第67話 【金色の聖女】
かつ。かつ。かつ。
竜人の少女の体にはいり、竜人の聖女ラーファとしてデイジアは今大神殿の前にある広場に竜神官達と引き連れて歩みを進めていた。
今日は『豊穣際』
竜神官達が聖杯ファントリウムに祈り【聖気】を竜王国中にいきわたらせる日。
今日ははじめての竜人の聖女ラーファが竜王国に【聖気】を恵みその存在を知らしめる日なのである。
金髪の美しい容姿をしたその少女は白の聖衣に身をまとい、大神殿から出ると大勢の人だかりが見えた。
大神殿のその前の大広場に、国中の人々が聖杯からあふれ出る【聖気】を一目見ようとあつまっているのだ。
広場の中央には聖杯がおかれ、一段高くなったその場所に神殿の者たち、そしてルヴァイス含む王族やそれを護衛する騎士達がずらりとならんでいる。
そして檀上下にはたくさんの竜王国の市民たち。
そんな中大司教とともにならぶ聖女ラーファことデイジアは心の中でほくそ笑んだ。
(もうすぐよ、ここで聖杯に私が【聖気】を注ぎ国中に【聖気】を恵めば、私は竜人でははじめての聖女になれるの!
ソフィアにさえできなかった偉業だわ!!
そしてお母さまもリザイア家の人間も見返してやるのよ!!!)
デイジアが広場の中心に聖杯の前に行くと皆固唾を呑んで見守っている。
(聖気を聖杯に注ぎこめば、光溢れる聖気が国中に溢れ、みな私に膝まづくの。
聖杯の力と、私の聖気でいままでなかった実りと豊穣をこの国にもたらすのよ。
エルフの子なんて所詮ファテナの花を持ち帰れるくらいじゃない。私のほうがすごいわ)
デイジアが視線を王族の席に向ける。
そこには依然と比べるとだいぶやせ細ったルヴァイスの膝に座った状態でじっとデイジアを見つめるソフィアの姿がある。
かわいく着飾って竜王に寵愛されているソフィア。
それに比べ神殿から粗末な扱いをうけ、不遇だったデイジア。
許さないっ。
そう思ってラーファ姿のデイジアが睨みつけるがデイジアがベールで顔を隠しているためソフィアは気づいてもいないだろう。
観てなさいソフィア。私がこんなことになったのは全部あなたのせいなの。
竜王国で権力を手に入れてお前なんか追放してやる。
私は聖女と祭られて力を手に入れて、貴方もお母さまにも復讐してみせるわ。
厳かに聖女が祭壇を登り、聖杯の前にたどり着く。
儀式を執り行ったあと、デイジアは聖杯に向き直った。
「【聖気】を!!」
デイジアが言葉とともに聖杯ファントリウムに力を注ぐと金色に光り輝く【聖気】が空に散っていく。幻想的な景色にみな感嘆の声をもらした。
そして降り注ぐ【聖気】の力で作物が一瞬で成長を遂げた。
みずみずしく、今までにないきれいな色の実り。
ソフィアから奪った純粋な【聖気】が聖杯の力をかりてセスナの炎の呪いを解き、より強く作物に恵みを与えたのだ。
作物が光輝く姿をみて誰がも感嘆をあげた。
ここ最近育ったとしてもしなびていた果物や野菜がきれいに生き生きと実り始めたのだ。
__竜の国に危機が迫るとき、金色の聖女が現れ、災いを取り除くだろう。
そして豊穣を失った世界にまた新たな実りをもたらす__
広場に集まっていただれがか【金色の聖女】の伝説の一文をつぶやいた。
それとともにその声はざわざわと広まりはじめる。
「金色の聖女様だ……」
【ファテナの花】の効果など所詮は花が咲いている周辺に聖気がまかれるにすぎず、その母も厳重に管理されており、国民すべてに実りが約束されるものではない。
国民が必要としているのは【金色の聖女】
広間から声があがると、次第にその声が広がっていく。
次第にそれは歓声にかわり、みな「ラーファ様!!」とデイジアをたたえ始めた。
そしてデイジアの隣に一人の竜人が颯爽と現れる。
短い銀髪の美しい容姿の男性の竜人。ルヴァイスの従兄にあたり、大司教が次の王へと推す竜人だ。 いまここで二人が仲睦まじい姿を見せつけておく必要がある。
ルヴァイス亡きあと、ルヴァイスの従兄でありデイジアの婚約者たるこの竜人を王位につける。
ソフィアを追い出し、デイジアが竜王国の王妃になるために。
わーーっ!!!と歓声がわきおこり、広場は熱気に包まれた。
(どう!?ソフィア!??
これで私を聖女と知らしめて、貴方をその場から引きずり降ろしてあげるわっ!!!)
デイジアはソフィアに勝ち誇った笑みを浮かべるのだった。
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