会談へ
その後男爵屋敷に残った男爵の家臣や兵士たちをまとめると、百人ほどはいることが分かった。その人たちの協力を得て混乱しないよう呼び掛けると、周囲はひとまず落ち着く。
そしてお昼を過ぎたころ、屋敷にレセッタたちがやってくる。
「調子はどうだい? 短時間で随分収まったね」
すっかり秩序を取り戻した屋敷の様子を見てレセッタは感心したように言う。
「思ったより皆が俺に従ってくれて驚いた」
「さすがだねぇ。まさかそこまでやってくれるとは思わなかった」
が、すぐにレセッタは声を潜めていう。
「まあ人間なんてこんなもんさ。所詮職業しか見てないんだよ」
「……。それにしても、街も大分落ち着いたな」
微妙な話題となったので俺は話題を変える。
実際、朝教会を出たときは蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた街はいまは少し慌ただしいぐらいにしか見えない。レセッタたちも色々頑張ったんだろう。
「それに関してはあんたのおかげさ。あたしはあんたが男爵の代わりに残った軍勢をまとめてくれると言いふらしたからね」
「おいおい、とんだ策士だな」
それで俺が失敗していたら大変なことになっていただろうが、その時はどの道だめだと思うと賭けに出るのは正しかったのかもしれない。
「おかげで人々は大分落ち着いてくれたよ。と言う訳であたしは伯爵に会いに行くわけだが、あんたも来てくれるよね?」
「え?」
そこまでするつもりはなかったので俺は驚くが、レセッタは逃がさないという目で俺を見てくる。
「話はあたしがする。とはいえ、ある程度のお供を連れていかないと格好がつかないだろ?」
レセッタは少し硬い表情で言う。
豪放磊落な彼女でもさすがに街を代表して貴族と交渉するというのは緊張するのかもしれない。それに、確かにレセッタに従っている神官たちは単なる食い詰め者の集団であり、腕が立つ者はいない。
もちろん交渉に赴くなら直接斬り合いになったりすることはないだろうが、向こうは貴族だろうから腕の立つ家臣が大勢いるだろう。その中に何の地位もない女が一人で行くのは不安になるのは分かる。
「交渉とかは基本的にやってくれるんだな?」
「もちろん」
「そういうことなら……」
「大丈夫ですか?」
ティアが少し不安そうに言う。
「ああ。それと俺が行くのはいいが、リンだけは連れていかせてくれ」
「あたしは構わないが、向こうがどう思うか……まあいいだろう」
リンを選んだのは、万一の時に剣の腕が立つからというのと、ティアを連れていくと伯爵に正体がバレてしまうかもしれないと思ったからだ。
それに俺の留守中何かあったときに一番機転を利かせてくれそうなのはティアだろう。
「ではティアとフィリアは留守を任せる。屋敷だけでなく、街に何かあったり、もし伯爵の軍勢が何か悪さをしてきたら対処をしてくれ」
「わ、分かりました」
ティアが不安そうに頷く。とはいえ、ただ話に行くだけだからそんな大したことにはならないと信じたいが……。
「じゃあ行こうか。すでに話は通してある」
相変わらずレセッタは仕事が早い。
そんな訳で俺とリンはレセッタとともにライオット伯爵軍へと向かうことになった。他に、レセッタに従っている女神官が一人、そして兵士が二人ついているが、その三人は正直あまり頼りになりそうではなかった。
街を出て少し歩くと、目の前に大軍が見えてくる。数は二千ほどいるだろうか、この軍勢が街に入ってきたら一たまりもないだろう。仮に平和的に入ってきたとしても、強引に民家で宿を借りようとしたり、食糧を奪おうとしたりするだけで大混乱だ。せめてそれだけでも阻止出来ればいいのだが。
やがてレセッタが白旗を取り出し、掲げながら歩いていくと、向こうからも白旗を掲げた使者をやってくる。
「お前がこの街の代表のレセッタか」
「そうだ。街の扱いに対して交渉にきた」
「この者たちは?」
男は不審げに俺たちを見る。レセッタの連れてきた神官に、旅装束の俺や職員風の服を着たリンを見て何の集団か疑問を抱いたのだろう。
「みなあたしの家臣だ」
「……まあいいだろう」
男はおそるるに足らずと思ったのか、俺たちは中へ通されるのだった。
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