81.イタドリとスイバ

 土曜日。


 植物開拓をもう少し進める。

 ミーニャたちの話題としては美味しい料理のほうがうれしそうだが、もう少しだけ付き合ってもらおう。


 そそくさと草原に移動した。


「これがイタドリ」

「ふぅん」

「これは知ってます」

「みゃう?」


 半分木みたいな中心の枝は太め。

 雑草の中では大きな初心者マークに似た葉が生えている。


【イタドリ 薬草 食用可】


 食用可なのでおそらくお茶みたいに煎じて飲むタイプの薬草なのだろう。


 違う名前でもわりあい有名だ。

 有名と言っても若い子は知らないかもしれない。

 俺? 俺はだな、田舎の子だから知ってたの。


 都会ではもうその辺の草をとって食べる習慣とかなさそうだ。


 ――スカンポ。


 そう呼ばれている。


 昔ちょっと調べたのだが「痛みを取る」でイタドリなのだそうだ。

 子供がよく春の新芽に塩をつけて食べる。酸っぱくて美味しい。


 もう日本でいうところの六月くらいなのでだいぶ大きな草になっている。

 さきほど見たように薬草らしい。


「ラニアちゃん、どれくらい知ってる?」

「はい。あの、イタドリは痛み止めとかで使う薬草ですね」

「そうなんだ。ギルドで買ってくれるかな」

「買取してくれそうですよ。その辺に生えているものの、薬になった状態で使う人が多いので、草そのものはあまり知られていないんですよ」

「ああ、なるほどね」


 このイタドリ。この時期、草原あと河川敷、どちらにも猛繁殖している。

 河川敷にはほかにつるにするくず、あとノイチゴが多い。



「ねえねえ、このイチゴはみんな食べないよね。真っ赤で美味しそうにゃ」


 ミーニャが指さす先には確かにイチゴなのだが、これは残念なのだ。


【ヘビイチゴ 植物 普通】


 表記も食用とは書かれていない。

 有毒ではないので砂糖を入れて無理やりジャムにすることはできると読んだことがあるが、あまり食べたいとも思わない。


 ヘビイチゴは甘味がなく、味がしない。

 残念イチゴちゃん。


「あと、これ。スイバ」


 ほうれん草みたいな草。

 イタドリほど大きくはないが、他と比べれば大型の雑草だ。


【スイバ 薬草 食用可】


「これも薬草の一種ですね。イタドリとは近い仲間だそうです」

「へぇ」

「へぇ、にゃ」

「へぇ、みゃう」


 俺も詳しくはないが、ヨーロッパではソレルという名称の野草で、酸味のあるハーブとして使うらしい。

 というか「酸い葉」でスイバなのでしょ。

 まんまやんけ。


 これもその辺、いくらでも生えている。

 そしてこれも薬草なのだという。


「ということでイタドリとスイバをたくさん採ってギルドで売ってみよう」


 俺は全員の顔を眺めて。


「えいえいおー」

「「「えいえいおー」」」


 掛け声をかけた。


 よしやってみよう。

 おそらく金貨まではいかないだろう。どこにでも生えているし。

 しかし薬草は薬草だ。

 需要は確かにある。


 メルンさんも確か使っていたような気がする。


 こうしてイタドリとスイバを分けて採って歩く。

 二種類持つと不便なので、俺とミーニャがイタドリ。ラニアとシエルがスイバを担当している。


 バッグがパンパンになるまで採った。


「よし、そろそろ切り上げよう」

「「「はーい」」」


 俺の号令で集合だ。


 いそいそと東門を通って、冒険者ギルドへ。


 さていつものようにカウンターへ行く。

 すぐに向こうのエルフのミクラシアさんが暇そうにこっちを見ているので、そこへ向かう。


「冒険者ギルドへようこそ」

「お姉さん、あの今日はイタドリとスイバを採ってきました」

「あ、そうですね。今、ぐんぐん伸びる時期ですからねえ」

「そうですよね」


 このお姉さんもだいぶ当たりが柔らかくなった。

 みんなで背負ったバッグを降ろして、カウンターに置く。


「今、軽く検品と計量して査定するから」


 そういって荷物を抱えて奥に行った。


 またされることしばし。

 そうそう、俺はこのギルドで待たされる時間が苦手だ。

 なんだか視線もじろじろ感じていたたまれない。


 またあのガキどもが何かやってると思われているのも心外だし。

 初心者を見る温かい視線は甘んじて受けるしかない。


「はい、お待たせしました。そうですね計量と目視の簡易査定の結果、全部で金貨一枚になります」

「え、そんなもらえんの?」

「はい。量もかなりありましたし、品質も悪くないですね。そりゃあ近くで採ってきてすぐ納品ですから当たり前なんですけど」

「そうですか。ありがとうございます」



 ひとり当たり銀貨二枚と半銀貨だな。


「はい、ラニア」

「いつもありがとうございます」


 さっと支払ってしまう。

 ミーニャとシエルはエド信託銀行のご利用なので、俺の帳簿メモにちょちょっと書いておく。

 よし、これで清算は終わりだ。


 四人で金貨一枚なら、変なクエストよりずっと儲かる。

 みんなやってないのは薬草の知識がないのか。

 別に採集クエストとか指導の紙とか手引きとかもないもんな。


 知ってる奴だけが得して儲かる。

 なんだか悪い気がするが、こればかりは知識量の問題だな。


 ただ草なので、伸びる時期が限定されていて、シーズンを過ぎたら収穫できなくなる。

 これ専業という人が皆無なのはそのへんの問題もあるか。


「んじゃぁ、今日も唐揚げ、食ってくか」

「やったにゃあ」

「賛成です」

「んみゃう?」


 シエルはまだ唐揚げ食ったことないのか。

 ちょうど四人席が空いているので座る。


 メイド服のげふんげふん。おっぱいが大きいお姉さんに注文をした。

 ほんの少し待つとアツアツでいい匂いの唐揚げのご登場だ。

 今日はメイドさんが二人で持ってきてくれた。


「はい、唐揚げ。ひとつ500ダリル四つで銀貨二枚ね」

「はい、銀貨二枚」

「ありがとうございました」


 料理と料金は交換制だ。


「「「いただきます」」」


 みんなすぐ食べるかと思えば、シエルを見ていた。

 シエルは気が付かず、ぱくっと唐揚げを食べる。


「おいしぃいいいいみゃあ」


 みんな頷いてから唐揚げを食べて、美味しそうな顔をした。


「やっぱり唐揚げすき」

「唐揚げは美味しいです」

「シエルも唐揚げ好きになったみゃう」


 ギルドの唐揚げはうまい。

 こんなに安くてうまいのに、あまり注文している人を見ない。

 男の子と女の子二人連れの初心者パーティーっぽい人たちがばくばく唐揚げを食べている。

 それ以外にはいないのだ。


 唐揚げではあるがウサギの唐揚げを注文している人が多い。

 こちらのほうが付け合わせにサラダがついていて値段も高い。

 だからだろうか。


 初心者パーティーや俺たちを見る大人たちの視線が「生温かい」ので、何かあるのかもしれない。

 まあ、いいか。唐揚げ美味しいし。


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