episode 舞花 - 2

「舞花は学生じゃないのか?」

 ぼんやりと箒を動かしていると男の人がこちらを覗き込んできた。

 境内の掃き掃除は完了したらしく、彼は落ち葉で山を作り、火を起こし始めている。


「が、学生です。高三! もう受験終わったし……」

 今はもう二月。自由登校期間である。

「あ~、長ーい冬休みかあ。いいなあ」


 男の人が嬉しそうに喉を鳴らすのを見て、何だかどきりとしてしまう。そういえば不思議だ、知らない人と話すのは苦手なのに……


 焚き火に向かって腰を落とす男の人に倣い、私も火に向かってしゃがみ込んだ。


「……失恋でもしたの?」

 唐突な問いかけに私の肩がびくりと跳ねた。

「うちの神社に物申したそうだったじゃん? もしかして恋愛成就の札でも買ってくれたのかな?」

「……はい」


 私は俯くように頷いた。

 ひと労働の後の心地よさ。それに、パチパチと心地よい音を立て燻る落ち葉を見ていると、何だか話したくなってきてしまったのだ。

 私が失恋してしまった事を。


「武藤君は中学生の時からの同級生で──」

「え、中学……って六年も?」

 と思ったら開始早々に遮られた。まあいいけど。

「いえ、五年です。中二から……」

「五年……」

 何か言いたそうな気配に居た堪れずに身動いだ。正直自分でもしつこいとは思っていたけど。ずっと言えずにいたとはいえ、やっぱり他人が聞いても長かったか……


「その、高校までは一緒だったけど、大学は別になりそうだから。ゆ、勇気を出したんだけど……」

「駄目だったのか」

 複雑そうに頬杖をつく男の人が視線をこちらに向ける。

「それで、何か酷いことでも言われた?」

 私は急いで首を横に振る。

「何も。武藤君、私が告白する直前に別の人と付き合っちゃったから」

「あら……」


 自由登校になる前に勇気を出して声を掛けようと、探して見つけた時がまさしく。照れ臭そうに告白の返事をする武藤君と目が合ってしまい、私は慌てて逃げてきたのだ。


「それ、うちのせいじゃないじゃーん」

「分かってるよ……」

 軽く頬を膨らませる男の人に、私は不貞腐れたような返事をして膝に頭を埋めた。

 ……でも他にどこも思いつかなかったんだもん。


「今年、ここに初めて一緒に初詣に来たの。クラスの皆とだけど、合格祈願も一緒にして、楽しかった。おみくじだって……」


 大吉にしてもらったのに──


「……そう、嬉しかったんだ?」

「うん……」


 地元で一番大きな神社。大昔に山の上に建てられたとがで、地方都市でありながら案外有名な場所なのだ。

 この辺一帯のイベントはほぼこの神社を中心に行われている。ここは海も無いし、まあイベントったってお祭りくらいだけれど。

 

 大晦日から皆でわいわい集まって、白い息を吐きながら階段を登って来たのが今年一番の思い出。

 夜のお参りなんて初めてで、でも思ってたよりも活気があって、見た事もない雰囲気にどきどきした。


 それで一緒に手を合わせて目が合ったから、期待しちゃったんだ。

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