9.黒い少年と青い少女

 引き続き月曜日。

 さて、今日は草原よりは、ほんのちょっぴし危険だけど、森へ行こう。


 貴族街=>平民街=>城壁=>スラム街=>草原=>森


 つまりこういうふうになっていると。

 森は俺たちの生活圏ではないので、ほとんど行ったことがない。


 しかし俺の母親はちょっと変わっているらしく、俺を十回ほど森に連れて行って、指導をしたことがある。

 もちろんミーニャも一緒だった。


 だからスラム街育ちの中では森に詳しいと思う。


 さて今日は少しパーティーメンバーに不安があるので、一人増員しようと思う。


 俺は魔素占いにより嫌われているが、友達ゼロ人ではない。


 スラム街を外壁ぎりぎりを歩いてすぐのところ。

 彼女の家はある。


「おーい、ラニア、ラニアいる?」

「はーい。あらあら、エド君、久しぶり、最近遊んでくれないから」

「いやちょっと、忙しくて」

「そうなんですね」

「それで、君の力が必要になった。今回の任務は『森』だ」

「森? 森に行きたいの? じゃあ私も必要ですね」

「そういうことだ」


 青髪青眼、肩までのストレートの美少女、ラニア、五歳。

 いや、ついこの前誕生日で今は同じ六歳かな。冬生まれだ。


 誰かさんのように、抱き着くわけではなく、ハイタッチを交わす。

 基本は女の子らしいが、知性があり、ちょっとだけ冒険家のような逞しさがある。

 そんな子だ。


 せっかくだから、鑑定しておこう。


『鑑定』


【ラニア・エスフィス

 6歳 メス O型 マギ族

 Eランク

 HP150/155

 MP155/160

 健康状態:B(痩せ気味)


 おお、おまえもか。痩せ気味なんですね。

 それ以外に特徴はない。

 いやいやいや、スルーしそうになったけど人族じゃなくて、マギ族じゃん。マギ族。

 攻撃魔法を得意とする、魔族とのハーフなのではとか言われている、マギ族。

 実際には魔族ではないらしいけれど、ちょっと恐れられて避けられているのは本当だと思う。

 見た目ほぼ人族との違いはわからんから、こういう鑑定とかでないと区別はつかない。

 あーね、すべてそれで説明できるね。


「攻撃魔法なら、私に任せてくださいっ。ゴブリンなら一撃だし」

「おっおお、ばしっとやっちゃってくれ」

「そうね。私たち最強ですもんね」

「そうだ、そうだな」

「あばばば、紅蓮の炎で焼き尽くしてくれるわ」


 そういう子だ。こいつは魔法師というやつだ。

 メルンさんが治療師、ミーニャもその血なら白魔法師、ラニアはその対極の黒魔法師。


「むぅ、エドのバカ」


 ちなみにラニアと俺が会話で盛り上がっていると、たいていミーニャの機嫌にややトゲが見える。

 不機嫌まではいかないけど、嫉妬だわな、嫉妬。

 小さくても嫉妬しまくりんぐ。わかりやすい。


 でもラニアがべたべたして甘えてくるタイプじゃなくてよかった。

 そんな行動されたら、ミーニャが爆発しちゃう。


 白魔法師とか天使とかいうけど、その実、メイスで撲殺するのが、ヒーラーというものだし。

 血を見たくない、気をつけよう。


 でも残念ながら、ミーニャちゃんはまだ白魔法に目覚めていない。


「さて、森へ出発します。点呼確認。一番、エド、準備よし、次っ」

「はいはいはい、二番、ミーニャ、準備よし、次っ」

「さ、三番……ラニア、準備よし、ですよ」

「はーい、ありがとうございます。では出発です」


 スラム街を並んで進んでいく。

 縦に並ぶと、RPGをプレイしているみたいに、マップチップ上を移動するキャラを思い浮かべてしまう。


 勇者、魔法師、ヒーラー。いいバランスだ。

 ただしヒーラーはヒールが使えない!


 黒、青、金が並んで歩く。


 スラム街を抜けた。家がなくなり切り株の並ぶ草原に出る、見通しがいい。


 目的地はここではないけど、今日もいいものがあったら採って歩こう。

 背負いバッグも装備している。


 特に食用キノコが欲しい。


「救世主様、左方向、毒キノコ発見!」


 ヒーラーのミーニャがびしっと指を差す。

 確かに禍々しい紫の10センチサイズのキノコが、切り株に寄り添うように生えている。


 それにしても救世主様はやめてくれ、恥ずかしい。


「どれどれ」


 俺は興味本位で鑑定を掛ける。


『鑑定』


【ムラサキメルリアタケ キノコ 食用可(美味)】


 !!??


 見たか。俺ははっきり見た。「美味」って書いてある。初めてだ。


「おい、青娘と金娘」

「あおむすめ……」「きんむすめ……」


「これ、食べられる。しかも、美味いらしい」


「「ええぇぇ」」


 衝撃の事実だろう。


「持って、帰りますか?」


 恐る恐るラニアが聞いてくる。その顔には「本当に食べるのかしら」と書いてある。


「もち、食べよう。お昼に使おう。それまでに探索だ」


「えええぇぇぇ」


「ラニアちゃん、あのね、エドは天才だから、大丈夫だよ……たぶん」


「たぶん……」


 そこはかとない不安に顔を青くするラニア。

 鑑定は嘘つかない。

 生で食えるかまでわからないけど、嘘はつかれたことはない。


 転生神のアカシックレコードに嘘は書かれていない、俺は神様を信じている。

 せっかく転生したんだし、まだ死にたくない。

 信じてるからな、神様、頼んだよ。



 今日の分のカラスノインゲン、ホレン草、タンポポ草も無事採取した。

 ラニアは少し不思議な顔をしていた。

 顔には「こんな草どうするのでしょうか」と今度は書いてある。

 ラニアの顔はわかりやすい。


 森と草原の境界線にたどり着いた。


「いよいよ森だ」

「ええ、腕が鳴ります」

「私、後ろからついていくね。絶対、置いていかないでね」


 ミーニャは以前、森に行ったときに迷子になりかけたことがある。

 それを思い出したのだろう。


 あれはミーニャが妖精を見たとか言って、ぼーっとしていたのが悪い。

 エルフの連なるもののミーニャが妖精に会えるのは、本当かもしれないけど。


「妖精いるといいな」

「そうね」

「うっ、うん……」


 軽くおちょくっておこう。

 忠告にもなるし、今度はよそ見ばかりはしないと思う。


「ラファリエール様、私たちをお守りください」


 思いのほか、真剣な顔になって、神頼みを始めるミーニャ。

 この国の人はだいたいラファリエ教徒だ。


 シュパッと聖印を切る。


 ちなみに、右から左、左から右に手刀てがたなで切るポーズがそれだ。


 気が付くと、木漏れ日のような光の柱が降り注いでいて、さらに光の粒子が舞っている。

 木漏れ日はたまたまで、粒子はちりなんだろうけど、周りの神聖度が上がった気がする。


 すごいな、ミーニャ。こんなことできたんだ。本当に聖職者なのかな。

 ヒールができないヒーラーとかバカにしてごめんな。


 とりあえずステータス、詳細は出ないけど見てみるか。


『鑑定』


【ミーニャ・ラトミニ・ネトカンネン・サルバキア

 6歳 メス B型 エルフ

 Eランク

 HP110/110

 MP188/220

 健康状態:B(痩せ気味)

 状態異常:祝福


 出た。出ました。神様認定、状態異常「祝福」。

 あとMPが減っている。何かを使証拠だ。


 ミーニャ、恐ろしい子。

 青い少女、ラニアが全部もってく回に今日はなると思ってたのに、持っていったのは穴馬のミーニャだ。


 聖女、穴馬のミーニャ、今後ともよろしくお願いします。

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