63.エドの帰還

 みんなに別れを告げて、俺たちも帰路に就く。


 騎士団のうち、ひとりが報告に戻るということでご一緒することになった。

 ご一緒というか一緒に乗せていけということだ。


 帰りはこれと言ってイベントもなく、途中でスープを欲しがるおじさんも出て来たりしない。

 あぁ訂正。スープを欲しがる騎士様は一人いたわ。


「スープお代わり」

「はいよ」


 俺たちはアイテムボックスをマジックバッグに偽装して装備していることになっている。

 それで食材はそこそこ持っているが、あまり容量が大きいと変なので、その辺は全力で誤魔化している。

 容量が大きいマジックバッグは金貨数枚ではとても買えない高級品なので、さもありなん。


「トマトスープではないが、塩と野菜の出汁が出てる。あと少量だがキノコがうまいな」


 帰りのキノコは節約だ。四分の一株だけ入れても旨味はぐんと増す。


 騎士様はかわいい美少女の女の子に囲まれてまんざらでもなくチヤホヤされている。

 まだ小さいが女性は女性だった。


 みんな俺にべた惚れだと勝手に思っているが、騎士様への態度も悪くない。


 そのおかげで終始和やかに会話をしていた。


 普通の倍はある巨大な土竜の竜車の話。

 走鳥でもなく竜の一種、珍しい走竜の馬車でくる商人の話。

 200キロくらいありそうな、超でかい商人の話。

 逆にパーティー全員が俺たちくらい小さい小人族の話。

 山脈にいるワイバーンが接近してきて九死に一生を得た話。

 全員が巨体のジャイアント冒険者パーティーの話。


 なるほど、警備の仕事ではいろいろな人がいると教えてくれた。


 話もうまい。

 そしてヒューマンなのに金髪でハンサムのイケメンである。


「すごーい」

「かっこいー」


「えへへ、ぐへへ」


 男でも惚れてしまいそうなお兄さんだが、女の子に褒められ慣れていないらしく、うちの女の子に上のような台詞を言われると顔がだらしなくなる。

 チョロインの男版なのだろうか。

 ちょっと変な女性に引っかからないか心配だ。


 それからこれが重要なんだけど、休憩時間に剣の指導をしてくれた。

 俺はドリドンのおっちゃんに少しだけ剣を習っただけで、ここまで自己流だった。


 彼ビーエストさんはエクスプローラー流剣術という技を持っていてそれの型を教えてくれた。

 あとかっこいい演武も見せてくれた。


 しっかり目に焼き付けておく。

 ここでチート主人公なら一度見ただけで再現可能! とかいうところだが俺には無理そうだ。

 何回か見てなんとかイメージだけはできるようになった。


「ていやぁ」

「おりゃぁ」

「うりゃ」


 剣を振るう。

 俺が素振りをしている間に、横で女の子たちの杖術の練習をしていた。

 ビーエストさんは護身用の杖術の入門編くらいなら知っているとのことで、ミーニャとラニアが加わった。


 あぁシエルちゃんは忘れていた。

 獣人なので格闘家なのかと思ってたのだけど、どうやらエンチャンター付与術師の系統のようでいくつか補助魔法も使えるらしい。

 もちろん痴漢の撃退用の拳くらいは使えるので、それの練習をしていた。


 そうそうシエルちゃんにも名字がある。

 どうやら実家は村長さんの家みたいで名誉準男爵に任命されている。

 名誉貴族は一代貴族と言って継承されない。


 これは村長などの役人に与えられる最下位の貴族位で、一応だけど貴族扱いされるので、偉いといえば偉い家らしい。


 ビーエストさんはもちろん騎士爵だけど、騎士の位は正確には貴族ではなくて、ナイトという独立したものなので、同時に男爵だったりする人もいる。

 ビーエストさんの実家は男爵家らしい。

 本人は男爵家の長男なので准男爵相当になる。


 楽しい3日間をすごして、馬車を返却して家に戻ってきた。

 なぜかまだビーエストさんがいる。


 エッグバードにびっくりして中を見ていた。


「それですまないが、領主館に来てほしい」

「え、俺たちが?」

「そうです。領主様から感謝状をお渡ししたいと」

「それってもう連絡したんですか?」

「さっき門番を通じて」


 そういえば馬車を置いてくる間に少し居なかったわ。


「内容は?」

「トマトスープを領民および兵に振る舞った件です」

「「あぁぁ」」


 それなら思い当たる件がある。

 ってそのままやんけ。


 ニヤッとイケメンスマイルを決めるビーエストさん。


 しばらくしていると外から声が聞こえた。


「ビーエスト、いるかビーエスト」

「は、ここです」


 俺たちが出ていく。


 丁度時間は夕刻、ご飯前だった。


「迎えの馬車がきてます」

「わかった。いく。ではみなさん、行きましょう」


 俺たちはなかば強制的に馬車に収容されて、街へ入っていく。

 馬車は大型でそして装飾の多い、いわゆる貴族馬車といわれるスタイルのものだった。

 幌ではなくてしっかりした硬質の屋根がついている。


 窓に透明な玻璃はりつまりガラスが使われている。

 ガラスは一部のドワーフが量産化していて輸入され貴族などでは使われているらしい。


「領主様は比較的温和です。大丈夫です。失礼な発言さえしなければ楽しく過ごせます」

「その失言が」

「まあ常識の範囲内だと思いますし、みんなこの歳にしては賢い子なので大丈夫でしょう」

「まぁ」


 ビーエストさんの評価によれば俺たちは賢いらしい。

 確かに同年代でも洟垂れ小僧もいる。


 小僧、坊主と子供のことを言うが、日本語的には仏教用語だろう。

 この世界でもラファリエ教の司祭などは坊主にしている人がいるので、仏教がなくても概念的にはほとんど同じだったりする。

 ただしよっぽどの敬虔な信者でなければ坊主にはしない。

 モテモテになりたいイケメン神官はもちろんフサフサらしい。

 それ以外だと年齢を重ねると不純異性交遊をしない証明として坊主にする年配の教徒はそこそこいる。

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