54.シエル

 ある日、ギードさんが話を持ち掛けてきた。


「なあエド君。スプーンの資金も溜まってきたし、エルダニアに行きたいのだけど、一緒にきてくれるかい」

「え、俺とギードさんだけですか?」

「いや、メルンも行く。ミーニャだけ置いていくわけにはいかないので、もちろん連れていく。そうなるとエド君としてはラニアちゃんも連れていきたいだろう?」

「そうですね」

「旅行というわけではないんだ。そうだな視察かな」

「視察ですか」

「そう。僕たちの元の本業に関係しているといえば関係している。僕たちは見に行く義務があるんだ。責任としてね」

「そうなんですか、理由とか身分は教えてくれないんですか?」

「万が一、何かあったときに僕たちの正体を知っていて敵側に捕まると、それ相応の罰を受けるかもしれない。今はまだ知らないほうがいいと思う」

「そうですか。わかりました。今はそれで納得します」

「すまない。あと旅行資金なんだけど、少し出してくれ、重ねてすまない」

「いえ、金貨何枚かなら余裕ですよ」

「そうか、助かる」


 ぶっちゃけ元から家に資金を入れることは考えていたし、物入りの際には資金を出すつもりでいた。

 ただちょっとタイミングがなかっただけで。

 あとは干し肉や小麦粉を買ったりは前からしている。


 あれから2回目のノイチゴジャムの売り上げも回収した。

 ラニアとは資金の端数について調整をすることになった。


 今まで俺がいわゆる雇用者的な立場で端数があるときは賃金を多めに渡すような感じにしていたのだけど、ラニアはうれしいけれど申し訳ないし、できるだけ差が少ないほうがいいということになったのだ。


 ということで資金は余っている。

 美味しい食材とか買い込んでもいいけど、ゆっくりやろう。


 まず馬車の手配をお願いすることになって、これはギードさんと俺が直接、商業ギルドへ行って貸出馬車を手配してきた。

 馬車のレンタル料はそこまで高くない。しかし保証金というのが痛かった。

 金貨十枚くらいは普通にした。


 これだとギードさんの資金だけでは無理っぽいので、俺がもちろん出した。

 保証金は馬車が戻ってくれば返却される。


 なんやかんや準備を少しして数日経過、出発の前日になった。




 朝、起きて外に出ると家の外にうずくまっている小さい女の子がいた。


 髪の色は銀髪、頭の上に猫耳らしきものが生えていた。


 服装はピンクの服だけどかなりボロが目立つ。

 着たきりなのだろうと思われる。


 俺たちは茶色の服を着まわしているが、こういう色付きの服を買ったのに他になくてボロボロにしている子もスラムでは珍しくない。


 猫耳かと思ったが、いや、タヌキか? イヌかな?

 もしかしてライオン? オオカミという線も。


「あの……大丈夫?」

「みゃうぅぅぅ」


 みゃうと鳴くのは子猫だ。

 ということはやはり原点に戻って猫獣人なのだろう。


「どうしたの?」

「みゃぅぅう、あの……お腹すいたみゃう」


 体育座りから顔だけ上げると目にいっぱい涙を浮かべている。


「お、おう。どれくらい食べてないの?」

「三日くらい、もうわかんない、だって。みゃうぅ」


「わかった。うちで朝ご飯あげるから。立てる?」

「はいみゃう」


 手に掴まらせて立たせる。

 俺より少し小さい。ミーニャとどっこいくらい。

 年齢も五か六歳、俺たちと同じくらいだろう。


 すぐに俺は本来の用事のトイレに行ってくる。

 ご飯の支度はすでにメルンさんにお願いしてある。


 戻ってきてまずは名前を聞くことからはじめてみよう。


「それで名前は?」

「シエル。シエル・モールライト」

「ふむ」


 信用していないわけではないが鑑定。


【シエル・モールライト

 5歳 メス A型 猫耳族

 Eランク

 HP69/135

 MP32/152

 健康状態:C(衰弱)


 自己申告の通りだ。

 数値がかなり減っていて、手当てが必要そうだ。


 さて朝はスープを作ってもらった。

 それに卵と小麦粉を入れてある。


 スープはホワイトソースみたいな感じのものだ。

 お粥がないのでその代わりとする。

 麦が粒だったらオートミールという選択肢もあったが、小麦粉になってしまっている。


 ホレン草とタンポポ草とニンニクのスタミナソテーなどの付け合わせもある。


「いただきます」

「「いただきます」」

「ささシエルちゃんもどうぞ」

「あ、はい。いただきます、みゃう」


 みんなで食べ始める。

 こういっては何だけど、この辺の家の中ではうちの料理が一番美味しいだろう。


「美味しい!」

「そっか」


 バクバク食べるシエルちゃん。

 スープを飲み干したかと思えば、オカズにも手を出して、いろいろな種類の副菜も食べている。

 フキの煮物や、サトイモの煮物などもある。

 もっとも醤油煮じゃないんで、俺的にはあと一歩なんだけど。


「すごく、すごく、美味しかったですみゃう」

「よかったね」

「はいっ」


 女の子の顔はとても綺麗でかわいかった。


「にゃ、にゃう」


 隣でそれをじっと見ていたミーニャがぽつりと鳴いた。


 ふむ。猫獣人VSエルフ獣人もどき。

 さてどちらが真の猫獣人の座を射止めるか。


 どっちもかわいいから、両方というのはどうだろうか。

 仲良くしてね、仲良く。


 多少嫉妬するくらいならいいけど、バトルはだめよ、だめだめよ。


「葉っぱついてる」

「えっ」


 シエルちゃんの口元に緑の葉っぱの欠片がついていた。

 それをミーニャが手を出してシュッと取る。


「あ、ありがとう」

「いいんだよ! にゃはは」

「みゃうぅぅ」


 よかった。なんだかんだ仲良くできそうだ。

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