東京メメント(深度1)
深呼吸しすぎ侍
0
季節は春を迎えた頃か少しだけ肌寒い。
高層ビル屋上。目の前は遮るものの無い開放的な世界。
日常と非日常の線引きは何処にあるのだろうか?
駅のホームの一歩先、赤信号の横断歩道。
ひょっとしたら先程乗り越えたフェンスがその線引きなのだろうか。
フェンスの向こう側にはきちんと両足揃った革靴と手紙。お陰で足の指が痛い。フェンスを超えた後でも良かったかと思ったがなんか勢いで靴下のまま乗り越えた。
ここにきて、はてと思う。
なぜこの様な時、人は靴を脱ぐのだろうか?
様式美に従ったは良いが、『何故』が気になって一歩が踏み出せない。
もし異世界に飛んだならきっとこの答えを知らないまま永遠に彷徨うことになるのだろう。
仕方なくスマホを取り出して調べようとした矢先、突風が吹いた。
足場は数十センチと頼りなく、バランスを崩したこの身はフェンスを掴もうとして空を切り、そしてスマホは手から離れた。
スマホと共に落下する。
ゆっくりと巡る世界。
一足お先にアバヨとスマホ。
本体と液晶画面が地面との衝撃で真っ二つにお別れ。薄型が更に超薄型へ進化。
そして次は我が身。数コンマ秒後には地面に激突。
するはずだった。
そう言えばこんな時、絶体絶命の危機的回避をする為、走馬灯のように過去経験した記憶の早回しがあるとかないとか。
全然出てこないな。
というか永いな一瞬。
いつのまにかつぶっていた瞼を開ける。
少し離れたとこにある逆さまの噴水。
水滴が一粒一粒宙に浮かんだまま止まっている。
ふむ?
空中で身を翻す。猫の高いところから落ちた時のあんな感じ。
運動能力は学生だったころ、教室でも比較的下の方だ。
しかしなにせ時間が止まっている。いや少しずつだがゆっくりと進んでいるため姿勢制御はなんとかなった。
そしてすたすたと噴水に近づく。
宙に浮く水滴に触れてみる。
触れた途端、水滴は触れた反対側へ勢いよく伸びた。
ふむ?
他の水滴にも触れてみる。
しばらくして噴水は透明なイガ栗のトゲトゲオブジェと化していた。
なんだこれ?
そして地面の惨状に気がつく。
自身の後ろにアスファルトに足跡のようなひび割れ。
ふむふむ。
どうやら自分にもようやく能力に目覚めたらしい。
しかしだからなんだというのだ。
誰もいない地球で能力に目覚めたからどうだというのだ。
死を先送りにされた青年は、もう沈むことのない永遠の黄昏の街の中、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます