Battle against myself ―自分との戦い―
クラッシュした二台のマシンはもんどりうちながらも着地して、どうにかこうにかコースに復帰するが。
それまでに大きく順位を落とすどころか、最下位にまで落ちてしまった。
通りすがりだろうか。
チャットの中の文字の羅列の中で、
Is this real race?
という質問があった。それに対して、
Yes haha
そんな、明らかにからかってこたえている文字が流れた。その一方で、
No, it's a game
といった言葉も流れていったが、すぐに
No! it's a sim racing!
といったも言葉も流れていった。
通りすがりの質問者は驚いた様子で、
Oh, so this is a game!
とチャットに書き込んだ。
そう、これはゲーム。動画投稿サイトでのレースゲームのライブ配信だった。
レースゲームは、今は Sim Racing - シム・レーシング と一般的に呼ばれていた。レースゲームという言い方は年がばれる。
確かに目を凝らせば、コンピューターグラフィックだとわかるが。最近のCG技術は飛躍的に進化し。ぱっと見実写と見紛うばかり。
マシンもコースも、オフィシャルも熱狂する観客も、青い空も太陽も気まぐれに泳ぐ雲たちも、やはりCGである。
そのCGによるシム・レーシングだから、クラッシュしてもバラバラになったりせずにまるでボールのような滑稽な動きを見せたのである。
これはレース主催者がそのように設定していたからだ。設定次第では、一発廃車のリアル設定も出来る。
それきり、質問者は絶句したのかどうか、チャットに文字を浮かべることはなかったが。
動画観戦のギャラリーたちは質問者のことなどもう忘れて、レースに集中し。思い思いにチャットに書き込みをした。
テレビゲームが世に出てから年月が経ち。
かつては子どもの遊びとされていたのが、いまやeスポーツとして、プロゲーマーによるプロフェッショナルスポーツへと進化を遂げたのだ。
プロゲーマーチームとして独立したチームもあり、野球やサッカーなど、名だたるプロスポーツチームのeスポーツ部門もあり。
リアルとネットの世界をつなぎながら、毎日どこかで熱い試合が繰り広げられていた。
レースゲーム、もとい、シムレーシングも同じく。
日本のどこかの、とあるアパートの一室。六畳の部屋の隅にコクピットキットことシムリグを置き、若きシムレーサーがシムリグのシートに身を預けてハンドルコントローラーを握りしめ。目前の画面に表示されるレーシングシーンを睨み。
レースに没頭していた。
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