハミン。
「〝
瞬間、ハミンの周りには水の槍が数本浮かび上がり、槍先がアウルラに向かう。それら全てが同じタイミングで射出する。
まだ、同時発動はできてもずらしたりすることはできないらしい。
とは言っても、まぁまぁスピードと質量がある水槍がアウルラを襲い掛かろうとしている。
が、しかし、アウルラは冷静に魔力を練り。
「〝
自分の目の前に大きな障壁を展開した。そして、その障壁に当たった水槍は跳ね返されたようにハミンの方へ向き、射出された。
ハミンは慌てて魔力を練っていたが間に合わず、自分の水槍を全て受けてしまう。
そして、同時にガラスが割れたような音と共に、ハミンの左腕についていた外部からの身体的ダメージを肩代わりする“護身の腕輪”が壊れた。
「勝者、アウルラ・アイファング!」
花ある決勝トーナメントの第一試合の勝者はアウルラになった。
流石、アイファング王国の王族だけに伝わる魔法である。強力だな。
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