9 収益化配信

「盛り上がってますか~!!」

シオンの声に応えるコメントでチャット欄が埋め尽くされる。

今日はシオンの収益化記念配信だ。

WeTubeでは、チャンネル登録者数と総再生時間の条件を満たすと収益化の申請をできるようになる。

大きな事務所に所属しているVTuberなら今では最初の配信で申請できるようになるが、個人勢は中々このハードルが高い。

企業勢とは違って、ファンが最初からつきにくいのだ。

登録者1000人を達成するだけでもやっとである。

そんなことなので普通はシオンも苦労するはずなのだが……。

「皆さんのおかげで、なんと二週間で収益化通っちゃいました! 本当にありがとうございます!」

そう、なんと一週間で収益化の条件を満たしてしまったのだ。

もちろん事前のSwitterでの準備や僕の生み出した高クオリティの映像やBGMなど注目されるような要因は揃ってはいたものの、ここまで早く達成できるかどうかは運に左右されてくる。

普通高クオリティのものでやっていこうとすると当然お金がかかる。

イラスト代、それを動かせるようLive2Dにしてもらうモデリング代、そしてマイクやPCなどの配信機材代。これらを全て良いもので揃えようとすると、とんでもない額になってしまう。

VTuberというだけでは絶対に注目されない今の時代で、ここまで費用をかけて挑もうとする個人勢は中々いない。せいぜいが神絵師や政治家など、元々別の分野で知名度を持っている人くらいだ。

その点、詩音はお金に余裕がある上に僕という高品質な素材を提供してくれる存在がいたことで、そういったハードルを大分下げたことだろう。

ただ運だけはどうしようもない。それをつかみ取ったのは紛れもなく詩音の実力だ。

「今日は収益化が通ったことを記念して、私の自作アニメを流しながら歌っていきたいと思います!」

シオンの合図に曲を流し始め、映像を切り替える。

もちろん自作アニメとは僕の作ったアニメーションだ。

シオンの歌う曲に合わせて、激しい戦闘シーンや綺麗な情景を巡るシーンなど様々なアニメーションを流していく。

作画コストが全くかからない、一枚一枚が神絵師レベルで仕上げられた戦闘シーンや風景などが、他には無いような迫力を持って視聴者に衝撃を与えていく。

特に視聴者のお気に入りはシオンの銃撃シーンのようだ。

屈託の無い笑顔で乱射しまくる様子はまさにサイコパスそのものであり、視聴者は「これは清楚」「か、かわいい」と喜んでいる。

しかし、ここまでのアニメーションを流せるVTuberは中々いない。

そこであるVTuberとの関係を疑いはじめるコメントがさっそく流れ出した。

「もしかして、これレイフくんのとこで作られたアニメじゃね?」

「こんだけ高いクオリティのアニメ作れるのはレイフくんだけだろ」

「最近配布されたレイフ君のソフト使ってるんじゃないか?」

「誰かレイフ君のソフト使ってる人はいないのか」

やばいやばい。

完全にバレてるじゃないか。同接──同時接続人数が100人前後ということもあり、リスナーからリスナーへ瞬く間に伝達していく。

どうしよう、ごまかすべきか。

詩音も歌いながら気付いているらしく、アニメ映像で自分の挙動が反映されない間に目配せをしてくる。

どうする気だ?

「みんな~ありがとうございます!」

歌のキリがいいタイミングでシオンがMCを挟む。

「アニメをみんな喜んでくれているようで何よりです。特殊なソフトを使ったのでクオリティの高いものができました!」

リスナーの推測を暗に肯定するような言い回しをする。

なるほど、良い手だ。

明言せずに僕のソフトを入手したということをリスナーに伝えられている。

僕の方としてもこれから動きが束縛されるというようなことがないのでありがたい。

実際、リスナーはその返答で満足だったらしく、「やっぱレイフ君のソフトはすごいみたいだな」「有料版公開されたら買おうかな」といったコメントが流れている。

図らずも、僕のソフトの宣伝になったようだ。

そろそろ有料版出そうかな……。

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