26.お茶の権利
月曜日、昼。
お昼ご飯をラニアと一緒に食べる。
本日のメニュー。
イルク豆と干し肉の炒め物。
カラスノインゲン、ホレン草、タマネギの山椒焼き。
フキの塩煮(残り物)。
生タマネギ、レタス、タンポポ草の塩サラダ。
ハーブティー。
「この山椒っていうのもピリッてして、美味しいです」
そういえばラニアには山椒を出すのは初めてだったか。
一緒にいろいろな味を知って、いろいろな美味しいを知ろうな。
「おい、エド、いるか、エド」
「どうしたん?」
「しらばっくれてもダメだぞ。剣を持ってたってメアリーが。どうしたんだよ」
「ああちょっと割のいい仕事があって、お金が手に入った」
「なんだよ、それ。お前ばっかり」
えっと、ガキ大将というやつだ。名前はハリス。八歳だな。
「まあ、いろいろあってね」
「ちっ、金のネタは秘密かよ」
「悪い」
「いや、まあしょうがねえよな」
別に悪いやつではない。
ただあまりいい印象が少ないだけで。
「そうだ、ハーブティーか犬麦茶飲んでくか?」
「あ、ああ、くれ、犬麦茶を。ハーブティーはあんまり合わなかった。犬麦茶は知らん」
「そっか」
お湯は自分たちがお代わりするつもりだったので、すでに沸かしていた。
犬麦茶をすぐに淹れる。
予備のコップ、よかったあった。あんまりうちには数がない。
「サンキュ。お、おう、うまいなこれ」
ハリスは目を丸くする。
「でだ、そのハーブティーと犬麦茶は俺が売ってる」
「はああ??」
「だから俺が仕入れ先で、ドリドン雑貨店に卸している」
「いいのか、言って」
「ああ、お前にその権利をやるよ」
「マジか」
「うん、本当、その代わり売り上げの二割、くれ」
「二割か、まあ、いいかな。どんくらい儲かるんだ?」
「あまり儲からないな、一週間で山盛り二杯ずつ合計銀貨十六枚だな」
「銀貨十六枚って、お前、金貨いくじゃねえか」
「今から売り上げは落ちるから」
「そ、そうだよな、そうか」
金貨を想像してハリスは喉を鳴らす。
普段の日雇い労働だと一日で銀貨一枚が俺たちのいいときの相場だ。
これなら倍近い。
正直、週に二日、スペアミントとイヌムギを収穫して干すと、一日作業になってしまう。
もちろん干している間にスプーン作りは進むけど、今は森の探検などをしたい。
ガキ連中でも、収穫にそれほど差はないし、別にキノコと違って鑑定は必須ではない。
どうせ同業者が出てくるのも時間の問題だった。
それよりは、権利丸ごと売って、一割でももらったほうが得だ。
なんたって権利といえば不労所得だからな。
ハリスなら俺より顔が利くぶん、同業者に睨みも利く。
貧乏なガキ連中が権利を持ってると知れば、引いてくれるかもしれない。
そんなに甘くないかもしれないけど。
「いつやめてもいい。お店から商品がなくなるだけだ」
「まあそうだが」
「とりあえず売れたらそのときは二割だかんな」
「わかった」
別に契約書もない、ちょろまかしてもいい。
さっきも言ったが不労所得だ。
元々無からでてきたような利益を当てにしていない。
「ハーブティーの作り方講習するけど、どうする?」
「すまん、仲間を集めてくる」
ハリスが出て行った。
「ねえ、いいの? 権利を手放したりして、ハリスなんかに」
ラニアがちょっと不満そうに言ってくる。
そういえばラニアはハリスが嫌いだったな。
理由はハリスが昔、俺を目の敵にして、殴りつけたことがあるのが、たいそう不満で根に持ってるんだったか。
いや、あれは売り言葉に買い言葉、俺も悪かった。
『エド君が殴り返さないなら、ハリスが謝るまで私が代わりに殴り続けてやる』
って言ってたのをなだめたのは俺だ。
いやあ、あんときは俺が死ぬかと思ったわ。
とめられてよかった。
「敵も使いようなんだよ。それにあんときは俺も言い返したからお
「そうなの? でも」
「今は別に敵対していない。それに俺のほうがたぶん強い。自分でやるのが面倒くさいことを、やらせてしかもお金がもらえる。こっちは利益しかないんだ」
「そうなんだ、ふんふん」
「時給というのがあって、お茶は頑張っても一週間に銀貨十六枚だろ」
「うん」
「でも一時収入だけど、ジャムはいくらだった? 次はもっと高い仕事を探す」
「あっ、なるほど、そういうことね。エド君は頭がいいわ」
ラニアが理解したようで、笑顔が戻ってくる。
最初ハリスが入ってくるときは、めっちゃ怖い気配してたもん。
よし、これでコスパが悪い仕事が減る。
ちなみにのほほんミーニャちゃんはよくわかっていないもよう。
ミーニャだって六歳だもんな、小学一年生か。
ラニアが賢すぎるだけだ。
俺は前世があるからノーカンな。
あとミーニャはエルフ族なので、成長がそもそもゆっくりかもしれん。
この後、草原前に集合した俺とガキ連中は、スペアミントとイヌムギがどの草か教えた。
間違える子はさすがにいなかった。
その後ハリスの家に行って毛布を引っ張り出して、乾燥工程を説明した。
それからドリドンのおっちゃんに仕事の引継ぎの連絡をした。
「ということでドリドンさん、次からお茶はハリスが仕事するから」
「いいのか?」
「ああ、うん。他にも納品しないといけないものもあるし、アレとか」
「ああアレな。そうだな、了解。頼んだぞハリス。君も立派な仕事だから、よろしく」
ジャムが俺にはあるし、他にも増える予定なので。
ハリスはあのドリドンさんが握手を求めてきたので、得意になって握手に応じていた。
ちょろい。
悪いな俺はもっと時給効率のいい仕事するわ。
子供の仕事にはちょうどいいだろ。
腹黒いのはどうみてもこちらです。あははは。
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