第77話
***
鍵を握り締めて、レイチェルは頭の中を整理した。
思い出したのは、離宮の庭で見た扉だ。
「つまり、昔はあの場所に祠があったのね……離宮を建てた時に祠は移動したけれど、地下通路の出入り口はそのまま残された。この鍵は扉の鍵で、同じ出入り口が教会と広場にもある」
レイチェルは考えた。
(地下通路なら身を隠せるし、王宮まで誰にも見られずに行くことが出来るわ)
問題はカーライルも同じ物を持っているということだ。国王ももちろん地下通路の存在は知っているだろう。あまりにもレイチェルが見つからなければ、地下通路に隠れた可能性を疑われるかもしれない。
(でも、このまま朝になれば、ナドガは移動できなくなる。闇に紛れることの出来る今のうちに、せめてナドガだけは地下に隠した方がいいのではないかしら)
そう考え、レイチェルはナドガの顔の前に屈み込んだ。
「ナドガ。ここから移動したいの。アルテステラ教会かクレヴェル広場の近くまで飛んで、人気のないところに降りられる?」
「そうだな……ここから近いのは広場の方だが、周りに人家が少なく人目に付きにくいのは教会だ。広い墓地があるからそこに降りられる」
ナドガの答えを聞いて、レイチェルは決意した。
「では、墓地に降りて、そこから教会の敷地にある祠まで行きましょう」
「しかし……私が地を這って近づけば、見咎められるかもしれんぞ。教会には人がいるだろう」
確かに、闇夜とはいえ、巨大な蛇が動いていれば誰かに見られるかもしれない。
「ええ。だから、地上に降りたら、ナドガは私の中に入って」
「なに!?」
ナドガが首を持ち上げた。
「何を言っている、レイチェル」
「私一人ぐらいなら、夜の闇に紛れることは可能よ」
レイチェルは自分の左頬に手を当てた。ヴェンディグと同じ痣が浮き出ていたとしても、人のいない夜ならば誰にも見られない。
「駄目だ、レイチェル。君の肉体に負担がかかる」
ナドガはレイチェルを思いとどまらせようとしたが、レイチェルはかぶりを振った。
「私はヴェンディグ様のような特別な肉体の持ち主ではないけれど、ほんの数時間なら平気でしょう? 地下に入れたら、すぐに抜け出ればいいわ」
「しかし……」
なおも躊躇うナドガに、レイチェルは言い募った。
「ずっとこの森に隠れていたんじゃあ、王宮で何かあってもわからないわ。……シャリージャーラを止められるのは、貴方だけなんでしょう? 蛇の王!」
レイチェルの言葉に、ナドガは赤い目を光らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます