139.ノイチゴの季節

 春の収穫からしばらく経って。


「さあ、ミーニャ」

「にゃあ! イチゴ!」

「うん」

「ついにきたんですね」

「んにゅ?」


 そうだったな、まだシエルが来る前の話だ。

 イチゴの収穫をみんなでして金貨を貰った。

 今はホテルの経営でお金が回っている。エレノア様からの投資という形だった借金も少しずつ返していて順調だ。


「うん、今年はイチゴを売らないでジャムにしたら自家用にしようと思う」

「やったにゃああ」

「うれしいです」

「にゃ? うれしいのかにゃ、やったにゃ」


 ピンときていないシエルを置いてけ堀だけど、後で味を知れば納得するだろう。

 あれから一年。トライエのような大きな河川敷はないもののエルダニアにも支流が流れていてその開けて光が降り注ぐエリア一帯にイチゴの白い花が咲いているのは、春の間に確認していた。


「さて諸君。川沿いをずっと下っていこう」

「うん!」

「はい!」

「にゃあ」


 みんなで籠を持って春のポカポカした陽気に当てられたかまるでピクニックだ。

 城壁を通過してすぐの川に向かう。


「おぉなってるなってる」


 赤い実があちこちに見える。アタリだ。


「じゃあお互いが見える範囲で。集中しすぎないで周りを見てね」

「「「はーい」」」


 さあノイチゴを採ろう。

 ここでは他には子供たちもいないので採り放題だった。

 その数、見渡す限り下流まで。

 もちろん川を下って行き過ぎないように注意する。


「おいち!」

「あ、ミーニャちゃんが盗み食いしてる」

「我慢できないよな。今回は自家用だから食べてもいいことにしよう。でもほどほどにね」

「にゃったー」

「うれしいですっ」

「にゃにゃん」


 そうしてシエルも一粒口に入れる。


「美味しいみゃ!」

「だろ」

「にゃはは」


 ミーニャもそれを見て笑っている。

 みんな笑顔でいい感じの雰囲気だった。


 さあ採るぞ。

 低木にまとまって生えているので、あっち行って採って、こっち行って採ってと移動していく。

 ヘビイチゴみたいに地面すれすれよりもちょっと高い位置に多いので採りやすい。

 どんどん集めていく。

 籠はみるみる赤い実でみたされていき、真っ赤な山ができる。

 イチゴの匂いもするほどで、とてもいい香りがした。


「みんないるかい」

「ミーニャいるにゃ」

「ラニアいます」

「シエルいるみゃう」


 こうしてたまに点呼をしつつ採ってどんどん下流方向へ。

 ここより上流はエクシス森林の中を突っ切っていくので、水を飲みに来る魔物などが出やすい。

 だから上流側は少し危険が高いので、あまり行かないほうがいいらしい。

 もちろん戦闘する気でいくなら問題ないのだろうけど、今日はとにかくイチゴ狩りなのだ。


 朝から採りだして途中で昼休憩をする。

 今回は一日中採取をして自分がアイテムボックスに保管しておく作戦にした。

 ジャム作りは明日、厨房を借りてメイドさんに手伝ってもらう予定だった。


「お昼はサンドイッチと唐揚げです」

「やった」

「グッドです」

「みゃううぅ」

「あはは」


 ラニアが目をキラキラさせてサムズアップしてくるのでちょと笑った。

 どこでそういう仕草を覚えて来るのだろうか。

 あれだな、春になって戻ってきた大工衆だろうな。

 冬の間お休みしていた大工衆だったけど、暖かくなり戻ってきた以上に新規の人まで連れてきて街の建築は急ピッチで進んでいる。

 家がどんどん建っていくのを日々眺めるのはとても楽しい。

 なんだか街づくりゲームを本当にしているみたいに錯覚してしまう。

 でも気合を入れ直したのだ。これは本物の町だから失敗しちゃダメだ。

 責任と指揮はギードさんたちが執っているとはいえ俺も口出しをずいぶんした。

 そのいくつかは実現しているし、学校を建てる計画のため区画が空けてあるのも見える。

 高等学校建設計画はちょっとずつ進んでいるものの、まだ実際の建物建設までにはいっていない。


 美味しい唐揚げとサンドイッチのお昼を食べ終わって、また午後もノイチゴ狩りを進めた。

 今日はこれで一段落だろう。

 花は一気に咲くわけではないので時期をずらしてしばらくしたらまた収穫する。


 翌日。

 朝ご飯が終わったら、厨房に集まってジャム作りだ。

 こういうとき魔道コンロがあってよかった。薪だったら面倒なことこの上ない。

 コンロを使うのにも薪だったら大変なところだった。

 元から設置されているコンロをありがたく使わせてもらう。


「ふんふんふん♪」


 メイドさんと女の子たちが順番に鍋を掻きまわして鍋を煮詰めていく。

 そしてジャムが完成。

 今年は砂糖も入れてみたので、甘さもぐっとまして本当に高級品のイチゴジャムができてしまった。

 これ献上品レベルでは。

 あ、うん。頭の中にジャムを食べそこなってぷんぷん怒るエレノア様が浮かんだのでビンで五本献上しておこう。

 王家のおじいちゃんたちは渡来の南から輸入しているジャムがあるので大丈夫だろう。

 その輸入ジャムは王都でほとんど消費しているようでトライエまでものがきていないみたい。

 流通網があるといってもまだまだ脆弱で荷物が全国津々浦々まで届くなんてことはない。

 商品数にも限りがあると近場で消費されてしまえば遠くまで来ないのはしょうがないのだろう。


 さあお待ちかね。


「いただきます」

「「「いただきます」」」


 みんなで挨拶をしてイチゴジャムを塗ったパンに噛りつく。

 それはもうハムスターのようにもぐもぐもぐと一生懸命食べた。

 よほど美味しいのだろう。何も言わない。

 パン一枚、食べ終わってしまった。


「美味しかった!」

「はい、美味しかったですね」

「みゃあこれほどとは思わなかったみゃう」


 みんなまだぺろぺろしている。

 俺の方へ上目づかいで迫ってくる。


「エドぉ、もう一枚食べていい?」

「あーうん。特別だぞ。今日だけだからね」

「やった、すき!」

「やりましたね」

「みゃみゃみゃみゃう」


 お、シエルが必殺技を繰り出すみたいな声を上げた。

 みんな急いで二枚目に取り掛かっていた。

 とまあ、こんな感じでノイチゴ狩りとイチゴジャムは大興奮で終わった。

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