47.川海苔とサイコロステーキ

 水曜日。


 なんやかんや火曜日は丸々おやすみとなった。

 今日も起きる。


「ミーニャ、おはよう」

「むにゃぁ、エドぉ、おはよう。すきぃ」


 相変わらずべたべたしてくるミーニャだけど、これはこれでかわいい。


「どう、エド調子は?」

「ああ、今日は調子いいよ」

「よかったぁ」


 ミーニャが笑顔で迎えてくれる。

 まったく。かわいいやつめ、うりうり。


 野草と少しの干し肉を使った朝食をいつものように食べる。

 まだ主食はイルク豆だ。


 イルク豆を美味しいと思ったことはなかったのだけど、不味いわけではない。

 ただ食べ飽きているというだけで。

 絶対評価でいえば少し美味しいくらいだろう。


 日本のお米は主食でも美味しかったが、そのへんの違いはよくわからない。

 好みの問題かもしれない。


 メルンさんとギードさんは豆だけ生活でもそれほど不満そうでなかったようだし。

 この世界ではこれが普通なのかもな。

 でもドリドンのおっちゃんが「豆だけなんて」って言っていたからミーニャのご両親のほうが変わっているのかも。


 パンが主食だと今更言われても、いまいち変な感じしかしないし。


 金貨はまだ何枚か余裕がある。

 何か欲しいものがあれば買ってもいい。

 そして食材も高くなければ、そういえば買ってもいいんだよな。

 採取しないといけないような気がしていたが、そうだよな、買えばいいんだ。


 現にオリーブオイルと小麦粉は買ってある。


「じゃあミーニャ。今日はちょっと川へ行こう」

「え、あ、うん」


 買えばいいといいつつ、舌の根も乾かぬうちに採取へと向かう。

 それが俺クオリティー。

 採れるものは採る。


 外に出てみると、朝からガキンチョたちが騒いでいる。

 例の『エドのうんち』騒動がまだ終わっていないのだ。


 遠巻きに眺めてみたのだけど、北地区の子と東地区の子が木の枝を使って、チャンバラごっこのような戦いをしていたのだ。

 この前は仲裁に入って全面戦争は回避されたんだけど、まだ少人数での小競り合いが続いているらしい。


 怪我をしない程度に頑張ってくれ。

 当人であるはずの俺たちそっちのけでよくやるよ。


 ラニアを連れてきて、川へ向かった。


「さて今日はですね。ちょっと水に入って、ほら石に緑の草みたいなのが生えているでしょ」

「うんっ」

「はい」


 二人ともいい返事だ。


「それをこう手で採って壺に入れていくんだ。これが海苔。川海苔だよ」

「なるほどぉ」

「これも食べられるんですね」

「うん」


【カワノリ 植物 食用可】


 川の流れは比較的穏やかで水は透明度が高いため川底の石には海苔がびっしり生えている。

 特にこの辺の浅瀬は絶好の採取ポイントとなっていて、採り放題だ。


「えいしょ、えいしょ」


 水が少し冷たいが温かい天気なので気持ちがいい。

 海苔を採っては壺に入れていく。


 二人も同じように見様見真似でやってくれる。

 ひとりだったらすぐ飽きそうだ。


「ちょっと食べてみ?」

「生でもいいの?」

「あっ、えっと、たぶん大丈夫」

「うん」


 海苔を一口だけ食べてみる。


「うわぁ、なにこれなんだろう、いい風味がする」

「それそれ、それが海苔の風味。結構おいしいだろ」

「うんっ」


 こうして海苔を採って歩く。



 さてそこそこ採れた。

 そそくさと外のガキンチョにバレないうちに家に戻ってくる。


 なんで俺たちがこそこそしなけりゃならんのだ。


 そうしてどこからか持ってきた木の板を取り出す。

 これは森でいつだか密かに取った木を割ったものだ。


「こうして並べて、板海苔にするんだ」

「へぇ、面白いね」

「だろ」


 やっぱり板海苔も捨てがたい。

 そして半分は壺のまま取って置き、そちらは生海苔として使う。


 アイテムボックスへ放り込んでおけば関係ないけど、生海苔は長く持たない。


 お昼ご飯を挟んで適当に過ごす。


 俺は空き時間があれば剣の素振りやスプーン製作があるので、暇でしょうがないという時間がない。

 むしろやろうと思えば無限に仕事がある。


 忙しいなぁ、いやぁ、忙しいなぁ。


 そうしてこうして夕方になった。

 今日のご飯の支度の時間だ。


「まずは海苔のスープだね」

「ふーん」


 普通に野菜のスープに少しだけアクセントの干し肉を入れてひと煮立ちさせる。

 そして海苔を入れる。


「わあぁあ、緑! 緑になった」


 黒っぽい深緑だった海苔が、一瞬で薄い明るい緑に変色していく。


「そそ、これが海苔の特徴というか、面白いところ」

「ふぅうん」


 さて鍋を火からおろしてどかす。


「今晩は、サイコロステーキにしようと思います」

「おぉおぉ、ステーキって?」

「えっと、ミーニャはお肉の塊を焼いて食べたりしたことは」

「ない!」

「よね、うん」


 大イノシシ、通称ワイルドボアのお肉の塊を出す。


「お肉の塊大きい!」

「だな、これはいいところの部位を貰ってきた」


 貰ったといっても有料だけども。


 それをミスリルのナイフでカットしていく。

 食事中に全員でナイフで切り分けると面倒なので、先にサイコロステーキにしてしまう。

 一口大のお肉になった。


「これを焼いていくんだ」

「へぇ」


 フライパンにお肉を入れて塩と山椒を掛けて焼いていく。


 じゅわあああ。


「「ん(ごくり)」」


 ミーニャはいつものように口からヨダレが垂れそうになっている。

 ラニアもさすがに今回は、今にも食べたそうな顔になっていた。


 お肉を焼いていく。


 六面、生のところがないように。

 火はちゃんと通すけれど、焼きすぎないように気をつける。


 魔道コンロを強火にして表面はちょっとカリッとする手前くらいまで焼いて、中はまだジューシーな感じになってる状態を見極めて火から降ろす。


「はいできた」


「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

「「いただきまーす」」


 ラニアがいるので神様に挨拶して食べ始める。


「うわ、ステーキ美味しい。お肉美味しいのお肉!」

「本当、これが本当のお肉なのね」


 薄焼きも美味しいのだけど、サイコロステーキはその厚みで食べ応えが半端ではない。

 いかにもお肉を食べていますという感じで、しかも中はまだ柔らかくてジューシーでとても美味しい。


「わっわっ、このスープも海苔のいい匂い! 好きっ」

「そうですね。私もこの匂いはいいと思います」


 イノシシのサイコロステーキも海苔のスープも大好評だった。


 板海苔はなんとか完成している。

 でも海苔といえば醤油も本当なら欲しいんだよね。

 ないものはしかたがない。

 板海苔は保存食として隅のほうに保管しておいた。

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