Final ──決勝──

「コスプレが効いたのかしら?」

「でしょうか……」

 レースは9周目に入る。同時に龍一のファーステストラップ。かえってウィングタイガーの面々が驚いたくらいだ。

「何て言ってるんだ?」

「さ、さあ、英語だから全然……」

 龍一のマシンが映っているのを見ても、実況解説が英語なので、英語に疎い両親はちんぷんかんぷんだった。画面には Fastest lap の表示も出たが。レースにも疎いので、それが何を意味するのかわからず。

 なんだか置き去りにされたような気持ちでディスプレイを眺めた。

 龍一はディスプレイを凝視し、吹き飛ぶように流れゆくディオゲネスの市街地コースに没入していた。

 身体はシムリグとリンクしていた。

 ソキョンの言う通り、緊張が氷のように心に張り付いていたが。それはもうすっかり融けていた。入れ替わりのように、様々な気持ちが湧き出ていた。

 ゲームの楽しさ。

 楽しさへの過程の喜怒哀楽。

 喜怒哀楽をすべて含めたゲームの楽しさ。思いっきり楽しんで、思いっきり悔しがって。

(友達か……)

 友達だから。友達だから、精一杯戦いたい、そして勝ちたい。

(それが、オレのことを友達と言ってくれたヴァイオレットガールへの恩返し……)

 ヴァイオレットガールが膝をつくのを見て、どうしようかと一瞬迷ったが、すぐにその迷いを恥じて、続けて膝をついた。

 いや、ヴァイオレットガールだけじゃない。フィチにレインボー・アイリーン、カール・カイサ。

「みんな、待っていろよ……」

 ぽそっとつぶやいた。

 口に出したのでヘッドセット越しにスタッフにも聞こえた。混乱を避けるため個別に繋いでいるので、フィチには聞こえなかったが。

 ソキョンはやけに笑顔になった。

「いい傾向ね」

 優佳たちも笑顔で頷いた。

 レースは、10周目、11周目、12周目と、周回を重ねる。

 ヴァイオレットガールはミラーを覗く回数が増える。ずっと気を張り詰めてトップを走り続けるのは、精神的に厳しいことだ。

 対して、追う側のフィチたちは離されないようにと、今の時点では割り切った走り方をしているので気持ち的には楽だった。

 バトルが激しくなるのは終盤だろう。

「……そうするわ」

 ヘッドセット越しにスタッフと何かやり取りをして、ヴァイオレットガールは頷いた。

(いけるッ!)

 ディオゲネスの市街地コース、第1、第2コーナーを抜けて連続S字区間に差し掛かるコーナー入り口。ヴァイオレットガールのインが開き、そこにすかさず飛び込む。

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