第24話 「あーん」
「待っていたよ。私の愛しき女性」
そう言って、私の部屋の前で待っていてくれたのはルヴァイス様だった。
扉の前でずらりと護衛の人を引き連れて待っていたの。
私は真っ赤になるのが自分でもわかった。
ルヴァイス様に予めこうなるって聞いていたけれど、聞いていたのだけれど。
抱き上げられて頬にキスされ、「さぁ、朝食にいこうか」と囁かれて、頬にキスされて恥ずかしすぎて死にそうになる。
ずっと抱っこで朝食の場所まで行くのかな。
どうしよう。いっぱい悪口を言われるのも、ののしられるのも、怒鳴られるのも慣れている。でも毎日愛しいとか好きとか言われるのは慣れてない。
演技だってわかっているのにドキドキしてしまう。
ルヴァイス様の後ろに何人かいる護衛の人もものすごく驚いた顔をしているけれど、ルヴァイス様はそれでも朝から「可愛い」「まるで天から舞い降りた女神のようだ」と、私をほめる。
私は真っ赤になって「あーあー」言うだけが精いっぱい。
ちがうよ。全然可愛くないよ。でも否定しちゃだめ、これは演技。
ルヴァイス様も私の研究を応援してくれるために頑張ってくれている。
可愛くない私にキスしたりするルヴァイス様のほうがきっと大変。だから私も慣れないと。
……でも。
「さぁ、食べてくれるかい。ソフィア」
スプーンでご飯を差し出しすルヴァイス様に私は固まった。
長いテーブルにずらりと並べられた食事。
そしてたくさんの人たちが両壁に並んでいて私たちの食べる姿を見ている。
そんな中で私はルヴァイス様にあーんってしてもらっていた。
火傷がひどいときレイゼルさんにもよくしてもらった。
あの時は嬉しくて仕方なかった。
今だって嫌じゃないよ? 嫌じゃないけど。
お父さまと思っていたレイゼルさんと、まだ会って間もないルヴァイス様とじゃ違うの。
大勢の人がいる中であーんはちょっと恥ずかしい。
私はあーんってスプーンで食べたら、えらいえらいとルヴァイス様が撫でてくれて、それがまた嬉しくて恥ずかしくなる。
私もお母さまに愛されていたら、小さいころ毎日こうしてもらえたのかな?
そういえば、デイジアはいつもいっぱいの人に囲まれてこうしてた。
お母さまにあーんってしてもらってた。
でも私はしてもらえなかったんだ。
そばに近づくだけで怒られて、私は長いテーブルの一番遠い席に座らされて、自分で食べていた。
人はいっぱいいるのに、私だけはいつも一人。
ずらりと並ぶ神官達も常にみているのはお母さまとデイジアだけ。
私は大勢の中でもいつも一人ぼっちだった。
誰も私のことは視界にないの。
ただ、私はそこに『ある』だけの存在。
人扱いさえしてもらえなかった。
「……ソフィア?」
ルヴァイス様が手をとめて私の名を呼んだ。
え?
そこで私は気が付いた。
いつの間にか涙がぽろぽろ溢れてる。
「すまなかった。少々こちらの気持ちを押し付けすぎたようだ」
そういって、ルヴァイス様が手をあげると、メイドさんたちが慌てはじめる。
「あーあー!」
違うのルヴァイス様が嫌じゃないって首をふるけれどルヴァイス様はほほ笑んで
「わかっている。
私はそなたとの距離を縮めたいがため、焦りすぎていたようだ。
いままでそなたの受けていた境遇を考えれば、このような生活は苦痛だろう。
テオ。このような大勢の使用人がいる状態では、ソフィアも落ち着けないだろう。
ソフィアの自室に食事を運んでやってくれ。
私もそちらに出向く」
そういって、ルヴァイス様が立ち上がって、テオさんに指示をだす。
「あーあーあー」
どうしよう。嫌われちゃったかな。ダメな子ってまた怒られる?
私が不安になってルヴァイス様を見つめたら、ルヴァイス様は変わらず笑ってくれて、頬にキスをしてくれた。
「私が悪かった。許してほしい。配慮がたりなかった」
ルヴァイス様は私を抱き上げてくれて、
「部屋に戻る。そなたたちも下がれ」
宮殿の人たちに指示をすると歩き出した。
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