episode 佑希 - 1

 ──だから後輩が合格祈願に来たなって、気が付いたんだ。

 毎年この辺の学校からはそんな回覧が回ってきてる。まあ地方だし、ちょっと道外れると暗いし。だから気を配りましょうってのは、地域住民の総意らしい。


 勿論私服で来るのが大半だけど。わざわざ制服で来てる真面目な舞花は、割と自然な形で目に付いた。


「絵馬書いて、おみくじ引こう」

 仲の良い友達とはしゃいでいるそんな姿を見て、元気だなー、って覚えてた。

 深夜零時、そこそこ賑わう境内で、一際賑やかな御一行さん。


 普通のおみくじか恋みくじか散々悩んで、普通のおみくじ選んで。何でだろ、なんて思ってたら、同じこと聞いてきた友達に「おみくじに駄目って言われたく無い」なんて返してて笑えたけど。いじらしい顔を赤らめているのを見て、何故か息を飲んだ。

 

 こいつの願いが叶えばいいと思いながらも、こんな大事なものを見落とす奴に、こいつは勿体無いとか、なんか思った。



「あのー、すみません」

「えっ」


 ほんの少し参拝客の対応に気を取られてたら、いつの間にか舞花が近くで俺を見上げてた。

 じっと見てたから気持ち悪かったのだろうか。苦情でも言いにきたんだろうかと内心で焦ってると、手に持ったおみくじを差し出して来た。


「あの、おみくじを、その。高い位置に結んでくれませんか?」

「……え、ああ……」

 どうやら身長に目をつけられたらしい。

 てか、俺袴着てるしな。神社の人間だって、そう思うだろうし。


「──大吉になるように、一番上に結んでおきます」

 そう言ってやると舞花は、ぱちくりと瞬いてから、花開くように笑った。

「ありがとうございます」

「……」


 ……なんで見えないんだろうって思った。

 おみくじに願いを込めたい舞花の相手──


 舞花の視線の先にいるそいつを見れば、別の誰かとはしゃいでた。そんな舞花が息を飲んだ瞬間をうっかり見てしまって。


 ああ、あいつ。見る目ないなあ……なんて思ったら身体が勝手に動いて、舞花の視界を塞いでた。驚く舞花に頭を掻きながら適当な話を口にする。


「──……その、神社はどうですか?」

 なんてゆーか、もっと気の利いた事を言いたい。

「あ、楽しかったです。夜中に遊びに行くなんて初めてで。どきどきしました」

 根が素直なのか、聞かれた事に直ぐに答える舞花に嬉しさがじわりと込み上げた。


「そうですか、なら良かったです。……良かったらまた来て下さい。ここは毎日やってますから」


 愛想笑いってどうやるんだったっけ。

 上手く笑えずに視線だけでも逃げていると、再び聞こえてきた声音に引き寄せられた。


「そうですね、また神様にご挨拶にきます」

「……どうも」


 そう笑って舞花は手を振って友達のところに駆けて行った。

 すげー強烈な残像を残して。


 そうして気が付けば、吸い込まれるように舞花の書いた絵馬に手を伸ばしていた。

 大学への合格祈願と、武藤君と両思いになれますように、なんて書いてあるのを見つけて。


「……悪いな、絵馬は見ない方がいいのに」


 舞花が来るのがうちの大学だって知ったから、俺も絵馬に願掛けした。もう一度舞花に会いたいって。

 

 それでもし、その時まだ舞花の祈願が成就していなかったら……

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