1 推しがやってきた
私、
VTuberの推しだ。
WeTuberとして活動している2次元や3DのキャラクターのことをヴァーチャルWeTuber、略してVTuberと言う。
アニメやソシャゲと違う点は色々あるが、一番分かりやすい点は配信中のコメントを読み上げて反応してくれるところだろう。
生身のアイドルやWeTuberみたいな生々しさが無いので、同じ世界に生きていると実感できる上で気軽に推せる存在なのだ。
推しはレイフ・フェイク=リベリオンという現在人気急上昇中の個人勢VTuberだ。
もっとも普段から、いかにも厨二臭いセリフをここぞという時に決めているので、完全な設定と言うよりかは本人の趣味も含まれているのだろう。
個人的には、臭いセリフを決めるたびに後からいじられて後悔している様子がなんとも可愛らし……ゲフンゲフン。説明を続けよう。
個人勢と言うのは企業に所属せずに活動している者を指している。
企業に所属していると豊富な資金を背景にした手の込んだ配信をできたり、企業内のVTuberで結成されたグループ自体を推してもらう、いわゆる箱推しという恩恵を受けたりすることができる。
つまり個人勢はそういった恩恵を受けずに独力で活動しているということだ。並大抵の努力では上にはのし上がれない。
しかし、レイフ君は活動を始めてまだ3カ月だが、チャンネル登録者が既に20万人を超えている。
これは、通常今一番人気の企業の新人VTuberが何とか達成できるかどうかというような速さだ。
個人勢で達成できる人はまずほとんどいない。
この偉業を達成できた理由を一言でまとめるならば、レイフ君があまりにも人間離れしているという点に尽きるだろう。
この3カ月で、レイフ君の人間離れしたエピソードは山ほどある。
初配信で24時間耐久カラオケ配信を行い、最後まで全く疲れを見せずにプロ歌手のようなクオリティで歌い続けた。その耐久配信を初配信後も週3回のペースで行い、それとは別に毎日アニメーション動画を投稿し続け、さらにはSwitterでの活動もサボらず、休んでいるようなタイミングが見当たらないと言えばその凄さが分かるだろうか?
おかげで実は大企業が名前を隠してデビューさせた存在だとか、同じような声の歌手を何人も用意し、リスナーに分からないように交代させているだとか、実は中身がすごいAIだったとか色々噂が流れている。
もっとも、最後のAIの部分に関しては、レイフ君が他のVTuberとコラボした際にそういう凄いツールを使っていると言っていたので、あながち嘘では無いのかもしれない。
何はともあれ技術力と体力がずば抜けて高く、リスナーからは化け物とか怪物だとか言われるほどなのだ。
ちなみに、私の推しポイントはそういった凄いところではなく、純粋に可愛いところだ。
圧倒的に女性が多いVTuberの中で、可愛い男性VTuberはほとんどいない。
かっこいい男性VTuberはかなり増えてきたが、そればっかりだと胃が持たれてしまう。
数少ないオアシスとして見ていたところ、気付けばレイフ君一人だけを推すようになってしまった。
──長々と推しについて語るオタクになってしまったが、そのレイフ君がどうしたのかと言うと深夜にいきなり告知を出したのだ。
ただその内容が驚くべきものだった。
*
みんな、ごきげんよう。
夜も遅く、突然の告知となってしまったので申し訳ないが、ちょうど殺到しにくい時間帯なので、すぐにこれを見ることができた人はラッキーだと思ってくれ。
この度、僕の使っているツールを一般向けにしたものの試作品ができたので、先着20名に配布しようと思う。
以前少し触れたこともあるが、僕の人間業じゃない配信を可能にしているツールのことだ。
一般に売れるようにするつもりなので変えている部分もあるが、かなり使える代物になったと思う。
具体的には、君たちのPCの中で僕が会話できるAIとして搭載され、作業や検索の補助をしてくれるというものだ。
詳細はダウンロードページに記載してあるので確認してくれ!
*
なんと自分たちの技術を限定20名とはいえ、無償で提供するというのだ。
今までの配信内容を見てきた身からすると、いかにすごい話なのかが良く分かる。
逆にすごすぎて何か裏があるに違いないと疑ってしまうほどだ。
実はそのツールっていうのが
それほどに価値があるであろうものを試作品とはいえ、無料で配るというのだ。
「まあ、見てみないことには分からないかなあ」
何せ試作品なのだ。
もしかしたら大きな枷がつけられているのかもしれないし、期限付きなのかもしれない。
怪しいものじゃないのであれば、レイフ君と喋れるという機能はとても魅力的なのだ。
作業の補助などよりもそっちの方が私にとっては重要だ。
先着順と言うこともあり、急いでページを開いて詳細を確認する。
ざっと目を通して見たところ、特に問題は無さそうだ。
「それにしてもすごいなあ……」
やってくれる検索の補助や作業の補助の例を見るだけでも、素晴らしいAIを積んでいることが良く分かる。
解析はできないようにロックをかけているらしく、技術を盗まれないような対策も完璧らしい。
見る限り本当に試作が目的で配布するようだ。
「あ、早くしないと」
問題なさそうだと判断した以上、早く入れないと間に合わないだろう。
深夜とはいえ、20人なんて一瞬だ。
ろくに詳細を読まずに受け取ろうとする人も多いことだろう。
果たして今からでも間に合うのか……。
リンクを押すとダウンロードが始まる。
「ふぅ……」
どうやら間に合ったようだ。
さすがに高性能なソフトらしく、容量が多く時間がかかっている。
それでも、推しと話せるという期待感が私から眠気を吹き飛ばし、画面に食いつかせる。
長かったインストールが終わりそうなことを示すバーを目で追いながら、今か今かとひたすらに待った。
インストール完了を知らせるウィンドウが開き、画面が切り替わる。
そこには銀髪碧眼の高校生くらいの男の子の姿が映し出されていた。
いかにもなお坊ちゃんの推しの姿に感動しながら、私はしゃべりかけた。
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