Battle against myself ―自分との戦い―
シムリグに身を預けた。
成り行きとはいえ、気晴らしの外出も出来て、少なくなったビスケットの補充も出来た。
シムリグ用で室内用のレーシングシューズを履き、レーシンググローブも嵌めて、気持ちも新たに、
「さあ、やるか!」
と、Forza Eのタイムトライアルモードを再開し、我がゴーストを追う。
「1分30秒の壁も越えられたら」
ディオゲネスのワールドレコードはヴァイオレットガールの出したタイムだが。彼女もまた、同じように1分30秒の壁を越えようとしている。
SNSでは、タイムトライアルにいそしむ様子を配信し、アップロードしているが。なかなか自分にも勝てず。やむなく諦めて。
「Oh my god!」
と、肩をすくめる仕草をして、観る者に色んな意味での笑いを誘った。が、それで本当に諦めるわけでもなく。
「次こそやるよ!」
と、カメラ目線で愛嬌ある笑顔で言って。配信を締めるのであった。
(彼女は寝てるのか、まだプレイしてる様子はない。今のうちに更新できて、驚かせることが出来たらいいな)
再開する前に記録表を見たが、まだ更新されていない。チャンス! とばかりに、ディオゲネスのコースを攻めた。
コースレイアウトはシンプルで、Forza Eの電動マシンも扱いやすく最高速も控え目。だからこそ、突き詰めるほどに難しくなってくる。
鋭いモーター音が耳を突くのが心地いい。ディスプレイの中のヴァーチャルマシンと、シムリグを通じてリンクする。
ちなみに、ボイスチャットは切ったまま。集中したいから。それでもヘッドセットをするのは、自宅とは言え音が漏れて母に迷惑を掛けたくないから。
モーター音はエンジン音に比べて静かとはいえ、集中していると、目に見えない針金で耳を突くかのごとく耳を貫いてきて、ハートにいたり、気持ちが昂る。やっぱり、何かしらの音がある方が気分も上がるというものだ。
「……」
無言。集中。
ちらつくゴースト。
ディスプレイの中の街の景色は吹き飛ぶように流れてゆく。
右直角の最終コーナー、ちらつくゴーストより遅めのブレーキングはせず、基本通りの早めのブレーキング。ゴーストに引き摺られて下手な遅めのブレーキはかえってタイムロスになる。
コーナーを抜け、立ち上がり、フルスロットル。モーター音も甲高くなる。ゴーストは見えない。
(どうだ!)
ゴールラインを越えれば、タイムは緑色の表示。しかし。
「だめだ」
漏れる声。
タイムは、1:30.760。
わずかコンマ002秒の更新。順位も変わらず、もちろん30秒の壁越えもならなかった。
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