一話 早朝
窓から零れる星の光。未だ夜は明けていない。
暗く照らされたある個室で九歳近くの身長の少年が着替えをしている。黒のズボンに白のシャツ、深緑のローブ、右腕に金属製の腕輪、そしてシャツの下には蒼い宝石のペンダントを身に着ける。
また、脱いだ寝間着を丁寧に畳み、ベットメイキングされたベットに置く。
「〝
そして謳う。
すると、寝間着が淡い光に包まれる。
『ヘルメス、起きて』
『んぁ、ああ』
ライゼに起こされた俺は、机の上においてある俺専用のベットから起き上がり、伸ばされたライゼの手の乗り移る。
それから大きなあくびをする。
『やっぱ、四年経ってもこの時間に起きるのは慣れないな』
『けど、今日は素直に起きたよね。いつもはもっと渋るのに』
いつもの日課をこなす為に四畳ほどの小さな部屋から出たライゼは、肩に乗っている俺をチラリと見ながら言った。
四年経って身体もある程度大きくはなったが、種族の影響か同年代の子供より頭一つ分小さい。九歳程度だろうか。
また、顔立ちも幼いままだが、けれど、そのこげ茶の瞳はとても光に満ちていた。
『今日は、試験日だろ。そりゃ、少しは殊勝な気分になるさ』
『……ああ、そうだったね』
ただ、俺ですら重要だと思う事を事もなげに扱っている。まぁ、いつも通りやっていれば問題ないからな。
『で、今日はどっちから始めるんだ?』
『配達だね。その後、薬草の採取を少しやって、その後試験だよ』
『そうか』
そして俺たちは冒険者専用宿舎を出て、住宅街へと向かった。
いつも通り、朝の仕事をこなした。
Φ
老人が死んでから四年。俺の方はあまり変わりはなかった。
いや、いくつか魔法を覚えたし、言葉も覚えた。それに、魔道具という魔法を込めた道具を作る事にも嵌った。
けど、ステータス的には変化はなかった。
強いて言えば、名前がヘルメスとなったくらいか。ライゼが好きな物語から貰った名前である。大切な名前だ。
けれど、ライゼのステータスは大きく成長した。
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名前:ライゼ
種族:小鬼人
スキル:休息・飢餓耐性・脚力強化・徹夜・算術・忍耐・記憶・速読・魔力操作・魔力感知・魔力回復・魔力隠蔽
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と、こんなのを出してもどこが成長したかは分からないと思うが、“算術”以降のスキルは老人が死んでから身に着けたものである。
つまり、四年間で六つのスキルを身に着けたのだ。
これはとても凄い事である。
この世界の常識ではスキルを一つ身に着けるのに大体三、四年掛かるのが当たり前だ。それなのにライゼは一つスキルを身に着ける期間で六つも身に着けたのだ。
これはライゼが特殊な個体とか恵まれていたとかそういうわけではなく、成長期だったこと、そして文字通り血の滲む努力をしてきたから可能になった事である。
この四年間。ライゼは寝る間も、いや、あらゆる時間を惜しんで王立魔法学園に入る勉強をしていた。
それだけじゃない。独学ではあるが魔法の勉強もしていた。
運がよかったことにここは王都だった。
そして、国王の意向もあって王立図書館や冒険者ギルド資料館はお金を払えば、誰でも閲覧できるようになっていた。
ライゼはそれらの書物で必死に勉強したのだ。
まぁ、ただ、この世界の数学などはあまり進んでいなかったので、主に理系に関しては俺が直接教えた。
というか、大学をぽっと出ただけの俺ですら教えられるほど、基本的な学問レベルは高くはなかった。
まぁ、特殊な専門機関に行けばその限りではないが。
だけど、これは自慢だが、ライゼは王立魔法学園の入学試験の筆記試験は一位を取ることは間違いないだろう。
つい先日、冒険者ギルドの伝手を使って、入学筆記試験の過去問を手に入れて、ライゼが解いたのだが、満点だった。時間も余裕で余した満点だった。
なので、筆記試験は問題ないと思っている。
だけど。
『なぁ、本当にあれは使わないのか? せっかく作ったのに』
『うん、試験は僕だけの実力で挑みたい。もちろん、道具を使う事自体も実力の内だろうけど、何というか一種の縛りみたいなものかな。挑んでみたいんだ』
『……そうか』
ライゼは圧倒的に魔法を扱う才能がない。
いや、弛まぬ努力で高い魔力操作技術や魔法技術は持っている。けれど、魔法を使う上で最も重要な才能がない。
『そうか。なら、空鞄に仕舞うのか』
『いや、試験じゃないときに何かあったら困るから、一応持っておくよ。それにヘルメスが僕のために作ってくれた“魔倉の腕輪”だよ。お守りとして身に着けてきたい』
朝日が登る街中を駆けながらそう言ったライゼの右腕には、蜥蜴色の腕輪が輝いている。魔道具作りにはまった俺が作った腕輪である。
“魔倉の腕輪”は、とてもシンプルな特性を持つ。
それは魔力を溜めるという特性だ。まぁ、ただ他の魔力を溜める魔道具よりは性能が高いが。なんせ、魔力量だけは無駄にある俺の鱗を使っているし。
そして魔法を使うライゼにとって、その腕輪は重要な物なのだ。
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