104.夏の日、チーズカレーうどんとヨモギ団子

 相変わらず夏だ。

 領主館ホテルの周りには、トライエ領主館ほどではないにしろ広めの庭がある。


 ミーンミンミンミン……。


「あちぃ」

「うん、暑いね!」

「そうですね」

「みゃぅ」


 みゃうみゃうもいつもより語気が弱い。

 俺、ミーニャ、ラニア、シエル、いつものメンバーで休憩している。

 そうそうエレノア様だけど、ホテル開店日にはいたけど、すぐに帰っていったので今はいない。


 領主館の屋根の下で風にあたりながら、庭を見ている。


「あー、真ん中ちょっと右、あそこにセミが」


 ミーニャが目ざとく見つけて、指を差す。


「おーいるいる」

「そうですねぇ」

「みゃぅみゃぅ」


 ラニアとシエルも返事botと化していた。


「確かにセミだな。この世界にも普通にいるんだよね」

「うん? そうだよ、なんで?」

「いや、なんでもない、セミはセミか」

「うんっ」


 おっといけない。

 前世の田舎の夏休みをちょっと思い出していた。

 麦わら帽子、ミニスカート、虫取り網、虫かご。

 もはや交流のなくなった幼馴染と小さい頃は一緒にセミ取りしたっけ。


 手で取るのは至難の業だな。

 しかーし、こんなこともあろうかと、先に虫取り網を発注してすでに手元にあるのだ。


「これでセミを取る」

「うんっ」


 ミーニャちゃんは元気でよろしい。


 みんなで屋根の日陰から出て庭の芝生を通って、木の下へ向かう。


 ミーンミンミンミン……。


 そそそのそ。

 ゆっくり近づいていく。


 ミンミン、ジジジジ。


 警戒音を鳴いてバサバサとはねを広げて逃げていく。

 それを聞いたまわりのセミも一斉に飛び立った。


「うぉぉお」

「わっわっっ」


 ザーとおしっこの雨が降ってくる。


 なんとか真下ではなかったので避けられた。

 危なかったセーフ。


「おしっこした!」

「ああ、セミは逃げるときにおしっこするんだよな」

「怖いですね」

「危なかったみゃぅみゃぅ」


 シエルちゃんもちょっとムスッとして警戒を見せる。


 前世の幼馴染もセミの雨に直撃されてギャン泣きしてたっけな。

 田舎道を泣きながら連れて帰った覚えがある。


 とりあえずセミには逃げられてしまったのでお開きになった。




「さて今日のお昼ご飯は『チーズカレーうどん』にしようと思います」

「おおおお」

「なんでしょうね」

「みゃうみゃう」


 まずウシはエルダニアに来てもらったのでチーズはある。

 カレーのスパイスは以前のスパイスミックスとトウガラシがあるので大丈夫。


 そしてうどん。

 小麦と水を練って伸ばして広げて適当に切った。

 うどんのような何かだけど、これはパスタにも近い。


「スパゲティーなの?」

「ううん、今日はうどん」

「うどん?」


 とりあえずできたのでいいとしよう。


 濃いカレースープがすでにございます。

 カレー粉にさらにエルダタケや野菜を煮込んで旨味が出ている。

 それを温める。


「いい匂い!」

「カレーは辛いけど美味しいですものね」

「カレーも好きみゃう」


 うどんをさっと茹でてしまう。


 カレーをお椀に入れて、うどんを投入。

 そして上からチーズを乗せる。


「わわ、美味しそう」

「だろ」


 みんなでうどんをお盆にのせて地下の涼しい部屋へ持っていく。


「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

「「「いただきます」」」


 みんな、熱いうどんをふーふーして食べる。


「美味しぃっ!」

「美味しい、です」

「おいちい、みゃう!」


 ふむ。お口に合うようでなによりです。


 暑い日だけども、熱いカレーうどんを食べるのもこれまた悪くはない。

 カレーのスパイス、それからキノコや野菜の出汁が出ていて抜群にうまい。

 そこにクリーミーなチーズが合わさってとても美味しい。


 ホテルの料理は何人かいるスタッフがやってくれる。

 それに旅人たちは夕方ついて朝立ちで昼間いないため人数が少ない。

 俺達は自分の分だけ面倒を見ればいいことになっていた。



 そんなこんなでその辺で遊んだりして夕方。

 午後、城壁内を歩き回ってヨモギを摘んできた。


 食事そのものは別のスタッフにおまかせして、俺はデザートを作るのだ。


 ヨモギを事前に茹でる。

 小麦粉と水を練ってまとめたものにヨモギを細かくしたものを加えていく。


「ねるねるね。ねるねるねっと」

「わっわっ、緑! 緑になってきたっ!」


 ミーニャちゃん大興奮。

 混ぜて色が染まっていくのにご満足の様子。


 あとちょっと高いけどお砂糖を入れて混ぜる。


「これを茹でます」

「ふぅ~ん」


 茹でる。ヨモギのいい匂いもしている。


「ふんふぅんふ~ん♪」


 みんなご機嫌で茹でるのを見ていた。


「はい出来上がり。『ヨモギの小麦団子』でーす」

「わっわっ、はやくっはやくっ」

「これはデザートだから後でね」

「そんなぁ」


 とまぁ美味しい夜ご飯を食べた後、ヨモギ団子が出てくる。


「美味しい~」

「甘くて美味しいですね」

「もちもちしてる。おいちいみゃう」


 こちらもよくできた。

 たまたま今日泊まった客さんたちにも振る舞われて、みんなにも好評だった。


 夕方。

 領主館の庭に再び出る。

 今回はセミではなく、カブトムシだ。

 もしくはクワガタムシ。


 すでに木には果物の皮やあまりなどを入れた麻袋を吊るしてあった。


「どうかな?」

「エド君のことだから大丈夫だとは思いますが」

「運しだいかみゃぁ」


 三人がちょっと自信なさそうなのを尻目に俺は楽観視していた。

 元々この辺りは領主館や貴族街があり、木がたくさん生えている。

 エルダニアがスタンピードの被害にあって八年だけど、生き残った木も多くて、さながら都市内のミニ森のようになっている。

 これだけ木が生えていればカブトムシくらい余裕だろう。


「まぁ俺に任せておけ!」

「おぉお、エドちゃんかっこいい!」」


 さっそく木に向かう。

 麻袋の周りには、緑に輝くカナブンたちがなんびきもいる。

 そして黒い雄姿を見せるカブトムシのオス。


「ほら角がついてる。カブトムシのオス」

「「「おーおお」」」


 他の木にはクワガタムシのオスもいた。

 立派なノコがついてる。

 ノコギリクワガタだ。


 こうして虫取りをして楽しく過ごせた。ただし取った虫は元に戻しておいた。

 実はちゃんとした虫かごがないのだ。透明なプラスチック容器とかもないので。

 飼うには少しこの世界だと難易度が高い。


 こうして夏が過ぎていった。

 今日もエルダニアは比較的平和だった。


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