第45話 他視点
「これはこれは竜王陛下」
宮殿に戻ってから、ルヴァイス様にだっこされながら私の部屋へと向かう途中。
黒いマントをきた男の人の集団に呼び止められた。
竜神官達だ。今日は全員神官服が見えないように黒いマントをまとっているけど顔は覚えてる。
私は思わず身を固くすると、ルヴァイス様が私を抱き寄せて姿を見えなくしてくれる。
「これは失礼いたしました。ソフィア様もご一緒とは存じ上げず」
「大司教か。なんの用だ」
「はい。竜王陛下に薬が不足していることへのお詫びをと思い、お姿をおみかけしたので挨拶に来た次第です」
「それだけなら失礼する」
そういって、ルヴァイス様が怖い声で言うの。
私はいままで聞いた事のない声に不安になって、ルヴァイス様の顔を見上げた。
「まことに申し訳ございません。
それで、今回聖獣様についてご相談が」
「相談?」
「ほんの数日でよろしいのですが聖獣キュイ様の力をお貸しいただきたく、われらにお預けいただけませんでしょうか?」
と、私にくっついていたキュイを見る。
「聖獣キュイを?」
「はい。キュイ様の聖気で薬草の栽培を安定させたいと思っております。
ルヴァイス様の薬に使う薬草の栽培がここ最近の聖気の乱れでうまくいっておりません」
大司教の言葉に、キュイは「ふーっ!!」ってうなって、ルヴァイス様の後ろに隠れた。
「……この通りだ。聖獣自ら拒否しているのでは私の一存ではどうにもならぬ。
薬のほうはいままで通りでよい。
要件がそれだけなら、お引き取り願おうか」
そう言ってルヴァイス様が竜神官達を一睨みすると、竜神官達は頭を下げてかえっていった。
それでも。
大司教の人が私とルヴァイス様を見る目はどことなく、お母さまが私を見る目に似ていた。
ものすごく恨んでいそうな何かを感じるの。
私が不安になってルヴァイス様を見ると、ルヴァイス様は笑ってくれて、「大丈夫だ。愛しのソフィア」
そう言って頬にキスをしてくれた。
「さぁ、行きましょうルヴァイス様」
竜神官達の一団が見えなくなってからテオさんが言ったとたん。
ぐらりとルヴァイス様の体が揺れて、ルヴァイス様が慌てて私を守ろうと、私を強く抱え、自らをの体を無理に下にすべりこませるようにして床に倒れこんだ。
◆◆◆
「それで、聖獣の様子はどうだ」
大神殿の一番奥。ごく一部の秘密を知るものしか入れないその場所で大司教は見下げながら、隣にいる司教に尋ねる。
司教の視線の先には建物二階分ほどの高さの巨大な穴が開いており、円状のその場所に巨大な魔方陣と鎖に繋がれた狼型の巨大な聖獣の姿がある。
竜神官達が聖女でもないのに国に【聖気】を撒ける理由。
それがこの聖獣から【聖気】を奪い取ることだった。
「あまりよくありません。
最近聖気をあまり放たなくなったため、聖杯ファントリウムで【聖気】を吸い取ることができません。竜王国に聖気が行き届いていない状態です」
「やはり聖獣キュイを手に入れないとダメか」
「ですが聖獣キュイは竜王陛下になついて手に入れるのは容易でないかと」
司教の言葉に大司教はぎりっと手を握り
「わかっている。ルヴァイス死後手に入れればいいと思っていたが、まさか聖獣クロムの聖気がこうもはやくなくなるとは……」
そう言って大司教は忌々し気に力を奪われぐったりしている狼型の聖獣に目を落とす。
竜神官達が聖女ですらないのに竜王国に聖気で国を潤すことができたのは、ひとえにこの聖獣から奪った【聖気】を竜王国に蒔いていたからにすぎない。
それは竜神官のごく一部の物だけが知る極秘中の極秘事項。
竜王国設立当時、誇り高き竜人たちは聖気を人間のリザイア家に頼ることをよしとしなかった。それが故、聖獣を捕まえ聖杯ファントリウムで【聖気】を奪い、それを世に広める竜神官達が生まれたのだ。
人間などに負けぬと竜人の権威を守るために。
そしてこれを知るのは竜神官のごく一部。竜人の王族ですらこのことは知る者はだれもいない。
竜神官が誕生して800年。今まで初代竜神官達が封印し、閉じ込めた聖獣から力を奪ってこれまではしのいできた。
竜王国は実質教団が支えてきたようなもの。
教団があったからこそ竜人は人間に屈することなく誇りをもって生きられたといっていい。
大司教は床に錫杖をたたきつける。
「竜王の聖薬の効能をさらに下げろ。
動けなくなれば、竜王も聖獣キュイを渡すしかなくなるだろう。
宮廷魔術師が鑑定の魔法を使い鑑定しようとも、効能は鑑定できても薬量までは測定できぬ」
そういって大司教は杖を力強く握る。
(最悪、呪いで弱ったところでルヴァイスの精神を支配してこちらのいうことを聞かせればいい。そしてキュイを奪い取る。
国王など所詮飾りだ。実質はわれらがこの国を支え発展させてきたのだから)
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