23.ブドウジャム

 引き続き日曜日、午後。


 青リンゴジャムは爽やかな感じだった。

 それに対して試作のブドウジャムは確かな甘さがある。

 好みの問題ではあるけど、ブドウジャムのほうが美味しいと思う人は多いだろう。


 そんな期待の一品だ。


 保管してあるブドウを入るだけ鍋に入れて煮る。


「では煮ます」

「「はーい」」


 後ろではルンルン気分の二人がいた。


「ブドウジャム~ブドウジャム~」


 ミーニャがブドウジャムの即興歌を歌っている。

 ラニアも期待のまなざしを向けていた。


「ねえねえエドくぅん。あのね、お願いがあるんですけど」


 いつになくラニアが甘えた声を出してくる。

 普段丁寧語スタイルの真面目がやると、ちょっとエロかわいい。


「ブドウジャムもその、ひとビン……」


「あっ、ああ、いいよ。ラニアの分、分けておくよ」


「やったっ、エド君、スキッ」


 ガバッと抱き着いてきた。

 おっと今日のラニアちゃんはちょっと積極的だ。

 まだ六歳だというのに、これは魔性の女の子になりそうだ。

 くっついているところが温かい。それにミーニャより全体的に柔らかい。


 いい匂いがする。


 くっ、中身が男子高校生だからな、アレは反応しないけど、心はムラムラする。


 心頭滅却、火もまた涼し、鎮まれ俺のリビドー。


 どりゃああああ。


「はぁはぁはぁ」

「どうしたのエド君?」

「な、なんでもない」


 ちょっとラニアがいつになくエロかったとか言えない。


「鍋見ててあげます、休憩したら?」

「ありがとう、そうする」


 庭に出て、また空を見上げる。


 今日もワイバーンの群れがデルタ飛行編隊で飛んでいる。

 渡りだ。

 数は七匹。


 家族なのだろうか。それとも適当な群れ単位なのかな。

 竜ほどではないけど、ワイバーンは強い。

 そんなワイバーンも寒さには弱いと。


 いつかはワイバーンと戦って、ワイバーンの唐揚げ、食べてみたいな。

 ミーニャとラニアにも食べさせたい。


 ワイバーンと戦う……。

 まずはゴブリンからだ。

 この辺にはあと、一角ウサギ、ワイルドボア、ウルフなんかがいる。


 一角ウサギはモンスターなのか動物なのかわからないけど、魔石が取れるので、モンスターに分類されると思う。

 基本的には臆病で、人間の気配を感じると逃げてしまうので、あまりエンカウントしない。


 だから戦闘してレベル上げをするとしたら、ゴブリンがメインになるのかな。


 お肉が欲しい。


 小さな普通のウサギ、ネズミ、なんかはいるから、小型動物用の落とし穴でも作ってみようか。


 金貨を手に入れたから直接お肉を買ったり、冒険者ギルドとか酒場でお肉料理を食べてもいいけど、どうしよう。


 お金は使っちゃったらそれで終わり。

 だからできれば武器とか将来も役立つものに投資したい。


「さてジャム作りに戻るか」


 すでに第一弾は完成して、ビンに移して今は冷ましているところだった。

 第二弾を火にかけて、煮始めている。


「どう?」

「早く食べたい」

「まあ、そうだね。夕ご飯にはまだ、ちょっと早いね」

「う、うん」


 今日は日曜日だからパンと干し肉の日だ。


 地球だと「肉と血」といえば「パンとワイン」のことだけど、ラファリエ教では「パンと肉」というのが定番のお供え物なのだ。

 だからうちでもちょっと無理して黒パンと干し肉を出している。

 もっと裕福な貴族とかは、白パンとオーク肉のステーキなどを食べて、祭壇に「聖水と黒パンと干し肉」を飾ると、母親トマリアに聞いた。

 聖水が何を指しているかは知らないが、異世界なのでマジもんの聖水の可能性もある。


 ジャム作りは続いた。

 魔道コンロが一口だし、鍋もそこまで大きくないので、大量には一度に作れない。

 家庭料理を対象にしていて、仕事で量産することは考えられていないので、しょうがない。


 夕方、ビン十個をドリドン雑貨店に納品した。


「お、持ってきてくれたか、さすがエド」

「はい。どうぞ、少ないですけど」

「いやいいんだ。どれどれ」


 検品してくれる。

 壺じゃなくて、ビンだから中身がよく見える。

 小さい安い壺もよく塩などを入れるものとして、活用されている。


「オーケーだ。ありがとう、エド、助かった」


 そういって背中をバシバシ叩く。

 やめてくれぇ。俺はひ弱なんだよ。痛い。


  ◇◇◇◇


 日曜日、夜。


 まだラニアが帰っていない。

 結局、うちで一緒に夕ご飯を食べていくことになった。


 本日のメニュー。

 日曜日なので黒パン、一人一個。

 ブドウジャム、リンゴジャム、お好みで。

 主食はイルク豆。

 インゲンとホレン草と干し肉のニンニク炒め。

 フキの塩煮(残り物)。

 レタスとタンポポのサラダ。

 犬麦茶。


 結構前より豪華になったと思う。

 特にお肉の量は倍近い。値段も一人銅貨二枚相当。

 日本円にしたらたったの200円なんだけどね、それを今までは捻出できなかった。


 メルンさんが両手を合わせて祈る。


「ラファリエール様へ、日々の感謝を捧げます」

「「「毎日、見守ってくださり、ありがとうございます。メルエシール・ラ・ブラエル」」」


 定型句を告げる。


「さあ、食べようか」


 今日はブドウジャムがある。

 試食はこの前したので、美味しいのも知っているけど、期待値は高い。


 みんなでジャムをスプーンで取ってパンに塗る。

 そういえば、あのバターナイフみたいなものは存在していない。


「うう~ん。ブドウジャムおいちい」

「美味しい、です」

「ああ、美味しいな」

「美味しいですね」


 みんなパンから食べるんだね。

 ブドウジャム、美味しいもんね。


 パンは硬いけど、モグモグとよく噛んで食べる。


 塩気の強い干し肉とニンニクで、濃い味になった炒め物も食べる。

 それからさっぱりしているサラダ。


 味に変化があるとうれしい。

 特徴のある味が際立っていると、なお美味しい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る