#014 火の器
カオルが指さす先に注目しながら、あなたは言う。
「ランプ? あれは私が灯したんだが」
「あの火が灯っているということは、あなたも正式に火の器になったってことでしょ。ならばもう、体面を気にする必要はないわ」
カオルは露骨に姿勢を崩して見せた。
「火の器? それはつまり……」
あなたは言い淀んだ。それは彼らの教団名だろうか、信徒の呼称だろうか。
「ヒモリ、あなた何もこの人に話していないの?」
「いい機会だから、君に説明してもらおうと思ってね」ヒモリが言う。「頼むよ」
ホノオカオルはヒモリヌシをキッと睨んだが、すぐに表情を戻してあなたに向いた。
「エイカ。いい? 「火の器」っていうのは、火を伝える私達のことよ。私達は言葉や命を、いいえ、あらゆる物事を火の現れとして見るの。あなたや私、この机や家や村、大地や星々。鳥が飛び、草木が芽吹き、四季が巡り、人が野を耕し、技術が生活様式を変え、文明が栄えたり滅んだりする。この世界のあらゆる物と事は、火の様々な現れ方によって成り立っているってこと」
「ちょ、そんな話聞いてなかったぞ」あなたは抗議する。「やっぱり宗教じゃないか」
ひょっとしたら、あなたはそれを「宗教」とは表現しないかもしれない。それはあなたにとって「哲学」かもしれないし、「物理学」かもしれない。
「黙って聞いて。とりあえずそういうものだと思ってみて、ね?」
その瞬間、あなたの手の甲がやわらかくきめ細かなものを感知した。あなたは久し振りに女性の肌に触れたのだった。あなたの凝り固まった思考を解きほぐすには、それだけで十分だった。
「続けなさい、ホノオカオル。私は君の話を聞くために、ここにいる」
あなたは手の甲を返して彼女の手を握り返そうとする。
#015へ進む。
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