第25話 ほのぼのモフモフ雪山へ

 せっかくSSO最強パーティーが出来上がったのだから、一番難易度の高い材料を採取しにこうということになった。

 のの花が欲しいのは「雪煌石」という白く透き通った鉱石で、第一層の最北にある雪山で採取できる。

 採掘場所には雪竜と呼ばれるボス級モンスターがいるため、それを倒さないことには雪煌石を入手できない。


「わあっ!!ここが雪山エリアかぁ!!」


 真っ白な山々を見て、アイリンがテンションを上げる。

 対してのの花は、しまったという顔をしていた。

 今のみんなの装備は、グレンが薄い半そでの服に黒ローブ、アイリンが半そでの服にショートパンツ、のの花が【非常識な生命体】を武器スキルに持つ特殊鎧。

 これでは、とてもじゃないが雪山の寒さに耐えられない。


「今更で何ですが、雪山にこの格好だと厳しいかもしれません。街へ温かい服を買いに戻った方がいいかも……」

「あ、それは心配ないかもっ!!お姉ちゃんとユノちゃんは、どれくらいで雪竜を倒せる?」

「う~ん。公式発表のステータスを見た感じだと、1分はかからないかな」

「私も……同じくらいかな……」


 アイリンが「何だこの人たち」という顔をする。

 のの花もグレンも、別に強がっている訳じゃない。

 本当に1分で倒せてしまうのだ。激レア素材を守るボス級モンスターを。


「1分なら、このままいってもいいと思うよ~」

「え?どういうこと?」


 ユノが聞くと、アイリンは左手人差し指に光る指輪を見せた。

 ただのオシャレではなく、装備品のようだ。


「おいでっ!!シロ!!」


 アイリンが指輪を掲げて叫ぶと、のの花たちの目の前に大きなシロクマが出現した。

 唖然とするのの花。

 グレンは知っていたので、特に驚いていない。


「私の職業は回復士なんだけど、シロクマのシロが私の代わりにダメージを与えてくれるの。だから私は、この子を回復してればいいってこと」


 アイリンは、いわゆるテイマーに近い。

 SSOにテイマーはないが、レアなスキルや装備として動物をテイムできるものがある。

 のの花の獲得した【海の王】もその1つだ。


「す、すごい……」

「ふっふっふ~。でしょ?」


 自分が褒められたと勘違いしたアイリンが、自慢げに胸を張る。

 しかし、のの花はシロの方に飛びついた。


「すごいモフモフ~はあ、天国だぁ……」

「ええ……」


 シロに頬ずりするユノを見て、ショックを受けるアイリン。

 グレンが優しく頭を撫でて慰めた。


「でも、このモフモフなら雪山でも暖かいね!!アイリンちゃんナイス!!」


 シロをモフりながらのの花にグーサインを出されて、アイリンも機嫌を直す。

 そしてシロに指示を出した。


「シロ、私たちを抱っこして!!」

「くう~ん」


 シロは3人を抱えて、2本足で立つ。

 腕の中にすっぽり抱えられて、みんなポカポカだ。


「目指すのは頂上?」

「そうだよ~」


 ユノが答えると、アイリンは雪山の頂上を指差してシロに言った。


「シロ、あのてっぺんまでお願いっ!!」

「くう~ん!!」


 シロは、2本足のまますごいスピードで駆け出した。




 モフモフ天国でのの花が「ほわぁ~」と溶けていると、あっという間に頂上へたどり着いた。


「ここが……雪竜の巣穴ですね……」


 シロの前に、パックリと洞窟が口を開けている。

 この中に、雪竜と雪煌石が眠っているのだ。


「ギリギリまでシロで行こうか。雪竜がいたら、お姉ちゃんかユノちゃんがすぐに倒して」

「私が……行きます……」


 グレンが名乗りを上げた。


「ユノさんに……私の戦い方……見ておいてほしいので……」


 ギルドメンバーとしては、お互いの戦い方を知っておいた方がいい。

 ユノは「分かりました」と答えた。

 あくまでもグレンの戦い方が見たいだけで、シロから離れたくない訳ではない……多分。


 奥の方に進むと、キラキラと光る鉱石があちこちに埋まっている。

 そして最深部の中央で、一際眩い輝きを放つ雪煌石が見つかった。

 もちろん、そこには雪竜もいる。


「グ~グ~グ~」


 雪竜は、丸くなってピクリとも動かない。


「寝てるのかな?」

「寝てるみたい。でもいつ起きるか分からないから、倒した方がよさそう」

「じゃあ……斬りましょう……」


 3人がそんな会話を交わしていると、大きなあくびを1つして雪竜が起きた。

 鋭くぎらついた眼が、確かにシロを捉える。


「ゴガァァァァ!!」


 雪竜が目覚めの方向を上げた。

 それは戦闘開始の合図でもある。


「グレンさんお願いしま……ってもういない⁉」


 のの花が見ると、さっきまでグレンがいた場所にはもう誰もいない。

 アイリンが自慢げに呟いた。


「よそ見しない方がいいよ、ユノちゃん」


 のの花が慌てて雪竜の方に視線を向けると、その腹部に鋭い閃光が走った。

 グレンが雪竜を斬り、その勢いのまま空中に高く飛び上がっている。


「ああ、もう倒しちゃうよ!!1分も掛かんなかった!!」


 アイリンの声と同時に、グレンが剣を振り下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る